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抗リン脂質抗体症候群とは?血栓症や脳梗塞の原因になる自己免疫疾患
私たちヒトの体には免疫機能が備わっており、体をウイルスや細菌から守っています。しかし何らかの原因により、体内に備わる免疫機能が誤って自分自身の組織を攻撃してしまうことがあります。この状態が続く病...
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抗リン脂質抗体症候群とは?血栓症や脳梗塞の原因になる自己免疫疾患

公開日 2016 年 12 月 14 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

抗リン脂質抗体症候群とは?血栓症や脳梗塞の原因になる自己免疫疾患
渥美 達也 先生

北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室 教授

渥美 達也 先生

私たちヒトの体には免疫機能が備わっており、体をウイルスや細菌から守っています。しかし何らかの原因により、体内に備わる免疫機能が誤って自分自身の組織を攻撃してしまうことがあります。この状態が続く病気を総称して「自己免疫疾患」といいます。

自己免疫疾患には様々な病気が含まれますが、「抗リン脂質抗体」という自己抗体が関与する抗リン脂質抗体症候群では、血栓症や妊娠合併症を発症するリスクが高まります。抗リン脂質抗体症候群による血栓症は脳に生じやすいという特徴があるため、患者さんは脳梗塞を発症・再発しないよう注意しなければなりません。今回は抗リン脂質抗体症候群の病態や症状、治療について、血栓症に対する診療を中心に、北海道大学大学院医学研究科 免疫・代謝内科学分野(内科Ⅱ)教授の渥美達也先生にお話しいただきます。

抗リン脂質抗体とは?自己抗体の総称

抗リン脂質抗体とは、これからご説明する抗リン脂質抗体症候群に関係する抗体のことを指します。抗リン脂質抗体は一つの抗体の呼び名ではなく、リン脂質結合蛋白に対する自己抗体の総称です。

リン脂質結合蛋白は、細胞膜の陰性リン脂質に結合する性質をもつ血液中の物質で、β2-グリコプロテインⅠ(aPLβ2GPI)やプロトロンビンが代表的です。これらの蛋白に対する自己抗体は総じて「抗リン脂質抗体」と呼ばれています。

血栓症や不育症に関係する抗リン脂質抗体症候群とは?

抗リン脂質抗体症候群とは、抗リン脂質抗体を持つ方にみられる自己免疫性疾患の一種です。

自己免疫性血栓症あるいは自己免疫性妊娠合併症が生じた場合、血液中に抗リン脂質抗体がみつかると抗リン脂質抗体症候群と定義されます。裏を返せば、抗リン脂質抗体陽性でも血栓症または妊娠合併症が生じない限りは抗リン脂質抗体症候群とは診断されません。

抗リン脂質抗体症候群の原因

抗リン脂質抗体症候群がなぜ起こるのか、その原因ははっきりとわかっていません。基本的には全身性エリテマトーデス(SLE)と同様に、遺伝や環境因子など、複合的な要因が重なり合った結果生じるのではないかと考えられています。なお、抗リン脂質抗体症候群のリスク遺伝子は確認されていますが、これは原因遺伝子ではないため、リスク遺伝子を持つ方が必ず抗リン脂質抗体症候群を発症するわけではありません。

全身性エリテマトーデス(SLE)と抗リン脂質抗体症候群は合併する

抗リン脂質抗体症候群は基礎疾患を持たない「原発性抗リン脂質抗体症候群」と、全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う「続発性抗リン脂質抗体症候群」の2種類に分類されます。

※全身性エリテマトーデス(SLE)については下記記事を参照

『全身性エリテマトーデス(SLE)とは。全身の臓器に症状を及ぼす自己免疫疾患』

抗リン脂質抗体はもともと全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんから発見された抗体であり、抗リン脂質抗体症候群と診断された方の半数(50%)は全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんです。この点から、抗リン脂質抗体症候群は全身性エリテマトーデス(SLE)と非常に近い疾患であり、同時に語られることも多くあります。したがって、全身性エリテマトーデスの患者さんにみられる抗リン脂質抗体症候群は、中枢神経ループスやループス性腎炎などと同様に、全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う一症状として分類されています。

抗リン脂質抗体症候群の患者数は?

日本には約4万人の患者さんがいると推測される

日本地図

現在のところ明確な統計はとられていませんが、抗リン脂質抗体症候群の患者さんは日本に約4万人いると推測しています。

この内訳をご説明しましょう。まず、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんは全国に6万人いることがわかっています。そのうち3分の1が続発性抗リン脂質抗体症候群であるといわれるため、続発性抗リン脂質抗体症候群の患者さんは約2万人いらっしゃると考えられます。また、上述したように原発性抗リン脂質抗体症候群と続発性抗リン脂質抗体症候群の割合は半々ですから、原発性抗リン脂質抗体症候群の患者さんも2万人と推測できます。両者を合計すると4万人になります。

抗リン脂質抗体症候群の症状―血栓症と不育症

抗リン脂質抗体症候群の主な症状は血栓症と不育症の2つです。本記事では血栓症について詳細にご説明します。

※抗リン脂質抗体症候群による不育症については記事2『不育症や流産を防ぐには?抗リン脂質抗体症候群合併妊娠に対する治療・管理』を参照

血栓症―抗リン脂質抗体症候群では動脈・静脈両方に血栓が生じる

抗リン脂質抗体症候群自体は病気ではなく、抗リン脂質抗体症候群によって生じる血栓症を内科的疾患として捉えます。

抗リン脂質抗体症候群による血栓症の特徴は、動脈と静脈両方に血栓ができる点にあります。

一般的に血栓傾向に伴っておこる血栓症(エコノミークラス症候群など)は静脈によく生じます。しかし、抗リン脂質抗体症候群による血栓症は非常に珍しいタイプで、動脈にも血栓を起こすという特徴があります。また、日本人の抗リン脂質抗体症候群の患者さんには、海外の患者さんと比べて動脈に血栓が生じる割合が多いことが知られています。

動脈に血栓が生じた結果起こる病気としては脳梗塞と心筋梗塞が代表的ですが、抗リン脂質抗体症候群の場合、圧倒的に脳梗塞を発症する方が多くなっています。この理由はまだわかっていません。

頭痛に苦しむ

その他の症状―血小板減少症や弁膜症、神経症状などが現れる

血栓症以外にも、抗リン脂質抗体に関連した症状が複数生じることがあります。これを抗リン脂質抗体関連疾患群と呼びます。

*抗リン脂質抗体関連疾患群の一例

抗リン脂質抗体関連血小板減少症

抗リン脂質抗体関連弁膜症

抗リン脂質抗体関連神経疾患(舞踏病、横断性脊症、てんかん)

抗リン脂質抗体関連血小板減少症の注意点

通常の血小板減少症と違い「出血」と「血栓症」両方のリスクがある

血小板

抗リン脂質抗体症候群によって起こる抗リン脂質抗体関連血小板減少症では「血小板数が減少することで出血しやすくなる」ため、臨床症状は一般的な血小板減少症と関連しています。しかし、これらは少し性質が異なります。

一般的な血小板減少症では、自己免疫の誤作動により血小板数が減少し、些細なことで出血しやすくなります。血栓が生じることはありません。

これに対して抗リン脂質抗体関連血小板減少症の場合は、血小板数が低くなっているときは出血リスク、血小板が増加傾向にあるときには血栓のリスクが高まります。つまり、抗リン脂質抗体関連血小板減少症では出血と血栓両方のリスクがあるのです。そのため、単純に血小板が減少するだけの血小板減少症とは区別して考える必要があります。

抗リン脂質抗体症候群はどのように診断される?

血栓症または妊娠合併症の臨床症状と血液検査から判断し認定する

抗リン脂質抗体症候群は厚生労働省の特定疾患に指定されており認定基準が発表されていますが、全身性エリテマトーデスなど他の膠原病と同様に、現在のところ国際的な抗リン脂質抗体関連血栓症の診断基準は存在しません。そのため現状では、2006年に提唱された国際分類基準案(札幌基準シドニー改変)という分類基準(臨床研究のときに疾患を定義するときに使われる基準)を診断基準として使っています。

なお、厚生労働省から発表されている認定基準は下記の通りです。

【厚生労働省による特定疾患の認定基準】

臨床基準

1. 血栓症

画像診断、あるいは組織学的に証明された明らかな血管壁の炎症を伴わない動静脈あるいは小血管の血栓症

  • いかなる組織、臓器でもよい
  • 過去の血栓症も診断方法が適切で明らかな他の原因がない場合は臨床所見に含めてよい
  • 表層性の静脈血栓は含まない

2. 妊娠合併症

① 妊娠 10 週以降で、他に原因のない正常形態胎児の死亡、または

② (i)子癇、重症の妊娠高血圧腎症(子癇前症)、または(ii)胎盤機能不全による妊娠 34 週以前の正常形態胎児の早産、または

③ 3回以上つづけての、妊娠 10 週以前の流産(ただし、母体の解剖学的異常、内分泌学的異常、父母の染色体異常を除く)

検査基準

1. International Society of Thrombosis and Hemostasis のガイドラインに基づいた測定法で、ループスアンチコアグラントが 12 週間以上の間隔をおいて 2 回以上検出される。

2. 標準化された ELISA 法において、中等度以上の力価の(>40 GPL or MPL、または>99 パーセンタイル)IgG 型または IgM 型の aCL が 12 週間以上の間隔をおいて 2 回以上検出される。

3. 標準化された ELISA 法において、中等度以上の力価 (>99 パーセンタイル)の IgG 型または IgM 型の抗抗体が 12 週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。

(本邦では抗β2-GPI 抗体の代わりに、抗カルジオリピンβ2--GPI 複合体抗体を用いる)

厚生労働省:平成27年1月1日施行の指定難病(新規)より

抗リン脂質抗体症候群による血栓症の有無を確認する検査の方法

前項の診断基準に記載されている通り、抗リン脂質抗体症候群では血栓症の有無が診断における臨床基準の一つとなります。そのため、一般的には血栓症を証明する検査を行います。

抗リン脂質抗体症候群による血栓症は脳に多く起こるので、検査では主に脳のMRIやCT撮影をします。静脈血栓を疑う場合はCTや静脈エコーを実施することもあります。

抗リン脂質抗体症候群による血栓症への治療

急性期の動静脈血栓症に対しては抗血小板療法、抗血栓療法が行われる

抗リン脂質抗体症候群による急性期血栓症に対しては、通常の血栓症の治療と同様に抗血栓療法が行われます。治療薬は妊娠合併症のものと共通で、低用量アスピリンや他の抗血小板薬、あるいはヘパリン(血栓症のみの場合はワルファリンを使うこともあります)が用いられるのが標準的です。

血栓症が起こる前から抗リン脂質抗体症候群の予防的治療をすべき?

抗リン脂質抗体症候群と診断されても、血栓が生じていない段階ではあくまで「血栓症のリスクが高い状態」です。この段階での一次予防、すなわち予防的治療はエビデンスがないため、基本的には推奨していません。

これは、喫煙や脂質異常症が抗リン脂質抗体症候群と同じく血栓症のリスクを高めても、喫煙者や脂質異常症の方が全員血栓症の予防治療をするわけではないのと同様です。

ただし血栓症のリスク因子が重なる場合は予防治療を行ったほうがよい場合もあるので、予防治療をするか否かは医師が他のリスクとの兼ね合いをみて判断します。

たとえば、全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う続発性抗リン脂質抗体症候群の方でステロイドホルモンを服用しており、かつ抗リン脂質抗体の力価が高い場合は一次予防をする可能性があります。

抗リン脂質抗体症候群の血栓症は再発予防(二次予防)が大事

再発率が非常に高いため一度血栓症を起こした方は予防治療が必要

抗リン脂質抗体症候群による血栓症は再発の頻度が非常に高いため、「二次予防」が非常に重要です。

一般的に、一度脳梗塞を起こした方が1年以内に血栓を再発する可能性は約2%ですが、抗リン脂質抗体症候群による血栓症の場合は9%と4倍以上の差があります。ですから、一度血栓症を発症した方には、必ず再発予防の治療を受けていただきます。抗リン脂質抗体が陽性である限りは、生涯にわたって二次予防の抗血栓療法を継続しなければなりません。

その他、血栓症の再発を予防するには?

抗リン脂質抗体症候群は血栓症のリスクの一つであるため、再発予防のためには他のリスクを減らすことが大事です。

一般的に見逃されてしまうような軽度な脂質異常症やLDLコレステロールの上昇は徹底的に管理し、禁煙指導も入念に行います。また、女性の場合は静脈血栓のリスクとなる避妊用の低用量ピル内服は禁忌となります。

抗リン脂質抗体症候群は一般内科で診療できる?

一般の診療科でも診療が可能です。

診療を受ける様子

抗リン脂質抗体症候群は難病ですが、特殊な治療薬を要する疾患ではありません。治療法も抗凝固療法あるいは抗血小板療法ですから、地域の診療科で管理していただいても大きな問題はないと考えます。実際、北海道大学では地域の先生と連携して抗リン脂質抗体症候群の患者さんのフォロー体制を築いています。

抗リン脂質抗体症候群の最新治療研究

現在行われている臨床治験は?

近年、抗リン脂質抗体による補体の活性化が抗リン脂質抗体症候群の病態に関係すると考えられています。こうした補体の活性化成分に対してモノクローナル抗体という物質が有用であるという報告がなされており、現在世界的に治験が行われている最中です。

また、全身性エリテマトーデス(SLE)の治療薬「ヒドロキシクロロキン」が抗リン脂質抗体症候群の一次予防に有用であるとも推測されており、現在欧州にて効果検証が行われています。

 

抗リン脂質抗体症候群(渥美 達也先生)の連載記事

北海道大学医学部を卒病後、英国留学を経て2016年現在同大学大学院医学研究科 免疫・代謝内科学教室(内科Ⅱ)教授。リウマチ膠原病学と血栓症を専門としており、現在は新規治療法開発に尽力している。趣味は男声合唱(北大OB合唱団所属)。

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