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インタビュー

幻覚・妄想とはなにか-統合失調症の診断(1)

幻覚・妄想とはなにか-統合失調症の診断(1)
針間 博彦 先生

東京都立松沢病院 精神科 部長

針間 博彦 先生

統合失調症の診断には、まずその症状をみていく必要があります。しかしその診断基準をあてはめようとするときにも、非常に難しい問題があるといいます。精神科救急病棟と早期支援青年期外来を担当され、多数の患者さんと向き合っておられる東京都立松沢病院精神科部長の針間博彦先生にお話をうかがいました。

米国精神医学会が発表した診断マニュアルであるDSM-5をみると、統合失調症の特徴的症状として、(1)妄想、(2)幻覚、(3)解体した(まとまりのない)会話、 (4)解体した(まとまりのない)行動や緊張病性行動、(5)陰性症状(社会性低下と感情表出の減少)があげられています。この驚くほど簡素な診断基準をみると、誰でも統合失調症の診断ができそうですが、実際はそれほど簡単ではありません。そもそも、何を妄想と呼ぶのか、何を幻覚と呼ぶのかというところで誤ると、そのあとの診断も治療もすべて誤ることになってしまいます。

その人が心の中で体験していることが幻覚や妄想かどうかは、もともとのその人の性格、育ってきた環境、現在の生活環境、知能など、さまざまなものに照らし合わせて判断しなければなりません。あとでもお話ししますが、統合失調症の症状としての幻覚や妄想は、それまでのその人らしさから断絶した症状でなければなりません。つまり、その人のもともとの性格や考え方から生じたものとして理解できるものは、統合失調症の幻覚や妄想ではないのです。

ですから、幻覚と妄想があればいいと言えるほど統合失調症の診断は簡単ではありません。患者さんが語っていることは幻覚や妄想かもしれませんし、あるいはその人がもともと持っている独特の考え方からきているものであり、統合失調症の幻覚や妄想と呼ぶ必要がないものかもしれません。このように疑いがあるものは疑いとして残しておくことが重要です。ただ単に診断基準に機械的に当てはめようとすると、かえって誤診が生じかねません。もともとのその人のあり方を把握した上で、今の状態がそこから理解できない異常な状態かどうかを十分に検討し、そうであれば初めてそれは疾患の症状ではないか、精神病ではないかと考える段階になります。

経験の少ない医師にありがちなことですが、「人がいないのに声が聞こえることはありますか」とか「周りから悪口を言われていると感じがすることはありますか」などと、チェックリストを読み上げるような質問をしてしまうことがあります。しかし、こうした質問だけでは、どんな人がどんな状況でどんなことを体験しているかが分からないので、どうしても誤診が起こりやすくなります。症状を正しく把握するには、まずその人が困っていることを十分に聞いて、それがどんな状況で起こっているのかを聞いていくことから始めて、その後でそこに幻覚や妄想が存在しているか確認していく必要があります。

そもそも、幻覚や妄想があれば強制的にでも治療しなければならないということはありせん。統合失調症に限らず、精神科医療は患者さんや周囲の人が困っているときに、そうしたニーズに応じて診断と治療を行うという、あくまで受身の立場でなければなりません。統合失調症の場合は、本人が困ることは、たとえば幻聴や被害妄想のために周囲が怖くて外出できない、不安や緊張が続いて眠れないなど、生活上のさまざまな支障があります。また、被害妄想に基づいて周囲の人に攻撃したり暴力を振るったりする、あるいは自殺しようとするなどして、周囲の人から診療の要請があることもあります。症状の有無を聞く前に、こうした本人や周囲の人が困っていることを聞くことが、診療の出発点でなければなりません。

統合失調症の急性期では、幻覚や妄想に対して患者さんは病識、つまり「それが病気の症状である」という自覚を失っています。たとえば、活発な幻聴が存在していても、本人はそれが実在していると思っているために「周りの人が言っている」とか「電波で頭の中に伝わってくる」などと考えます。そのため、「誰もいないのに声が聞こえますか」などとチェックリストのままに質問しても、本人の感じ方にフィットしないため、症状を確認することはできません。患者さんが訴える言葉を手掛かりにして、心の中でどんなことが起こっているのかを徐々に聞いていき、それが幻聴、つまり実在しない声が聞こえているという判断を客観的に行うという作業が必要になります。

もし未治療で急性期の方に「幻覚や妄想がある」という病識があるとしたら、それは統合失調症ではありません。例えば、治療する前から患者さんが「幻聴が聞こえる」と言う場合、それは実際には幻聴ではないか、あるいはアルコールや薬物の影響の可能性を考え必要があります。ここで難しいのは、学校や職場など周りに人がいる状況で幻聴が聞こえる場合です。その場合、本人は「周りの人から悪口を言われる」という日常的な言葉で説明をするので、その話を聞いた周囲の人は、最初は「本当に悪口を言われたのだ」と思うでしょう。

このような「実際にあり得ること」の場合には、実際にどういうことが患者さんに起こっているのかをよく聞いてみないと、それが統合失調症の症状かどうかは分かりません。たとえば学校の先生がその話を聞いて「誰か悪口を言ったのか」と周囲の生徒を問いただしても、皆が「言っていません」と答えれば、「誰も悪口なんか言っていないと言っているぞ」と本人の訴えを否定して話が終わってしまいます。その時に「これはもしかしたら病気の症状でそう感じているのかもしれない」という視点がなければ、本人の病状は見過ごされてしまうのです。

 

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