概要
間質性肺疾患(間質性肺炎)とは、肺の間質と呼ばれる部分を中心に炎症が起こる病気の総称です。肺は肺胞という小さな袋の集まりで、口や鼻から吸い込んだ空気は気道を通って肺胞に運ばれ、肺胞の壁を通して酸素が取り込まれます。肺胞は大きく実質と間質に分けられ、肺胞の中を実質、肺胞の壁や周囲の組織を間質といい、この間質に炎症が起こる病気が間質性肺炎です。
間質性肺炎では、炎症によって徐々に肺胞壁が厚く硬くなります(線維化)。そうなると肺がうまく膨らまなくなるため、息苦しさを感じたり咳が出たりします。進行すると呼吸不全になることもあります。
間質性肺炎には原因や病態に応じてさまざまな種類がありますが、特に多い特発性肺線維症は50歳以上の男性に多いとされています。
種類
間質性肺炎は、原因が特定できるものと原因が特定できないものに大きく分けられ、原因が特定できるものとして“自己免疫性間質性肺炎”、“職業環境性間質性肺炎”、“医原性間質性肺炎”などがあります。
一方、原因が特定できないものを“特発性間質性肺炎”といい、全体の半数以上を占めます。特発性間質性肺炎は病態に応じてさらに細かく分類され、特発性肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、急性間質性肺炎、剥離性間質性肺炎など、さまざまな種類があります。これらのうち、特発性肺線維症が大半を占めるといわれています。
原因
間質性肺炎は原因や病態に応じてさまざまな種類がありますが、原因を分かりやすく分類すると、免疫異常によるもの(自己免疫性間質性肺炎)、異物の吸入によるもの(職業環境性間質性肺炎)、薬や放射線治療によるもの(医原性間質性肺炎)、感染症によるもの、原因を特定できないもの(特発性間質性肺炎)の5つに大きく分けられます。
免疫異常によるもの
免疫異常によるものとして、自己免疫疾患である膠原病(関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・強皮症・皮膚筋炎・シェーグレン症候群など)や、IgG関連疾患、肺サルコイドーシスなどが挙げられます。
自己免疫疾患とは、異物を排除する役割を持つ免疫系が何らかの原因によって機能不良となり、自身の組織を攻撃してしまう病気を指します。
異物の吸入によるもの
たばこの煙、ペットの毛、カビ、羽毛布団、アスベストなどを長期にわたって吸い込むことで、間質性肺炎が起こることがあります。
薬や放射線治療によるもの
原因薬としては抗がん剤や抗不整脈薬、抗菌薬などが多いとされています。このような薬は病院で処方されるものですが、市販薬や漢方薬が原因となる場合や、サプリメントなどの健康食品を長期にわたって摂取することで発症することもあります。また、高濃度の酸素投与や放射線治療によっても間質性肺炎を引き起こすことが知られています。
感染症によるもの
マイコプラズマやサイトメガロウイルスなどの特殊なウイルスに感染した場合のほか、新型コロナウイルスに感染した場合も間質性肺炎を引き起こすことがあります。
原因を特定できないもの
原因を特定できない特発性間質性肺炎は、原因不明であるものの、遺伝的要因と環境要因の両方が関与していると考えられています。また、患者さんのほとんどが喫煙者であるため、喫煙による影響も指摘されています。
症状
初期には無症状であることが多く、病状がある程度進行すると咳や息切れが見られます。多くの場合、痰を伴わない乾いた咳が出ます。息切れは主に運動時や坂道・階段の昇り降りなど一定の負荷がかかるときに見られますが、進行すると着替えなどの軽い動作でも息切れや呼吸困難が起きるようになります。手足の指先が膨れ、太鼓のバチのように変形することもあります(ばち指)。
また、間質性肺炎は風邪やインフルエンザなどの身近な感染症をきっかけとして、病気が急激に悪化することがあります。この際には咳や呼吸困難が急速に悪化するため、風邪などの感染症にかからないよう注意する必要があります。
検査・診断
問診や身体診察をしたうえで、胸部X線検査や胸部CT検査などの画像検査、血液検査、呼吸機能検査などを行います。
画像検査では病変の広がりや肺の縮小度合いを確認します。この検査である程度病気の有無や病型を判断することができます。呼吸機能検査は肺の機能を調べるための検査で、間質性肺炎の重症度を評価するのに役立ちます。
血液検査では、肺組織の線維化の程度を確認するためにSP-A、SP-D、KL-6などを測定します。これらが高値を示すのは間質性肺炎に特徴的であるため、間質性肺炎の活動性や治療効果の判定に有用です。
より詳しく調べるために、肺の中に生理食塩水を注入して回収した液を解析する気管支肺胞洗浄検査や、肺の組織を採取して顕微鏡で調べる肺生検を行うこともあります。
治療
ほとんどの間質性肺炎は完全に治すことができません。そのため、進行を抑えることと症状を軽くすることが治療の基本となります。主な治療法に薬物療法と酸素療法があり、病型や進行具合、患者さんの状態などに応じて選択します。
薬物療法
全ての病型で有効というわけではありませんが、適応があれば副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤で治療を行うことがあります。また、原因不明の特発性間質性肺炎のうち、大半を占める特発性肺線維症に対しては抗線維化剤を使用します。
病状が安定していて進行が遅いようであれば、これらの薬を使用せずに無治療で経過を見る場合や、咳や痰に対して鎮咳剤や去痰剤を用いるなど症状に応じた治療を行う場合もあります。
酸素療法
肺の酸素を取り込む能力が低下していて日常生活に支障をきたしている場合などに、酸素療法を行います。自宅にいるときには酸素供給装置(酸素濃縮器、液体酸素タンク)から酸素を吸入し、外出の際には携帯用の酸素ボンベを用いて吸入します。
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