
統合失調症研究の第一人者である糸川昌成先生は、1990年代にD2受容体の遺伝子多型(DNA配列の個体差)を発見されました。今回は前回に引き続き、その後の研究の道のり、そして最新の動向についてお話をうかがいました。
抗精神病薬がドーパミンの受容体に蓋をすると幻聴が止まるということは、統合失調症の患者さんは、ドーパミン受容体の遺伝子にシグナル伝達を強めるような変化があるのではないか、という仮説がありました。これを裏付けるため、私はD2受容体の遺伝子配列を読み始めました。そして1994年に、D2受容体に遺伝子多型を見つけました。
それは統合失調症の経験者では健常者と比べて3倍の頻度でみられました。D2受容体には443個のアミノ酸が連なっていて、通常は頭から数えて311番目が「セリン」なのですが、これが「システイン」に変わっているのです。そこでセリンがシステインに変わるとドーパミンのシグナルが強くなって、統合失調症のリスクが上がるのだろうと考えたのです。
※アミノ酸とは、特定の有機化合物の総称です。「セリン」も「システイン」もアミノ酸の一種です。
この論文はイギリスの一流科学誌Lancet(ランセット)に掲載され、世界中で話題になりましたが、それにより行われた追試(再現のための実験)結果は思わしくないものでした。患者さんと健常者それぞれ100人前後で追試を行い、311番目のセリンがシステインに変わっている人がどのくらいいるかを調べたのです。
私たちの研究では健常者では3%であったのに対し、統合失調症では9%もあったので、やはりセリンがシステインに変わると統合失調症のリスクが3倍になるのだとLancetに書いたのですが、33件追試をしても実に17件にしか有意差が出なかったのです。
統計にはメタ解析という手法があります。33の論文を足し合わせると、健常者が5,000人、統合失調症の人が5,000人となり、ひとつひとつの論文のばらつきやバイアスを打ち消して統計的な検出感度も高めることができるのです。
4つのグループでメタ解析を行ったところ、いずれも一致して有意差があり、つまりセリンがシステインに変わっている人の頻度が高いという結果が得られました。ただし、こうして決着がついた結果、オッズ比が1.5しかないという問題が残ったのです。
統合失調症は100人に1人がかかる病気であるとされています。オッズ比が1.5ということは、311番目がセリンからシステインに変わっている人だけを100人集めてきても、統合失調症の経験者は1.5人ということになります。つまりランダムに人を集めた場合と比べ、わずか0.5の差ということになるのです。
私たちゲノム科学者がそこで考えたのは、候補遺伝子研究が失敗したのではないかということでした。つまり、ドーパミン神経はD1からD4までありますが、私たちゲノム研究者はD2がだめならD1、そしてD3、D4と全部調べました。その次にはドーパミンがだめならセロトニン、アドレナリン、NMDA受容体、グルタメートと調べたのです。しかし、結局これが間違っていたのではないかと判断したのです。それは2000年前後のことでした。
候補遺伝子を順番に調べている中で、真の遺伝子多型をまだ見落としているのではないか、と私たちは考えました。漏れがないようにするにはどうしたらよいか。その答えが全ゲノム解析(GWAS: Genome-Wide Association Study)です。
「プリント基板上に遺伝子多型が配置されたDNAチップを使い、DNAを一滴垂らす」という方法で、全部の遺伝子配列を50万ヶ所のSNP(スニップ:single nucleotide polymorphism遺伝子多型のひとつ、一塩基多型)でタイピングする(調べる)ことができます。
しかも、小さいオッズ比に有意差をつけるために、サンプルサイズ(被験者の数)は現在、万単位になっています。統合失調症の方2万人、健常者2万人、そして50万のSNPを全部調べることができる時代になりました。ところが、それでもオッズ比は1.5のままだったのです。
チップ上にあるSNPは既知のものです。そこで、それ以外に未知のものがあるのではないかと考え始めました。そこに登場したのが「次世代シークエンサー」による全ゲノムシークエンスです。現在、世界中で行われていますが、未知の遺伝子多型はまだ見つかっていません。
もうひとつ新しい話題としては、画像診断技術の進歩があります。脳の形態のわずかな違い、特に発症初期には進行にともなって脳の体積がわずかに減少するということが明らかになってきました。また、MRIが発達して神経の走行が観察できるようになり、コネクティビティ(接続性)の解明へと発展しています。これらが統合失調症研究の最前線、最新のトピックスです。
頭部・顔面の症状
手足の症状
首・体幹の症状
糸川 昌成 先生の所属医療機関
周辺で統合失調症の実績がある医師
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部 部長
内科、外科、精神科、脳神経外科、小児科、整形外科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、麻酔科、脳神経内科、児童精神科
東京都小平市小川東町4丁目1-1
西武多摩湖線「萩山」南口 病院シャトルバス運行 徒歩7分、JR武蔵野線「新小平」病院シャトルバス運行 徒歩10分
国立精神・神経医療研究センター病院 精神リハビリテーション部長、医療連携福祉相談部長
内科、外科、精神科、脳神経外科、小児科、整形外科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、麻酔科、脳神経内科、児童精神科
東京都小平市小川東町4丁目1-1
西武多摩湖線「萩山」南口 病院シャトルバス運行 徒歩7分、JR武蔵野線「新小平」病院シャトルバス運行 徒歩10分
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 精神科科長 メンタルヘルスセンター長
内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、乳腺腫瘍内科、膠原病科
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慶應義塾大学医学部 ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座 特任教授
内科、血液内科、リウマチ・膠原病内科、外科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産科、婦人科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、内分泌内科、代謝内科、放射線診断科、放射線治療科、精神神経科、総合診療科、病理診断科
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慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 准教授
内科、血液内科、リウマチ・膠原病内科、外科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産科、婦人科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、内分泌内科、代謝内科、放射線診断科、放射線治療科、精神神経科、総合診療科、病理診断科
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良い薬に出会わなくって困ってます。
私は30代で統合失調症を発症しましたが中々いい薬に出逢わなくて困ってます。今まで色んな薬を飲んでますが一向に良くなりません。今一番辛いのはストレスでうつ状態から抜け出せない事です。どうしたら良いでしょうか?
体に力が入ってる感じで大変です。
7月中旬くらいから体に力が入ってしまいます。 体に力が入るというのは左腕がピンとなったり、体全体が緊張状態のようになることです。 これはなぜなのでしょうか。 私は統合失調症という病気を持っており、毎日精神安定剤を飲んでいますがそのせいなのかなと思っています。 またストレス源と隣合わせで生活しているので、そのせいなのかなとも思います。 生きていて大変不便です。原因やその病気のことを教えて下さい。よろしくお願いします。
この場にいてはいけないような感覚
私はおよそ2年前から統合失調症の陰性とパニック障害を併発しています。薬物療法をしていたのですが金銭面やコロナの影響で12月から薬を飲んでいません。 ここ1ヶ月ほど前から突然夢から醒めてほしいという強い願望に襲われるようになりました。自分が思ってる訳ではなく、自分の中の別人がこの場所に居てはいけないから早く目を覚ましてと言ってきます。常に息苦しく、自分が自分で制御が効かないような感覚がとても苦しいです。これは心療内科に行くべきでしょうか。そしてこの症状は統合失調症の症状なのでしょうか。
統合失調症とSLEの精神症状について
三年前に統合失調症と診断を受け三ヶ月入院して幻聴が全くなくなりました。 投薬して安定しております。 最近、自分が統合失調症じゃなければいいという思いが強く。姉が抗核抗体陽性だということを思い出して、SLEなんじゃないかと疑いを持つようになりました。 統合失調症の薬飲んで回復したのだから統合失調症だとは思うのですが、他の病気だということはあり得ますか?
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