
カルボニルストレス説は、統合失調症の原因解明と新たな治療法の可能性という面で注目を集めています。分子生物学者としての研究と同時に、精神科医としても診療を行う統合失調症研究の第一人者、東京都医学総合研究所の糸川昌成先生にご自身の最新研究「カルボニルストレス」についてうかがいました。
カルボニルストレスは、糖鎖が結合するという糖化現象です。同じようなものでよく知られているのはヘモグロビンA1cです。これはヘモグロビンに高血糖の状態で糖が付加されて、糖鎖が結合しているものです。
糖化現象そのものは可逆性(一定の条件のもとでその変化が元に戻ること)なのですが、糖化がいろいろな反応を経て終末糖化産物(AGEs)というものが発生すると、それはもう元へは戻りません。その終末糖化産物ができることをカルボニルストレスといいます。糖尿病の合併症の増悪因子や動脈硬化の要因としてもカルボニルストレスが注目されています。
カルボニルストレスの解毒酵素を欠損したある患者さんを見つけたことをきっかけに、その酵素が欠損していなくても、一般症例にもカルボニルストレスがあるということを見つけました。それは、先に述べたプロトタイプから見つかったのです。
(「統合失調症の症状をどうとらえるか―統合失調症の研究(3)」参照)
カルボニルストレスはグリケーション(糖化)ですので、糖鎖がいろいろなところに結合するのだろうと考えられますが、そこから先は、今はまだ基礎研究をしている段階で分からないのです。脳の中で糖鎖がどこに結合しているのか―ドーパミンの受容体なのか、セロトニン神経なのか、それはまだ分かっていません。
ただ、そのグリケーション(糖化)が亢進した患者さんは認知機能が低下して、陰性症状(意欲の低下や感情表現が乏しくなるなど)が悪いことが多いのです。これに対しては、抗精神病薬では糖化を改善できません。
メイラード反応というものを経て糖化が起きるのですが、そのメイラード反応を特殊な活性型ビタミンで抑えることができます。あるいはこの最終糖化産物の前駆体であるカルボニル化合物を、ピリドキサミンという特殊なビタミンが捕捉して腎臓から排泄させます。そして医師主導治験でこの糖化を抑えることを、10例を対象に行ったのです。
(「統合失調症の原因究明と予防・治療法の開発プロジェクト」サイトより引用)
もちろん、従来の神経伝達物質の機能不全で統合失調症が起きるのだという仮説は間違ってはいないと思います。医師主導治験を行った際にも、被害妄想や幻聴に対しては従来の薬がないとどうにもなりませんでした。
従来の薬で改善しないような認知機能障害や陰性症状などには、活性型ビタミンB6ピリドキサミン(未承認薬であり、通常のビタミンB6ではありません)を投与することによって改善が認められました。
ですから、おそらく脳の中では神経伝達物質の機能不全と、それ以外の生化学的な変化が合わさって、その症状を起こしているのではないかというのが私の仮説です。まだしっかりと動物モデルや細胞モデルで突き止めてはいないので、あくまでも仮説の段階ですが、これが私のカルボニルストレス説です。
頭部・顔面の症状
手足の症状
首・体幹の症状
糸川 昌成 先生の所属医療機関
周辺で統合失調症の実績がある医師
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部 部長
内科、外科、精神科、脳神経外科、小児科、整形外科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、麻酔科、脳神経内科、児童精神科
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国立精神・神経医療研究センター病院 精神リハビリテーション部長、医療連携福祉相談部長
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国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 精神科科長 メンタルヘルスセンター長
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慶應義塾大学医学部 ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座 特任教授
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慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 准教授
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