概要
全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus:SLE) とは、自分の免疫システムが誤って自分の正常な細胞や組織を攻撃してしまう自己免疫性疾患の1つで、全身のさまざまな臓器に炎症や組織障害が生じる病気です。全身性エリテマトーデスでは、この病気で特徴的に認められる検査異常に加えて全身に多様な症状が現れます。
指定難病の1つであり、日本全国の患者数は約6~10万人と推定されています。男女比は1:9で、妊娠可能な女性に起こりやすく、女性ホルモンが発症に関与すると考えられています。2020年現在は、治療法の進歩により生命・機能予後がよくなっています。
原因
2020年現在、全身性エリテマトーデスの原因はいまだ明らかではありませんが、遺伝素因に環境要因が加わり、複合的な要因で発症する自己免疫疾患と考えられています。自己免疫とは本来、細菌やウイルスから身を守る免疫系が自分自身に対して起こる反応であり、その結果病気に至ると考えられています。
細菌やウイルスを攻撃する抗体はBリンパ球によりつくられますが、全身性エリテマトーデスでは、そのBリンパ球の異常な活性化を伴う自己抗体(自分の成分に対する抗体)産生をはじめとする種々の免疫異常が観察されます。
患者さんの同胞(兄弟・姉妹)内発症率は一般の人よりも高い傾向にあることから、遺伝的要因も発症に関与していると考えられています。まったく同じ遺伝子を持つ一卵性双生児が2人とも病気を発症する確率は約25~60%と高い数字が報告されています。近年、網羅的に全ての遺伝子を調べる全ゲノム解析がさまざまな病気で行われていますが、全身性エリテマトーデスでは自己免疫異常に関与する約50個の疾患関連遺伝子が同定されています。
また、全身性エリテマトーデスの血縁者における全身性エリテマトーデス以外の自己免疫疾患の発症、病気に至らないまでも血液検査での自己抗体陽性率の高さも、こうした遺伝素因と関連すると考えられます。しかし、一卵性双生児の発症一致率が100%でないことから分かるように全身性エリテマトーデスは決して遺伝病ではありません。現時点では遺伝素因に性ホルモン、紫外線、ウイルス感染などの環境要因が関わって発病すると考えるのが妥当といわれています。
症状
全身性エリテマトーデスでは、全身のさまざまな臓器に多様な症状が現れますが、その症状の出現パターンや重症度は患者さんによって異なります。また、治療によって改善しても経過中に病気が悪化すること(再燃)を繰り返します。悪化したときには発熱、全身の倦怠感など全身症状とともに多彩な症状が現れます。以下は、診断につながる特徴的な症状です。
皮膚症状
皮膚症状のタイプはさまざまですが、蝶形紅斑は全身性エリテマトーデスに特徴的です。蝶形紅斑とは、顔に蝶のような形の発疹が出現する皮膚症状で、鼻筋を蝶の体に見立てると、ちょうど蝶が左右に羽を広げたような形のように盛り上がった紅斑を認めることからこのように名付けられています。
このほか、円板状に盛り上がった紅斑、光線過敏症(強い紫外線を浴びた直後に露光部に皮膚症状が出てしまう)や脱毛が半数以上の患者さんに認められ、痛みを伴わない口内炎が生じることもあります。
関節痛や関節炎
関節痛、関節炎は特に病初期に頻度の高い症状で、左右対称に多関節に生じます。原則として関節リウマチのように変形をきたすことはありません。
腎臓に生じるループス腎炎
約半数の全身性エリテマトーデスの患者さんには、ループス腎炎と呼ばれる腎臓の病気が現れます。初期にはたんぱく尿など尿検査の異常だけで特に自覚症状はありませんが、進行に伴って顔や足のむくみが出現するようになります。腎臓に炎症が続くと徐々に腎機能が低下し、適切な治療がなされない場合には腎機能が破綻し、透析療法や腎移植が必要になることもあります。
そのほかの症状
患者さんによっては、胸膜や心膜に炎症が生じる胸膜炎や心膜炎が発症したり、けいれん、精神症状、脳血管障害などの中枢神経が障害されたりすることもあります。特に中枢神経病変は腎病変とともに重症病態とされています。
検査・診断
全身性エリテマトーデスの診断には、先の症状に加えて血液検査が必須です。全身性エリテマトーデスの患者さんには、白血球や血小板の減少、貧血が認められます。また、ほぼ全ての患者さんで抗核抗体が陽性となります。疑われる場合には、さらに抗DNA抗体、抗Sm抗体、抗カルジオリピン抗体などの病気に特徴的な自己抗体を確認します。
さらに、診断、重症度の評価のためには尿検査、画像検査、場合によっては病理検査や腰椎穿刺検査で、心臓・腎臓の障害、関節炎、胸膜炎、心膜炎、消化器病変、中枢神経病変など各臓器の障害の程度を調べることも重要で、多くの場合は入院が必要となります。
治療
全身性エリテマトーデスの治療は、薬物治療が中心となります。もっとも一般的な治療薬は副腎皮質ステロイドです。副腎皮質ステロイドは長期使用による副作用が懸念されるため、重症度に応じた用量の調節が重要です。特に重症な場合には、副腎皮質ステロイドを点滴で大量投入するパルス療法が行われます。
また、副腎皮質ステロイドの効果を高めること、または副腎皮質ステロイドの減量を目的に免疫調整薬、免疫抑制薬、分子標的薬を併せて用いることがあります。特にループス腎炎や中枢神経障害などの重症例に対しては初めから免疫抑制薬を併用し、これを軸として早期に寛解(病状が良好な状態)を目指します。寛解が達成されたら、再燃を防いで寛解を長期にわたって維持すること、副腎皮質ステロイドを最小量または中止することが重要です。
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