インタビュー

全身性エリテマトーデス(SLE)の治療の選択肢と日常生活での注意点

全身性エリテマトーデス(SLE)の治療の選択肢と日常生活での注意点
井畑 淳 先生

国立病院機構横浜医療センター 臨床研究部長/膠原病・リウマチ内科部長

井畑 淳 先生

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全身性エリテマトーデスSLE)の治療では、ステロイドが使われるようになり、死亡率が大きく低下しました。また、免疫抑制薬や新たな治療薬の登場によって治療の選択肢がさらに広がっています。薬物治療を中心とした全身性エリテマトーデス(SLE)の治療について、国立病院機構 横浜医療センター膠原病・リウマチ内科 部長の井畑 淳(いはた あつし)先生にお話を伺いました。

全身性エリテマトーデスSLE)の薬物治療では、副腎皮質ホルモンというステロイドが中心であり、主にプレドニゾロンという薬を使うことが多くなっています。ステロイドが使われる前の死亡率は今よりも高く、4割を超えていたとされていますが、ステロイドをきちんと使えるようになってから死亡率が改善しました。

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ステロイドを多く使えばその分効果もあるかもしれませんが、副作用も強く出るようになります。長期的に使い続けることによって、たとえば背骨がボロボロになって背が縮んでしまったり、感染症にかかりやすくなって何度も入退院を繰り返すことになったりするリスクがあります。

全身性エリテマトーデスSLE)の患者さんは通常よりも動脈硬化が進みやすいため、40代で心筋梗塞(しんきんこうそく)が起こることもあります。私が担当した患者さんの中にも、大動脈乖離(だいどうみゃくかいり)を発症し、30歳代の若さで出産後そのままお亡くなりになったというケースがありました。

ステロイドの長期使用は動脈硬化をより進める要因となることが分かっています。その患者さんも長くステロイドを使っていましたが、全身性エリテマトーデス(SLE)という病気そのものが動脈硬化を起こしやすいことに加えて、ステロイドの副作用がさらに動脈硬化を悪化させる要因となったといえるでしょう。そういった意味でも、薬物治療では長い目で見て管理を行っていくことが大事です。最近では治療薬が増えたことによって、ステロイドはずっと飲む薬から可能であれば服用量ゼロを目指す薬に変わってきています。

ステロイドだけを使っていると、薬の使用量を減らしていったときに症状の再燃(おさまっていた症状が再び現れること)が起こりやすいという問題があります。これに対して、過去の研究において免疫抑制薬を併用することによって再燃の予防が期待できるという報告がなされました。それ以来、特に腎臓の炎症に対しては免疫抑制薬を併用することが中心になってきています。現在では、ステロイドを使う場合には、できるだけ炎症がひどいときにだけ使うようにして、炎症が治まったらステロイドは減らして免疫抑制薬を併用するということが基本的な考え方になっています。

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若い女性の患者さんが多い全身性エリテマトーデスSLE)では、妊娠・出産が可能かどうかというのは切実な問題です。妊娠は病気を悪化させるリスク要因となるため、子どもを授かりたいという希望を叶えるためには病気のコントロールができていなければなりませんし、妊娠中の胎児に影響が出るため免疫抑制薬を使うことは難しくなります。また、妊娠が可能な時期・育児に時間を割ける時期は人生の中で限られています。そういったことも踏まえて総合的に治療方針を考えていかなければ、患者さんにとって納得できる治療にはならないと考えています。

最近の研究では、免疫抑制薬を使うことによって、ステロイドを最初からまったく使わずに治療することができないかという試みも行われています。もちろんそれができれば、ある意味理想的な治療であるともいえるのですが、実際のところはそれでうまくいくケースは何割かあるというレベルです。やはりどうしようもなくなると、レスキューとしてステロイドで治療をすることになります。ですから、私自身は全身性エリテマトーデスSLE)の治療においては、まだステロイドを完全に早期の治療から外すということはできないのではないかと考えています。

病気をコントロールするうえで免疫抑制薬を使うということには、再燃の回避とステロイドの減薬という2つの意味があります。つまり、病気が再び悪くなることを避けつつ、効果的にステロイドの量を減らすために免疫抑制薬を使っているのです。

この病気はある意味余分な免疫の反応が起こっているという状態にあります。本来の正常な免疫反応も起こっているのですが、同時に自分の体に不具合をもたらすような免疫反応が余分に起こっているというのが、全身性エリテマトーデス(SLE)を含むそのほかの免疫の病気にも共通するところです。

免疫抑制薬とステロイドのどちらも、異常な免疫反応だけを抑えるということはできません。本来の正常な免疫の反応も区別なく全部抑えてしまいます。その結果、全体の免疫のはたらきが低下することによって感染症にかかりやすくなるなどの副作用が出てきます。余分な免疫反応だけを抑えるという治療は残念ながらまだ開発されていないため、免疫全体を抑え過ぎてしまわないようにうまく調整していくということも治療の大事なポイントになります。

全身性エリテマトーデスSLE)の治療に使われてきた免疫抑制薬で、歴史のある薬としてよく知られているのはシクロホスファミド水和物です。これは内服薬として使用すると副作用が強いため、主に点滴で使われています。腎臓の炎症が悪化して、従来であれば透析を受けなければならなかったような症例が、この薬を使うことによって透析を受けずに済むようになったという報告もあります。このことは全身性エリテマトーデス(SLE)の治療において、ステロイド治療に次ぐ重要な出来事であったといえます。

ただし、シクロホスファミド水和物には長期にわたって使うことによる副作用がありました。膀胱がんや尿管のがんを誘発する発がん作用があるほか、出血性膀胱炎という病気や卵巣機能の抑制による不妊などの副作用があることが分かっています。

そのため、シクロホスファミド水和物の使用にあたっては投与期間を短縮するといったことも行われましたが、海外ではこれに代わってミコフェノール酸モフェチルという薬が中心に使われるようになってきています。これは経口の内服薬で、シクロホスファミドよりも副作用が少なく、ほぼ同等の効果が得られるといわれています。

海外では症状が非常に重い患者さんを除けば、いわゆる寛解の導入と呼ばれるような治療の初期の段階で、このミコフェノール酸モフェチルを使うようになってきています。日本でも2015年に保険適応が拡大され、全身性エリテマトーデス(SLE)のループス腎炎に対して使えるようになったので、最近では国内でも使用している患者さんが増えているものと思われます。

日本でしばしば使われている免疫抑制薬としてタクロリムス水和物に代表されるカルシニューリン系の薬剤というものがあります。こちらは、今まではアジアを中心に使われていたのですが、同じ系統の新しい薬が開発されてから、欧米でも積極的にループス腎炎に使われるようになりました。

海外で先行して使われている薬剤のデータについては人種差などもあるため、日本で多くの患者さんに使っていくためには、やはり日本やアジアでの治療成績はどうなのかというデータが必要です。病気に対する治療の感受性、すなわちその治療がどのくらい効くかということについての研究が進められており、ミコフェノール酸モフェチルは日本やアジアでもそれなりに効果を示しているようです。

逆にタクロリムス水和物という薬は海外では使われていませんが、ループス腎炎にはよく効くといわれており、日本では使うことができます。国内ではまだ十分なデータが出そろっていませんが、香港・アジアを中心によいデータが出ていて、これもやはり治療に使える薬となっています。最近ではボクロスポリンというタクロリムス水和物に似た薬が欧米で開発され、ループス腎炎治療によい効果を示したとのことですが、日本では未承認の医薬品です(2023年12月現在)。ですから、免疫抑制薬としての位置付けではシクロホスファミド、ミコフェノール酸 モフェチル、タクロリムス水和物の3種類がループス腎炎に対する治療の中心になる薬ということになります。

もう1つ重要な点は薬の用量です。海外で使われている用量で日本人に対してそのまま使ってよいのかどうか、それとも実はそこまでの用量は必要ないのではないかということもありますし、逆に一定量以上使わなければ十分な効果が得られないという場合もあります。

また、免疫の過抑制という問題もあります。免疫抑制薬で免疫を抑えることによって副作用が増えてしまう可能性もあるので、それをどこまで抑えるのかということも重要です。

最近新しく使えるようになったものでは、ヒドロキシクロロキン硫酸塩という薬があります。もともとは抗マラリア薬として使われていた薬で、海外では40年以上前から出ているものですが、日本でも2015年に全身性エリテマトーデスSLE)の薬として承認されました。

これはきちんと副作用対策をすれば使いやすい薬で、関節の痛みや皮膚の湿疹によく効くといわれています。また、全身性エリテマトーデス(SLE)の中でも重症型といわれるものにみられるような頭部の炎症に対しても、予防効果や再発抑制効果があるのでないかといわれています。

今までは関節リウマチクローン病ベーチェット病などだけにしか使用されていなかった生物学的製剤が、全身性エリテマトーデス(SLE)にも効果を示すことが証明されました。べリムマブとアニフロルマブという薬です。いずれの薬も今までの治療では十分効果が得られなかった患者さんへの有望な選択肢となっています。これらの薬が使えるようになったおかげで、ステロイドの使用量をさらに減らすことができるようになりました。

全身性エリテマトーデスSLE)は、いわゆる急性期に関しては本当によい治療ができるようになっています。これまで述べてきたようにさまざまな薬があるということは、それだけ選択肢が多いということですから、仮に最初の治療がうまくいかなくても、患者さんには次の治療を提示することができます。

どの治療を選ぶかは、論文になっているデータも重要ですが、その研究結果が本当に自分の診ている患者さんに当てはまるのかという視点も大切です。また、短期的に効果があるかどうかだけではなく、それが目の前の患者さんの人生をよくしてあげられるのかどうかということについて考えることも大事だと考えています。

特に全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんは若い女性が多いので、仕事を続けていくことや結婚して子どもを産むことも含めたライフサイクルを、どこまでご本人の望むように遂げられるのかということを考える必要があります。

そのためには、それぞれの薬剤を長期に使用した際の副作用を考慮したうえで、それらを前もって予防していかなければなりません。使用開始時からあらかじめ対策を立てておけば、患者さんはつまずくことなく人生を歩んでいくことができるでしょうし、ご本人が意識しなくてもトラブルなく過ごせるようであれば、それはある意味理想的な治療といえるのかもしれません。

その人に適した治療は医師の力だけでは選べません。やはり患者さんときちんと話し合う必要があります。その際、やはり患者さんにも病気に関する正しい知識をある程度持っていただく必要があります。たとえば、自分の状態がどうなのか、病気の状態が悪くなったときにはどうしたらよいか、日常生活ではどのようなことに注意しなければならないのかなど、私たちが患者さんと話し合いをしていくうえで最低限知っておいていただきたいこともあるのです。

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全身性エリテマトーデス(SLE)にとってよくないとされているものには、紫外線・ストレス・妊娠・感染症などがあります。たとえば紫外線に関していえば、日焼け止めの塗り薬を使い、帽子や長袖の衣服を着用するなどの工夫も大切ですし、出かける際に日差しの強い時間帯を避けるなどによって、行動の制限をあまり意識しないで生活できるようにすることも大事なのではないかと考えています。

私がこれまで診てきた患者さんの中には、ビーチバレーをやっていたために病気が悪くなって受診された方もいらっしゃいました。悪くなってしまったものは仕方がありませんし、病気が悪くなるからといってビーチバレーを諦めなさいといえるのかどうかは難しい問題です。しかし、その患者さんの場合は入院しなければならないほど悪い状態になっていましたので、私は医師として、もう少し病気のことを考えたほうがよいのではないか、ということはお伝えしました。

患者さんは病気を患っていますが、社会や家族の一員でもあります。医師として病状を悪化させることは、何であれ「ダメ」というのが正しい対応とは思いません。どうしてもやりたいのだということを事前に言っていただければ、できるかどうか、どうすればできるのかを一緒に考えていくこともできます。一方的でない話し合いを行うためにも、患者さんに正しい知識を身につけていただくことは大切です。

また、インターネット上の情報は全てが正しいとは言えません。たとえば、間違ってはいないにしても症状が重い方の体験に基づいたものや特殊な症例など偏った情報が多く見受けられます。しかし、実際には元気で普通の生活を送っている方もたくさんいらっしゃるわけです。新型コロナウイルス感染症の流行時、ワクチンの投与の際にも患者さんたちはどうしたらよいのか、何が正しいのか、情報の取捨選択に悩まされました。そのようなときでも根拠に基づいた正しい情報があれば、患者さん自身で早めに対策を取る手助けにもなるのです。

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