概要
統合失調症は、幻覚や妄想といった精神病症状や、意欲が低下し感情が出にくくなるなどの機能低下、認知機能の低下などを主症状とする精神疾患です。日本では約80万人の患者がいると推定されています。世界的には約100人に1人の割合で発症すると報告されており、比較的一般的な病気といえます。発症年齢は主に10代後半から30代頃とされていますが、中年期以降に発症することもあります。
統合失調症の発症メカニズムはいまだ完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達の機能障害、遺伝的素因、環境要因の相互作用によると考えられています。あくまで仮設ですが、もともと統合失調症になりやすい要因を持った人に、進学や就職、結婚など環境の変化、人間関係の大きなストレスや緊張などが生じることが発症のきっかけになるのではないかと考えられています。
主な症状には、幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情表現の乏しさなどの陰性症状、集中力や記憶力の低下といった認知機能障害があります。特に陽性症状の幻聴や被害妄想が特徴的で、これらの症状は本人にとっては現実のように感じられるため、病気であると自覚することが難しい場合があります。
治療の中心は薬物療法であり、これに加えて心理社会的治療を行い、患者の社会適応能力や生活の質の向上を目指します。
統合失調症は回復可能な病気であり、早期発見と治療の継続が重要です。治療を行うことで症状がコントロールされている状態を維持しながら、患者それぞれのペースで社会生活を送ることが可能となります。
原因
統合失調症の原因は明らかになっていませんが、主な要因としては、脳内の神経伝達の機能障害、遺伝的素因、そして環境要因が挙げられます。
統合失調症の発症には、これら複数の因子が関与し、もともと生まれる前から統合失調症になりやすい体質に加えて、ストレスなどの環境要因をきっかけとして発症すると考えられています。遺伝的側面については、統合失調症は単一の遺伝子によって引き起こされる遺伝病ではないものの、発症しやすい体質には遺伝的要因が関与していると考えられています。
症状
統合失調症の症状には陽性症状、陰性症状、認知機能障害があります。症状はさまざまで、実際に現れる症状や時期は一人ひとり異なります。
陽性症状
陽性症状とは、実際に起こっていないものを患者本人のみが体験する幻覚、妄想、思考と自我の障害などの症状のことをいいます。
幻覚
幻覚の症状としては、周囲に誰もいないのに患者を批判したり脅したりするような声が聞こえる、頭の中で複数の人間が会話しているように聞こえるなどの幻聴、存在しないものが見える幻視などがあります。
妄想
妄想とは、現実には起こりえないことを信じ込んでしまう状態のことです。妄想の症状としては、誰かに監視されている、誰かに悪口を言われている、いやがらせを受けているというような被害妄想や、テレビやインターネットに自分のことが流されているなどの関係妄想があります。
思考と自我の障害
そのほかの症状として、思考と自我の障害があります。思考の障害とは、考えにまとまりがなくなることです。考えをまとめることができず、めちゃくちゃな会話をしてしまったり、状況に合わないちぐはぐな行動を起こしたりします。自我の障害では、自分と外の世界との境界線が曖昧になり、自分の考えがほかの人間に支配されていると感じるようになります。
陰性症状
陰性症状には意欲や自発性の低下、あるいは意欲の減退、喜怒哀楽などの生き生きとした感情表現が乏しくなることなどがあります。
友人付き合いをしなくなったり、家に引きこもるようになったりするほか、入浴や着替えをしなくなる、見た目を気にしなくなるといった行動として現れます。
認知機能障害
認知機能障害とは集中力や記憶力が低下し、ものごとをうまく処理できなくなることをいいます。
たとえば、目の前の仕事や勉強に集中できなくなったり、他人の指示どおりにものごとをこなせなくなったりします。統合失調症ではこのような障害が現れ、学業や仕事、人間関係など生活全般に影響が及びます。
検査・診断
統合失調症を正確に診断するような、単一の検査は存在しません。患者が訴える妄想や幻覚などの陽性症状や陰性症状を詳細に評価しつつ診断を行います。
また、統合失調症に似た症状が出るほかの病気を除外することも大切です。これには、気分障害やてんかん、甲状腺機能障害、薬物による精神障害などが挙げられます。
これらほかの病気との鑑別を目的として、心理検査、血液検査、頭部CTや頭部MRI、脳波検査、髄液検査などが必要に応じて行われることになります。
治療
統合失調症の治療では、薬物療法や心理社会的治療などが行われます。これらの治療により症状緩和を図り、通常の社会生活を送ることを目標とします。
また、統合失調症は慢性的に経過し、症状が再燃することもあります。そのため、状況に応じた治療を継続的に行っていくことが重要です。
薬物療法
抗精神病薬を中心に治療を行い、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などを症状に合わせて使用します。以下では、主な治療薬である抗精神病薬についてお伝えします。
抗精神病薬
抗精神病薬とは統合失調症の治療薬で、幻覚、妄想などの陽性症状や不安・不眠・興奮、あるいは感情表現の低下などの陰性症状を改善する目的で処方されます。
抗精神病薬は患者によって、また症状の強さによって必要となる種類や量が異なるため、試行錯誤しながらその患者に合ったものを選択することになります。抗精神病薬の種類は、定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬に大別されます。薬ごとに特徴があり、効果と副作用を確認しながら調整します。
服薬の継続
抗精神病薬によって症状が改善した後も、薬物療法を継続します。薬には再発を予防する効果があり、中断すると高い確率で再発するリスクがあります。再発を繰り返すと症状が強くなり、治りにくくなる可能性があります。
毎日の服薬が困難な場合は、1回の注射で効果が長く続く薬に変更することもできます。症状が治まっても勝手に服用をやめたりせずに治療を続けることが大切です。
薬の副作用
抗精神病薬には副作用がありますが、多くの場合、適切な管理と調整により軽減できます。主な副作用には、錐体外路症状(動作がゆっくりになる、手が震える、体がこわばる、じっとしていられないなど)、のどの渇き、便秘、眠気、体重増加などがあります。口や手足など体の一部が勝手に動く症状が現れた場合は、長期服用による遅発性ジスキネジアの可能性もあります。
副作用が気になる場合は、自己判断で服薬を中断することは避け、必ず医師に相談するようにしましょう。薬の種類や量の調整、あるいは副作用を抑える薬の追加により、副作用を最小限に抑えながら症状改善の効果を得ることができます。
心理社会的治療
病気の対処方法を身につけ、安定した社会生活を送れるようにすることを目標に専門家と話をしたり、リハビリテーションを行ったりする心理社会的治療が行われます。
心理社会的治療には、心理教育、認知行動療法などの心理療法、生活技能訓練(SST)、作業療法などがあり、患者の自己理解や他者との関わり方、日常生活や社会復帰に必要な技能の習得などを目指します。
心理教育
病気や治療について正しい知識を身につけ、難しい状況を乗り切るための対処法などを学ぶ治療法です。
対象となるのは本人、もしくは家族です。病気や治療に対して前向きに考えられるようになることを目指します。
作業療法
軽作業や運動、リラクゼーションを通じて、生活に必要なスキルや応用力、社会適応力を高め、社会参加を促します。デイケアなどでは、より社会的な集団プログラムを実施し、コミュニケーション能力の向上や対処方法の習得を目指します。
生活技能訓練(SST)
ロールプレイやモデリング(手本)などの手法を活用し、コミュニケーションの取り方やストレスへの対処法を学び身につけることで、社会生活をより円滑に送れるよう支援します。
抗精神病薬などの長期使用によって起こる副作用
提供:田辺三菱製薬株式会社/ヤンセンファーマ株式会社
監修:慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 准教授 竹内 啓善先生
自分の意思とは関係なく体が動いてしまう…それは「遅発性ジスキネジア」かもしれません
「口や舌が勝手に動く」「手や足が勝手に動く」など、自分の意思とは関係なく起こる体の動きは「遅発性ジスキネジア」かもしれません。抗精神病薬などを長期間服用することによって起こることが分かっています。「遅発性ジスキネジア」は、なるべく早く気づき、悪化する前に改善方法を考えることがとても大切です。
ご自身の判断で抗精神病薬を減らしたり中止したりすることはとても危険です。絶対に行わないでください。気になる症状がある場合には、医療機関で相談しましょう。
「遅発性ジスキネジア」チェックリスト
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