統合失調症の治療は薬物治療が中心になります。しかし、それ以外にも患者さんをよくするためのさまざまな方法があります。精神科救急病棟と早期支援青年期外来を担当され、多数の患者さんと向き合っておられる東京都立松沢病院精神科部長の針間博彦先生に、統合失調症のリハビリテーションについてお話をうかがいました。
一般に症状の激しい急性期ほど、十分な薬物治療や睡眠・安静の確保など身体的治療が必要です。しかし長い経過の中でこうした急性期はごく一時期にすぎません。それ以外の時期、たとえば急性期の前の数年にわたる前駆期や、急性期後の回復期や安定期には、治療における薬物治療の比重は少なくなり、同時に心理的なアプローチやリハビリテーションが重要になります。診察・面接の中で、患者さんが生活の中で症状をどう捉え、それによってどう行動したかに焦点を当て、それによってそれらを変えていくのも、リハビリテーションのひとつです。
これを技法にしたものを認知行動療法と呼びますが、日常の診察の中でも、とりたててそうした呼び方をしなくても、そうしたことを話題にしていくことが可能です。治療は、患者さんの病状をその都度的確に評価し、薬物治療と心理的アプローチの塩梅(あんばい)を考えていく必要があります。統合失調症のどの時期にも通用する万能な一律の治療法があるわけではありせん。認知行動療法も、どの時期にどの程度行うかという使い方が重要です。
病気というのは想像できるものではなく、まず知識として知らないと把握できませんので、「こういう病気があるのです」「こういう経過をたどります」「そのためにはこういうことが必要です」ということを患者さんと家族に伝える必要があります。これは疾病教育、あるいは心理教育と呼ばれています。統合失調症の治療の中で患者さんと家族に対して必ず行っています。それは個々にも行われますし、家族講座という形で定期的に開催されるものあります。大事なことは、それが体の病気と同じように治療によって改善することを、具体的な治療経過を通じて示すことだと思います。
患者さんや家族にとって一番知りたいことは予後、つまり「この先どうなるのか」「治るのか」ということでしょう。患者さんや家族が「もう治らない」と過度の悲観に陥ったり、逆に「治療しなくても良くなるので薬は飲みません」と根拠のない楽観を抱いたりするのではなく、「治療を続ければ少しずつ良くなる」という現実的な治療的楽観を共有する必要があります。「教育」というと上から目線ですが、病気にかかったという患者さんと家族の苦衷を受け止めること、そしてなんとかして元の生活に戻りたいという「あせり」の気持ちを十分に理解することが私たち医療者に求められていると考えています。
また、統合失調症の患者さんは病状のために生活が立ちゆかなくなることがあります。ひとり暮らしでなくても、決まった時間に起きて食事をし、着替えや入浴をするといった、ごく普通の身の回りの規則的な生活をすることが大変になることがあります。そういった面では生活指導も必要になります。
日常の診察の中では、症状の話をするよりも、むしろどんな生活をしているのかを聞くことを重視しています。その人がどの程度生活できているかがより重要であって、症状の有無は二の次ともいえます。たとえば本人があまり外出しないようであれば、どんなことが支障になっているのか、外に出たときはどこに行ってどう感じたかを話題にします。それは生活に対する症状の影響を評価するところから入って、症状の程度を評価していることになります。
薬物療法が始まる前から精神科医療の中で伝統的に行われているものに作業療法があり、松沢病院では現在でも熱心に行っています。これは日常生活以外に何か目的のある行動に、実際に自分の体を使って取り組むというもので、就労や復学の前段階として必要です。入院中のレクリエーション的なものから、通院してデイケアで行うプログラム、また就労支援のための作業もこれに含まれます。
患者さんによっては、こんなことはばかばかしくてやってられない、何のためにやっているのか分からないという人もいます。こうしたプライドは、それ自体は大事に持っていてほしいと思いますが、いかにばかばかしく思えることであっても、決まった時間に決まった場所に通い、自分の体を使って目的のあることをすること自体に意味があります。患者さんに時々見られる傾向として、今は何もしていないけれど、あるとき突然すごいことができるようになるといった、一発逆転的な飛躍した発想にとらわれることがあります。そうしたことではなく、今自分ができることを少しずつやってもらうことによって、現実的な自覚と自信を持ってもらうことは非常に大事です。
東京都立松沢病院 精神科 部長
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