インタビュー

膠原病に伴う“間質性肺疾患”の特徴――注意すべき症状・診断・治療法について解説

膠原病に伴う“間質性肺疾患”の特徴――注意すべき症状・診断・治療法について解説
渥美 達也 先生

北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室 教授、北海道大学病院 病院長、北海道大学 副学長

渥美 達也 先生

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膠原病(こうげんびょう)は免疫の異常で全身に症状がでる病気の総称です。代表的な病気に、関節リウマチ全身性エリテマトーデス全身性強皮症などがあります。膠原病ではさまざまな症状が現れますが、その中の1つとして“間質性肺疾患”という特殊な肺炎が起こることがあります。

間質性肺疾患は、以前は根治的な治療法のない病気でしたが、近年では抗線維化薬が登場し治療の選択肢が広がっています。今回は、北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室 教授の渥美 達也(あつみ たつや)先生に、膠原病に伴う間質性肺疾患の注意すべき症状、診断や治療法などのお話を伺いました。

膠原病は別名を自己免疫疾患といいます。本来であれば細菌やウイルスなどの外敵を攻撃し体を守る役割を持つ免疫が、誤って自分の体を攻撃するようになってしまう病気を自己免疫疾患や膠原病と呼ぶのです。免疫による攻撃で各臓器に炎症が起こることで、発熱や痛みなどの症状が現れます。

この炎症が主に体のどこで生じるかによって膠原病の種類が決まります。たとえば関節で炎症が起こっている場合には“関節リウマチ”という病気になりますし、皮膚や腎臓、中枢神経系の組み合わせとなれば“全身性エリテマトーデス”と呼ばれます。

膠原病は女性に多いことが分かっています。膠原病の中でもっとも患者数の多い関節リウマチでは約80%、次に患者数の多い全身性エリテマトーデスでは約90%が女性の発症です。女性に多い理由は明らかになっていませんが、膠原病の発症には遺伝的背景と何らかの環境因子が複合的に関わっているといわれています。

遺伝的背景といっても単一の遺伝子異常による病気ではないため、病気が子どもにそのまま遺伝するわけではありません。ただし、ご家族の中に膠原病の方がいると発症する可能性が高くなる傾向にあります。

また、環境因子としては、関節リウマチであれば喫煙歯周病、全身性エリテマトーデスであれば紫外線や女性ホルモンなどが発症に関わることがあると考えられています。

膠原病の患者さんには、肺・呼吸器の病気が起こることがあります。起こる可能性のある病気は、大きく4つに分けられます。

1つ目は膠原病つまり自己免疫の異常によって起こる肺炎で、間質性肺疾患といいます。膠原病の症状の1つであるため、間質性肺疾患の悪化は膠原病の病気そのものが進行していることを意味します。

2つ目は病原体の感染による肺炎です。一般的に“肺炎”という場合にはこれを指します。原因となる病原菌は肺炎球菌が最多であり、ほかにも結核菌や新型コロナウイルスなどの感染により引き起こされることがあります。また、膠原病の患者さんに用いる一部の薬では肺炎発症のリスクが上がるため注意が必要です。

3つ目は、膠原病の治療薬に対するアレルギー反応によって生じる薬剤性の肺障害です。アレルギー反応を起こす代表的なものに、ほぼ全ての関節リウマチの患者さんの治療に使用されるメトトレキサートという治療薬があります。

4つ目は、上記以外で膠原病とは関連のない肺の病気を偶然に合併する場合です。代表的なものに肺がんがあります。膠原病の患者さんも一定の確率でがんを発症するため、定期的に検診を受けることが大切です。

上記で挙げた肺・呼吸器の病気の中でも、特に多いものが間質性肺疾患です。鼻や口から取り込んだ空気は気管から気管支、終末細気管支と枝分かれを繰り返し、酸素と二酸化炭素の交換の場である肺の中の肺胞へと至ります。間質性肺疾患では、この肺胞の壁で炎症が起こります。さらに炎症を繰り返すことで肺が線維化し、肺胞の壁が厚く硬くなってしまうため、酸素と二酸化炭素のやり取りが難しくなってしまうのです。その結果、息切れや空咳(からせき)(痰の絡まない咳)などの症状が現れます。

また、呼吸が苦しくなるため倦怠感や易疲労感(疲れやすく感じること)もみられます。たとえば、歩くと息切れがする、階段を上ることができなくなったなどの変化が起こるケースがあるでしょう。

MN作成

膠原病の患者さんには間質性肺疾患が起こりやすいものの、起こる確率は病気によって異なります。膠原病の中でも特に患者数の多い病気と、間質性肺疾患が起こりやすい病気を中心に、それぞれの特徴と間質性肺疾患との関係について解説します。

関節リウマチ

膠原病の中でもっとも患者数の多い関節リウマチは、関節滑膜(関節を覆う膜)に持続的な炎症が起こる全身性慢性炎症性疾患で、炎症は関節だけにとどまらず骨や軟骨の破壊を伴います。発症から数年以内に関節破壊が進行するため、治療しなければ身体障害の原因となります。

関節リウマチは肺の合併症が多いことで知られており、間質性肺疾患など何らかの肺疾患を合併する患者さんは関節リウマチ全体の15%程といわれています。

全身性エリテマトーデス

膠原病の中で2番目に患者数が多い病気が、全身性エリテマトーデスです。この病気では、全身の皮膚や関節、血管、腎臓、中枢神経などにさまざまな症状が現れます。

患者さんごとに症状が異なり、皮膚に症状がでる方もいれば、腎臓や中枢神経の症状が目立つ方もいます。また症状の進行の様子も個人差が大きく、急性の経過をたどる方から慢性の経過をたどる方までさまざまです。全身性エリテマトーデスでは、間質性肺疾患の合併は5%以下といわれています。

全身性強皮症

全身性強皮症は慢性的に皮膚や内臓の硬化・線維化(硬く変化すること)が進行する病気です。主な症状には、レイノー症状(冷たいものに触れると手の指が蒼白~紫色に変化する症状)、皮膚硬化、そして間質性肺疾患があります。

全身性強皮症では間質性肺疾患の発症が多く、約50%の患者さんにみられるといわれています。

多発性筋炎・皮膚筋炎

多発性筋炎皮膚筋炎は筋肉に炎症が起こる病気です。主に体幹や四肢近位筋(太ももや二の腕などの胴体に近い場所)などで炎症が生じることで、その部位の筋力低下や痛みが現れます。筋炎に皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎と呼びます。

この多発性筋炎・皮膚筋炎も間質性肺疾患が起こりやすく、特に抗MDA5抗体と呼ばれる自己抗体が陽性の患者さんに起こる間質性肺疾患は急速に進行する点が特徴です。

間質性肺疾患を早期発見するために、特に注意すべき症状は息切れと空咳です。たとえば、階段の昇降や普段の歩行でも容易に疲れて息が切れてしまうようになったり、空咳が目立つようになったりした場合には受診してほしいと思います。

また、急性や亜急性(徐々に進行すること)に発症した間質性肺疾患の場合は、発熱が現れることが多いです。高熱というよりは平熱よりもやや高い程度の発熱が続く場合には注意が必要といえます。

お話ししたような症状があり間質性肺疾患を疑う場合、すでに膠原病の診断を受けている方は、まずは主治医の先生に相談してみてください。膠原病を専門とする医師は、間質性肺疾患が現れることを想定しているため、定期的な検査で発症の有無を確認しているケースが多いですが、症状について伝えることが早期発見につながるでしょう。

膠原病と診断されていない方でも、空咳や息切れなどが現れている場合は、まずは内科のクリニックを受診することで発見につながることがあります。そこで聴診や画像検査などから間質性肺疾患が疑われ、膠原病の可能性がある場合には、膠原病を専門とする医師へ紹介されることが多いでしょう。

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提供:PIXTA

お話ししたように、膠原病の中でも特に間質性肺疾患が多くみられる病気が全身性強皮症です。全身性強皮症は早期発見が難しい病気ですが、レイノー現象がある場合は受診してほしいと思います。レイノー現象とは、血管が過剰に収縮してしまうことで血流が乏しくなり指の色が白く変わり、その後血管が元に戻る過程で紫、赤と皮膚の色が変化していく症状です。

この症状が全身性強皮症によるものと知られていないことが、発見が遅れる原因の1つになっています。寒いときや冷たいものに触れたとき、指の色が白から紫、そして赤に変化する場合には受診するようにしてください。

間質性肺疾患の診断では、主に聴診や呼吸機能検査、酸素飽和度の測定、動脈血液ガス分析、画像検査を行います。

間質性肺疾患の診断では、まずは聴診を行います。特に背中側で“チリチリ”という捻髪音や“ベリベリ”というベルクロラ音を認めた場合に間質性肺疾患を疑います。また、呼吸機能検査を行い、大きく息を吸ったり吐いたりすることで肺の膨らみやすさや息を吐きだす能力などを調べます。

ほかにも、酸素飽和度の測定、動脈血液ガス分析、画像検査などを行います。酸素飽和度の測定では、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素を運ぶはたらきのある赤血球の成分)のうち酸素と結びついているものの割合を調べます。動脈血液ガス分析では、動脈血中の酸素が十分か、二酸化炭素が過剰でないかなどを確認します。

さらに、X線検査やCT検査などの画像検査を行い、間質性肺疾患に特徴的な所見を確認します。早期の間質性肺疾患であれば白い影が見られますし、進行すると蜂巣肺(ほうそうはい)(蜂の巣のように見える状態)と呼ばれる所見が確認できるようになります。

さまざまな検査を経て間質性肺疾患と診断されても、すぐに治療が始まるとは限りません。治療の必要性を判断するうえでもっとも重要なことは、病気が進行するかどうかです。定期的な検査で早期に発見できた場合、まずは症状の程度と進行性かどうかを評価します。

診断した時点で症状が進行性であるケースは別にして、目安としては2年間でどれくらい呼吸機能が悪化しているか、さらに画像検査の所見で進行が認められるかを基に治療の実施を判断します。

昔から行われている治療には、ステロイドや免疫抑制薬を用いて炎症を抑える方法があります。近年では、肺の線維化を抑制する抗線維化薬も使用できるようになっており、それぞれの患者さんの状態に合わせて治療法を選択します。

抗線維化薬には線維化を抑制するはたらきがありますが下痢などの副作用もあるため、治療開始前には、その重要性を患者さんに丁寧に説明し理解してもらうことが大切だと考えています。そのため、私が所属する北海道大学病院では、患者さんに入院してもらい検査を実施するとともに、抗線維化薬の重要性をお伝えしたうえで治療導入を行っています。

間質性肺疾患の治療中は、禁煙を徹底することが重要です。また、免疫抑制薬による治療を行っている場合には感染症に注意していただきたいと思います。

ただし、治療中にもっとも大事なことは日常生活を手放さないことだと思っています。私は、患者さんを必要以上に制限しないことをポリシーにしているのです。それは、患者さんの病気によって生じる制限をできる限り解除するために、私たち医師は治療を行っていると考えているからです。

インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの流行中には人込みを避け、外出後には手洗い・うがいを心がけるといったことは通常の生活の範囲内と考えますが、そのために旅行や温泉を生涯諦める必要はありません。お寿司を食べることもスポーツも楽しんでいただきたいです。可能な限り普段と同じような生活を続けるための治療であることを忘れず、できることは諦めないでほしいと思っています。

膠原病は全身疾患といわれ、あらゆる場所に症状が現れる可能性があります。共通する病態は炎症なので、倦怠感や微熱といったほかの病気でもみられる非特異的な症状から始まることも少なくありません。

また、膠原病の患者さんに起こりやすい間質性肺疾患では、息切れと空咳が主な症状になります。階段の昇降や普段の歩行でも息が切れてしまうようになったり、空咳が現れるようになったりした場合には受診を検討してください。

少しでも気になる症状があれば、まずは“以前より体調が悪い”ということを、医師に限らず看護師や薬剤師など、とにかく医療機関の誰かに話してみてください。自分だけにとどめておかず、些細な変化を伝えることが病気の発見につながるでしょう。

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  • 北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室 教授、北海道大学病院 病院長、北海道大学 副学長

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