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インタビュー

統合失調症患者の家族として―臨床家がなぜ研究をするのか(1)

統合失調症患者の家族として―臨床家がなぜ研究をするのか(1)
糸川 昌成 先生

東京都医学総合研究所 病院等連携研究センター センター長 /副所長(兼任) 、東京都立松沢病...

糸川 昌成 先生

糸川昌成先生は分子生物学者としての研究と同時に、精神科医としても診療を行う統合失調症研究の第一人者です。東京都医学総合研究所で2015年から病院等連携研究センター長を務めるかたわら、隣接する東京都立松沢病院で現在も非常勤医師として診療を続けておられます。今回は当事者の家族としての糸川先生ご自身のエピソードを中心にうかがいました。

これはすでにいろいろなところで公表していることですが、私の母が精神障害だったのです。母は私を産んですぐに統合失調症を発症しました。父は大手の銀行マンでした。祖父も叔父も銀行員でしたので、信用を売り物としている金融関係の家としては、お嫁さんが精神障害であるということはひた隠しにしていました。銀行員でなかったとしても、50年前の話ですから、おそらく世間には隠していたでしょう。

私は父の実家(父の姉と母親の女二人が住む家)に5歳で引き取られました。母のことはまったく覚えていません。同じ横丁には父の兄弟姉妹が6世帯、軒を連ねて並んでいました。私はそこを行き来して大家族のように暮らしていたので、母がいなくて特に寂しいと思ったことはありませんでした。

ただ、母の話をすると皆が困った顔をするのです。何となく、母のことを口にしてはいけないのだろうと、幼いなりに理解してはいました。小学校に上がった頃から、きっと離婚したか病気で亡くなったのではないかと考えるようになりました。母が病気で早くに亡くなったのだとしたら、という思いから医師という職業を意識し始め、医学部に入ることを目指しました。

医学部受験はストレート合格というわけには行かず、三浪の末、当時新設された埼玉医科大学に滑りこむことができました。そして入学手続きのために戸籍謄本を見たとき、父の名前の横に母の名前を見つけたのです。離婚も死亡もしていない。これは一体どういうことなのだろう、と幼い日の疑問がよみがえってきました。

手がかりを求めて家中を探しまわり、叔父(父の弟)の日記帳を見つけました。そこには「分裂病」と記されていたのです。高校を出たばかりで詳しいことはわかりませんでしたが、何か大変なことがあったらしい、ということは感じていました。

大学入学後、精神医学の講義で分裂病について学んだ時には驚きました。クレペリンの定義では、慢性に進行して最後には廃人(早発性痴呆)になる病気であるとされていたのです。母はこういう厳しい病気だったのだな、とその時初めて理解したのです。

その後、遺伝性があるということを聞き、ショックを受けました。今にして思えば、血縁者が同じ統合失調症にかかる割合は高血圧糖尿病と同程度でしかないのですが、当時は自分にも遺伝して最後には廃人になるのかと思うと、恐ろしくてたまりませんでした。

元々は外科医を志望していたのですが、自ずと精神科医を目指すようになっていきました。どこか都内の病院にいるはずの母親に会いたいという気持ちはありました。しかし30年前の当時はほとんどが閉鎖病棟で、慢性期の患者さんの痛々しい姿をみていると、変わり果てた母の姿を見たくないという葛藤がありました。

悩んでいるうちに31歳で結婚し、長男が生まれました。母に孫の顔を見せたいと思いながらも迷っているうちに、アメリカ留学などもあり、いつしか時が過ぎて行きました。

40歳のときのことです。当時、理化学研究所に勤務していた私は、週1日当直のアルバイトをしていました。2月11日の早朝、当直室の電話が鳴りました。私が受話器を取ると、叔父から母が亡くなったことを知らされました。ああ、間に合わなかったか、と思いながら亡くなった病院の場所を尋ねると、驚いたことに私が当直をしていた病院から車で15分ほどのところでした。こんなに近くにいて会わなかったのか、と思うと何ともいえない気持ちになりました。

遺体を引き取りに行って、初めて見た母はとても綺麗な顔をしていました。美しい母の死に顔を見ながら、なぜ生きているうちに会わなかったのだろうと後悔の念に苛まれました。それからの私はまるで母に許しを乞うように、毎朝3時に起きて4時過ぎには研究所で実験をするという、自傷行為のような研究生活を送りました。その中で、世界で初めてカルボニルストレスを発見し、日本で初めての医師主導による未承認薬の治験を達成したのです。

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