概要
子癇とは、妊娠20週以降に初めて生じるけいれん発作で“妊娠高血圧症候群”が重症化した場合に発症することがあります。
妊娠高血圧症候群は妊娠時に高血圧(収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上)を認めるもので、妊娠中の人の約20人に1人の割合で発症するといわれています。特に妊娠34週未満の妊娠高血圧症候群では重症化しやすく、子癇などを引き起こすリスクがあります。
なお、子癇はけいれんを起こす時期によって“妊娠子癇”“分娩子癇”“産褥子癇”に分類され、日本では分娩子癇や産褥子癇が多くみられます。
子癇は胎児や母体の生命に関わるため、発作が起こった場合は早急な治療が必要です。
原因
子癇は明らかな原因のない妊娠中のけいれんと定義され、明確な原因は分かっていません。現在、子癇を引き起こすきっかけとして考えられているのは妊娠高血圧症候群のほか、免疫や遺伝子の異常、母体と胎盤とをつなぐ血管の発達不良、胎盤の異常などが挙げられます。
子癇では、これらのきっかけによって妊娠初期から中期に胎盤が正常につくられなかった場合、母体の血管に異常が生じると考えられています。その結果、脳の血管に障害が起こり、けいれんを引き起こすことが想定されています。
症状
子癇では、妊娠高血圧症候群によって脳の血管が障害され、妊娠中や分娩中、産褥期のいずれかの時期にけいれん発作を生じます。その大半は、けいれん発作が生じる1週間ほど前に突然視界に光の波が現れ、その部位が暗くなって見えなくなる視覚障害(閃輝暗点)や頭痛を起こします。
重症の場合には、脳の血管が詰まる“脳梗塞”や脳の血管が破れる“脳出血”などを合併し、後遺症が残ったり致命的になったりすることもあります。このほか、けいれん発作の後は胎児の状態が悪くなる“胎児機能不全”をきたすことがあるため、胎児の状態の評価が必要です。
胎児の脈拍数が一時的に少なくなることもありますが、回復しない場合には本来分娩後に子宮から剥がれる胎盤が早期に剥がれてしまう“常位胎盤早期剥離”を合併していることも考えられます。
検査・診断
けいれん発作が治まったら、ほかの病気との鑑別のため血液検査や画像検査が行われます。
血液検査
白血球・赤血球・血小板の数や腎臓の機能、血栓性の病気の有無を確認するため、複数の項目を調べます。また、けいれん発作の後は体のphが酸性に傾くアシドーシスを認めることがあるため、血液中の酸素や二酸化炭素の濃度を調べる検査を行うこともあります。
画像検査
血液検査などから脳卒中の疑いがあると判断した場合には、MRIなどの画像検査が行われます。緊急の処置を要する場合には、より短時間で検査結果を確認できる頭部CT検査が行われます。
子癇では、このような画像検査でけいれん発作の前後に脳のむくみ(脳浮腫)や血管の収縮を認めることがあります。
治療
子癇のけいれんを起こした場合、まずは救急処置を行い、次にけいれんの再発を抑える治療や血圧を下げる治療が行われます。このほか、母体や胎児の状態によっては、胎児の成長や妊娠週数などを鑑み、早期の分娩が考慮されることもあります。
救急処置
子癇のけいれん発作を起こした場合、まずは救急処置として呼吸がしやすいよう気道を確保し、酸素投与や点滴などが行われます。同時に、母体の血圧や血液中の酸素濃度などのバイタルサイン測定や胎児の心拍数などを確認します。
けいれんに対する治療
子癇のけいれんに対しては、硫酸マグネシウム(MgSO4)という薬の点滴投与が行われます。このほか、症状に応じてほかの抗けいれん薬を併用することもあります。
血圧を下げる治療
血圧が180/120mmHg以上であるなど通常よりかなり高い場合には、脳だけでなく心臓や腎臓まで障害を受ける可能性があるため、緊急で血圧を下げるための治療が行われます。
この場合、ヒドララジンやニカルジピンという血圧降下薬を用いて、点滴で投与します。
早期の分娩
子癇によってけいれんを起こした場合は、胎児に影響が及ぶ可能性が高いとされています。そのため、母体の症状が安定した後に胎児の状態を確認し、早期の分娩を行うことがあります。
予防
妊娠高血圧症候群を認める場合には、子癇を予防するために血圧を下げる治療やけいれんを予防するための薬物療法が行われます。このほか、妊娠の継続によって母体や胎児に影響が及ぶと考えられる場合には、早期の分娩が考慮されます。
妊娠高血圧症候群には確実な治療法がなく、定期的に検診を受けて病状の把握やコントロールを図ることが重要です。食事など日常生活上の注意点も踏まえ、主治医の指示に従いましょう。
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