概要
肺高血圧症とは、肺の中を流れる血管の圧が高まり、その結果心臓に負荷がかかるようになる病気です。発症初期は症状がはっきりしませんが、進行すると動いたときの呼吸困難、息切れ、疲れやすさなどを自覚するようになります。最終的に右心不全となり、死に至ることもある疾患です。
なお、肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)では、「肺高血圧症は様々な原因により肺動脈圧が持続的に上昇した病態で、右心不全/呼吸不全が順次進行する予後不良の難治性疾患として知られている」と記載されています。
肺高血圧症は膠原病(強皮症や混合性結合組織病など)や血栓などを原因とすることもあれば、明らかな原因が特定できない場合もあります。
無治療のままで放置すると亡くなることも多い病気です。また、20〜30歳代の女性に多いこともあり、疾患そのものの治療はもちろんのこと精神面のサポートも重要である疾患です。
原因
肺高血圧症は、肺の中を流れる血管が狭くなることを原因として発症します。
肺の血管が狭くなる原因としては、たとえば膠原病が挙げられます。膠原病では、血管に炎症や線維化(線維のように固くなること)が生じるためです。
その他、脚の血管などで形成された血栓(血液の塊)が、肺動脈を塞ぐことで生じることもあります。この場合、血栓は血流により心臓を経由して肺動脈へ到達します。
またHIV感染症、門脈圧亢進症、先天性(生まれつきの)心疾患の一部、遺伝性疾患、薬物なども肺高血圧症の原因となります。
その他にも、左心性心疾患や肺疾患、低酸素血症による肺高血圧症があります。明らかな原因を特定できないこともあり、特発性肺動脈性肺高血圧症と呼ばれます。
肺高血圧症では肺の血管が狭くなっているため、そこに血液を送る右心室に大きな負担がかかります。この状態が継続した場合、右心不全を来すことがあります。
症状
肺高血圧症は、肺の中を流れる血管の圧が高まり、その結果心臓に負荷がかかるようになる病気ですが、初期段階では明らかな症状はありません。病状が進行すると日常生活のなかのちょっとした動作に関連して息切れを来すようになります。
また、疲れやすい、動悸がする、咳が出る、胸が痛くなるといった症状をみることもあります。肺高血圧症にて右心不全が進行すると、亡くなることもあります。
検査・診断
肺高血圧症の診療では、胸部単純レントゲン写真、心電図、血液検査、心エコーなどが簡便な検査として行われます。
胸部単純レントゲン写真
右心房・右心室の拡大や、肺動脈の拡張が確認されます。
心電図検査
右心系への負荷を確認することができます。
血液検査
BNPと呼ばれる検査項目を通して心不全の状況を評価することが可能です。
心エコー検査
右心系への負荷をリアルタイムに評価することが可能です。
肺の血圧が上昇していることを実際の測定値として確認するためには、心臓カテーテル検査が必要となります。心臓カテーテル検査は、患者さんの体への負担がやや大きい検査です。
そのほかに必要に応じて、CT、MRI、核医学的検査(換気血流シンチグラフィー)、運動負荷検査などを行います。
治療
肺高血圧症の治療の主な目的は、肺の血管を拡張させることです。
さまざまな投与方法(注射や経口、吸入、皮下投与など)の治療薬があり、病状に応じて選択されます。具体的に使用される薬剤としてはエンドセリン受容体拮抗薬、PDE-5阻害薬、プロスタグランジンI2誘導薬などがあります。また利尿剤やカルシウム拮抗薬が使用されることもあります。
その他、在宅酸素療法を含めた酸素療法が適応になることもあります。また、肺移植も検討されることがあります。
血栓が原因となって肺高血圧症を発症している場合には血管拡張薬の効果は乏しいです。そのため、血栓を取り除くための処置(手術もしくはバルーン肺動脈形成術)がなされます。
医師の方へ
肺高血圧症の詳細や論文等の医師向け情報を、Medical Note Expertにて調べることができます。
BMPR2変異によるHPAHの予後――早期発見を目指した運動負荷検査の取り組み
遺伝性肺動脈性肺高血圧症(hereditary pulmonary arterial hypertension:HPAH)は、遺伝学的な背景が関連する重度な肺高血圧症を主徴とする、極めてまれな疾患である。平出 貴裕氏(慶應義塾大学医学部内科学教室循環器内科 難治性循環器疾患病態学寄付研究講座 特任助
【第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会レポート】肝硬変患者における門脈肺高血圧症の診断――コホート研究によるスクリーニング要素の探求(2500字)
門脈圧亢進症に伴う肺高血圧症である門脈肺高血圧症(PoPH:Portopulmonary Hypertension)は、メカニズムの詳細が不明なため診断が難しく、病態の解明が求められている。厚川 正則氏(日本医科大学付属病院 消化器内科 准教授)は第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会(2022年7
【第7回日本肺高血圧・肺循環学会レポート】診断に苦慮し治療に至った領域横断的な肺高血圧症――単剤治療で様子を見るべき症例は(3400字)
肺高血圧症(PH)は第1〜5群に分類されるが、臨床では分類の難しい領域横断的な症例に遭遇することが多い。PHの治療法は群によって異なるため、こうした症例に対する診断・治療には迷う場面もある。杉村 宏一郎氏(国際医療福祉大学 医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学 成田病院 循環器内科)は、第7
「肺高血圧症」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「肺高血圧症」に関連する記事
関連の医療相談が12件あります
肺高血圧症 最大肺動脈圧
入院して5日目 BNP300近くありCTで肺血栓あり入院しました。 今だカテーテルできずBNP下がって安心していますが、自分としては肺血管拡張薬早くはじめてほしいといいました。末梢型 中枢にもあったように思います 手術は適応なくバルーン考えているようです とにかく肺血管拡張薬始めたいと言っているのに、右心カテーテルやってからだと言われて凝固障害あるし心配です。右心カテーテルやらずに肺血管拡張薬不可能なんですか?薬適応ないわけではないと言われています。
子宮筋腫から来る症状について
お世話になります。五年ほど子宮筋腫の経過観察中でしたが、現在一番大きいものが10センチほか6センチが二つ、小さいものもあるようです。 MRIは2月に撮っています。その時はまだ症状が経血もそこまで多くなく貧血もないので、そのまま経過観察をしていましたが、このところ寝起き尿が出にくい、お腹が張る、頻尿、右腰骨右脚がだるい、があり本日病院に行って来ました。内診では卵巣は炎症なし膀胱炎でもない、貧血は大丈夫で、膀胱は圧迫されて変形している。 症状が強くあるなら手術した方が良い。と言われ手術することを決断したのですが、心配なのは右脚の違和感です。腫れてるとか色が違うとかはないのですが、巨大な子宮筋腫が血栓を作る、とから肺に飛んだなどの記事を見つけて 怖くてたまりません。どう気をつければよいのでしょうか、どうなったら深部栓症なのでしょうか。なんとなく最近息苦しくなったりして怖いです。また、どの科に行けばよいのでしょうか。本日婦人科の主治医に話したのですが脚についてはスルーされてしまいました。 話がうまくまとまらずすみません、よろしくお願いします。
最低血圧が、100
もう、10年くらい前から健康診断で 最低血圧が100ぐらいです。 その頃の最高血圧は120から130ぐらいでした。 ここ、1、2年前から最高血圧140から150 最低血圧が100ぐらいです。 最初内科を受診し血圧の薬も処方され ましたが、半年程度服用しても 血圧に変化がなく今は薬は飲んでいません 自覚症状は、何もないのですが 私にあう血圧を下げる薬は あるのでしょうか?また血圧を下げる 薬の成分は何種類もあるのでしょうか?
奥歯の痛みについて
85歳になる祖母が今日の夕方頃から突然奥歯が痛み始め、噛んだら痛むので何も食べれないと言ってきました。調べたら放散痛というものがあると知り、放散痛の症状の1つに歯の痛みがあり、祖母は心臓の持病も抱えているのでとても心配になりました。祖母が定期受診している歯医者の予約は明後日で、もし痛みが続く場合や歯医者での診断で特に問題がなかった場合は放散痛の可能性を考慮して専門医に検査をしてもらった方がいいでしょうか?ちなみに祖母の心臓病は詳しい病名は分かりませんが、高血圧や不整脈に近いです。祖母は現在歯の痛み以外には肩こりがするみたいでそれ以外は特に身体の不調はありません。奥歯の痛みは何も噛まなければ特にずっと痛みが続く訳ではなさそうです。心配し過ぎかもしれませんが、わたしにも精神的な障害があり、祖母とはずっと一緒に住んでいるので、どうしてもネットで調べた情報で考え過ぎてしまうので医師の意見が聞きたいです。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
肺高血圧症を得意な領域としている医師
-
-
肺高血圧症
- 投薬治療
- 肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)
- バルーン肺動脈拡張術(BPA)
-
虚血性心疾患
-
ファブリー病
-