インタビュー

子どもの統合失調症(破瓜型統合失調症を含む)前兆や症状、家族の接し方は?

子どもの統合失調症(破瓜型統合失調症を含む)前兆や症状、家族の接し方は?
松本 和紀 先生

東北大学 大学院医学系研究科 精神神経学分野 准教授、みやぎ心のケアセンター 副センター長

松本 和紀 先生

この記事の最終更新は2017年06月21日です。

若年者での発症が多いとされる統合失調症は、未成年、特に思春期という多感な時期に発症することで不安・心配に思われる患者さんやそのご家族が多くいます。適切な治療を施さなければ社会生活が困難となりハンディキャップを負ってしまう場合もあります。もし、自分の子どもが統合失調症と疑われるとき、また統合失調症と診断されたとき、ご家族はどのような対応をすればよいのでしょうか。子どもの統合失調症やご家族の接し方について、東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野 准教授の松本和紀先生にうかがいました。

統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状、感情表出・意欲の低下などの陰性症状、思考・行動のまとまりの悪さなどの解体症状が生じる精神疾患です。神経発達の問題やストレスを含んだ環境的な要因が発症にかかわることが指摘されていますが、はっきりとした原因はいまだに不明です。主に思春期〜青年期の若い方が発症しやすいといわれています。10歳以下の小児の発症はまれです。

従来は、特に思春期ごろに発症して、その後に慢性的に経過する統合失調症は「破瓜(はか)型統合失調症」と呼ばれることがありました。この破瓜型統合失調症では、一般的な統合失調症の症状としてイメージされる「私を隠しカメラで監視し続ける組織がある」「私の行動に逐一話しかけてくる声がする」といった著しい妄想・幻覚の症状はなかったり、あってもあまり目立たなかったり、一時的であったりします。代わりに言動や行動がまとまらなかったり(解体症状)、感情的な反応や意欲が乏しいといった症状(陰性症状)が目立つとされていました。また、破瓜型という言葉の代わりに、解体症状が目立つ場合には、解体型統合失調症という言葉が使われることもあります。

この破瓜型、あるいは、解体型の統合失調症のほかには、妄想や幻覚が症状の中心となる妄想型統合失調症、激しい興奮やまとまらない行動、あるいは、逆に外からの刺激に著しく反応が乏しくなる症状がみられる緊張型統合失調症というものがあります。

しかし、思春期頃に発症する統合失調症は、必ずしもこのような、破瓜型のような特徴をもつとは限りません。統合失調症の症状や経過は様々で、どの類型にもあてはまらない「鑑別不能型」の患者さんも多いのです。また、最初に当てはまった類型によって予後が決まるわけではないなど、こうした類型にはあまり意味が無いとする研究結果も多くでるようになりました。このため、最新の米国の診断基準(DSM-5)では、こうした分類はやめることになったのです。専門家の間でも、こうした統合失調症の類型分類については、意見の違いがあります。

統合失調症は、必ずしも幻覚や妄想から始まるわけではありません。最初はうつ、不安、引きこもりなどの症状から始まることも多いのです。子どもの場合ですと、話をしていて辻褄が合わない、話しかけても反応しない、嬉しい・悲しいといった感情表出の低下、友人などとうまくコミュニケーションがとれない、不登校、学力の低下というものが統合失調症の始まりの時期に症状として現れることがあります。また、被害妄想的な言動がみられたり、時折の幻聴などが症状として出てきたりすることもあります。

しかしこれらの症状は統合失調症以外でも起こりうるものです。ですから、初期の段階で統合失調症であると断定することは難しいといえるでしょう。

もし保護者など家族の方からみて「理由はわからないけれど、何か精神的な問題を抱えていそうだ」「様子がおかしい」と感じ、さらに、本人が悩んでいたり、本来の能力を発揮できなかったりという状態が続くようでしたら、まずは精神科医などの専門家に相談することをおすすめします。

かつて、破瓜型統合失調症といわれていた思春期ごろに発症する子どもの統合失調症の一部は、予後が不良といわれていました。しかし実際には、思春期頃に発症した場合であっても、回復されて社会生活を送られている方も多いため、一概に予後が悪いとはいえません。

子どもの統合失調症で予後が不良な場合には、疾患そのものが予後に影響しているという場合もありますが、統合失調症の発症による二次的な影響も大きいことがあります。

統合失調症を発症し学校に行けなくなってしまったことによる学力の低下や進学の断念、他者とコミュニケーションを取る機会が減ることで、発達段階に応じた対人関係の構築が妨げられるなど社会性の低下が二次的な影響として起こる可能性があります。統合失調症により社会で生きていくために必要な能力を身につける機会が減ってしまったことで、社会復帰が遅れてしまい、結果的に予後不良となるケースもあると考えられます。こうした二次的な影響は、心理・社会的な支援によって回復する見込みがあります。医師を含めた様々な支援者と相談し、焦らずに、本人に合わせたペースで一歩ずつ前に進んでいくことが大切です。

統合失調症では、記憶力や注意・集中力などの認知機能の低下が起こることが知られています。まったく認知機能の低下がない、またはごく軽度の低下の人もいれば、生活に支障が出るほどの人もいます。しかし、多くの統合失調症の患者さんは、認知症のように経過とともに認知機能が低下するということはありません。

一方で、統合失調症の患者さんは認知症の罹患率が健康な方よりも上昇するという研究報告もあります。なぜ統合失調症であると認知症の罹患率が上がるのか、明確な理由はまだ分かっていません。統合失調症の一部には、認知症と共通する脳神経系の問題があるのかもしれません。また、認知症の初期症状と統合失調症の症状が似ていることから、認知症の患者さんがはじめ統合失調症と誤診されてしまっている例もあるかもしれません。実際に、若年性認知症や前頭側頭葉型認知症は統合失調症とよく似た症状を示すため、初期の鑑別は困難です。

その他にも、統合失調症に罹患したことによる生活習慣の変化がその他の疾患を罹患するリスクを上げている可能性もあります。たとえば引きこもりなどによる運動不足、喫煙、食生活の乱れが糖尿病などの生活習慣病を招くケースも少なくありません。さまざまな要因はあるものの、統合失調症を含めた精神疾患の方は、身体的な健康を害すことや、自殺のリスクも高いため、健康な方よりも寿命が10〜20年短いというデータもあります。

子どもが統合失調症になってしまったとき、保護者などご家族はその接し方に悩むものです。

よく、「話をよく聞いてあげましょう」「その子らしさを見つけて褒めてあげましょう」「自分たち(家族)は味方であることを伝えましょう」など具体的な接し方のアドバイスを受けることも多いと思います。確かにこれらの実践も大切です。しかし「自分がなんとか支えなきゃ」と思うばかりに精神的な負担を抱えるご家族も多くいます。また10代、20代という多感な時期に子どもが精神疾患を抱えてしまったことそのものにご家族が不安を覚えることも少なくありません。思い悩み、ご家族自らも精神科を受診されるケースもあります。

そこでまず、ご家族の方には「患者さんのことで悩むのは普通のことで、おかしなことではない」ということを知っていただきたいです。ですから、一人で抱え込まずに、相談することが大切です。ご家族や信頼できる方に相談することも良いでしょう。もちろん、医師などの専門家に相談することも役に立ちます。

実際に、患者さんのご家族への心理社会的支援が、統合失調症に対する治療法としても効果が高いことを示す研究結果も出ています。

イギリスのNICE(National Institute for Clinical Excellence)の統合失調症ガイドラインでは、家族支援が統合失調症に対する心理社会療法の第一選択とされています。また、このガイドラインでは、家族へのカウンセリングなどを含む支援を3〜12か月のあいだに10回程度行うことが好ましいといわれています。

日本でも、家族への心理教育などの家族支援は行われています。しかし、残念ながら、家族療法を個別に行うための人的リソースや時間的リソースなどは限られており、診療報酬でも十分にカバーされていません。

理想はイギリスの統合失調症ガイドラインのように積極的に家族へのカウンセリングなどの支援を充実させることですが、現状ではまだ不十分と言わざるをえません。これからは、統合失調症のご家族の支援のためのリソースの確保が急務です。

現場の医療従事者の方も、もっと家族支援に目を向け、患者さんの統合失調症を治療していくチームの一員としてご家族を支援するという意識を再認識しておくべきでしょう。

記事2『統合失調症の治療方法-薬物療法で使われる抗精神病薬 副作用で太るのはなぜ?』では統合失調症の治療、薬物療法で使われる抗精神病薬と副作用についてお伝えします。

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