概要
常位胎盤早期剥離とは、子宮の正常な位置に付着している胎盤が妊娠中や分娩中などに胎児が生まれる前のタイミングで剥がれることを指します。妊婦の0.5~1%に生じるとされていますが、重症な場合には大量出血を引き起こして母体が死に至るケースもあり、妊産婦死亡原因の11%を占めているとされています。また、胎盤は胎児に酸素や栄養を送る大切な役割を果たしています。出産前に子宮から剥がれてしまい胎児に十分な酸素が届けられなくなると胎児の脳性麻痺や死亡のリスクもあります。
出血などが続くときや胎児の心拍に異常がみられるときなど、緊急で帝王切開が必要になる場合もあります。
原因
常位胎盤早期剥離は、胎児が娩出されるより前のタイミングで正常な位置に付着していた胎盤が、子宮の壁から剥がれることです。子宮から剥がれると子宮と胎盤の間には血腫(血の塊)が形成されます。その血腫がどんどん大きくなることで子宮と胎盤の剥離した範囲が広がっていきます。
常位胎盤早期剥離が引き起こされる明確なメカニズムは解明されていませんが、前回までの出産で常位胎盤早期剥離を起こした場合はリスクが高いとされています。また、高齢出産や多胎妊娠、出産回数が多いこと、喫煙、羊水過多、高血圧、絨毛膜羊膜炎、抗リン脂質抗体症候群なども発症のリスクとなることが報告されています。
症状
常位胎盤早期剥離の症状は重症度によって大きく異なります。
剥離した範囲が狭く、拡がっていかない場合は軽いお腹の張りを感じる程度で自覚症状はほとんどありません。
一方、剥離した範囲が広い場合は突然の強い痛みやお腹の張りがあります。多くの症例で不正性器出血がないことが、前置胎盤との違いとして重要です。血圧低下が生じ、血液が固まりにくく出血しやすい状態になる“播種性血管内凝固症候群”や多臓器不全を併発する可能性があります。このような状態に陥ると、胎盤を介した酸素供給が不十分となって胎児に酸素が行き渡らなくなり、胎児死亡を引き起こす可能性が高くなります。
検査・診断
症状などから常位胎盤早期剥離が疑われる場合は、次のような検査が行われます。
超音波検査
胎盤の状態を確認するために超音波検査を行うことがあります。超音波検査は迅速に行うことができ、胎児にも影響を与えないため妊娠中でも行うことができます。しかし感度は高くなく、超音波検査では所見がみられないことも多くあります。
血液検査
常位胎盤早期剥離は大量出血を引き起こし、播種性血管内凝固症候群などを併発する可能性があります。そのため貧血や凝固異常の有無などを評価するために血液検査を行うのが一般的です。重症度を評価するためにも必要であり、輸血の必要性を判断するために実施されます。
治療
お腹の張り、痛み、出血などの症状が続くときは、できるだけ早い児の娩出を完遂させることが必要です。娩出の方法は、胎児が生存していれば原則として帝王切開となります。胎児が死亡している場合には経腟分娩が選択されることもあります。また、胎児の娩出後も出血が止まらない場合は子宮内バルーンタンポナーデや子宮摘出などが必要になることもあります。
播種性血管内凝固症候群や多臓器不全などを引き起こしている場合は分娩後も慎重な管理が必要となり、それぞれの状態に合わせて輸血、輸液、人工呼吸器管理、抗DIC治療などが行われます。
なお、常位胎盤早期剥離では、胎児に異常がみられることもあるため新生児科やNICUなどと連携した娩出が求められます。
予防
常位胎盤早期剥離の明確な発症メカニズムは解明されていないため、確実な予防法もないのが現状です。
また、前回までの妊娠や出産中に常位胎盤早期剥離を発症した既往がある場合は、次回以降の妊娠でも発症する危険が高くなることが分かっています。既往を産科医が把握し、適切な情報提供を行うことが大切です。
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