概要
抗リン脂質抗体症候群とは、“抗リン脂質抗体”と呼ばれる自己抗体(自分の体の一部を攻撃するタンパク質)が作られることで血液が固まりやすくなり、血栓症や習慣性流産などを引き起こす病気のことです。この病気の半数は免疫系統の異常によって引き起こされる全身性エリテマトーデスという病気を併発するとされており、女性のほうが男性よりも5倍ほど発症しやすく、30~40歳前後で発症するケースが多いことが分かっています。
一方で、このような併発する病気がなく抗リン脂質抗体症候群のみを発症するケースを“原発性抗リン脂質抗体症候群”と呼び、難病の1つに指定されています。
抗リン脂質抗体症候群は根本的な治療が確立されておらず、治療は血栓症に対する治療や予防が主体となり、血栓症のリスクを高める肥満や喫煙などの生活習慣がある場合は生活改善を行うことが必要です。
原因
抗リン脂質抗体症候群は自己抗体である“抗リン脂質抗体”が体内で作られることで血液が固まりやすくなる病気です。
私たちの体には血管内の血液を固まりにくくする仕組みがありますが、抗リン脂質抗体はこの仕組みの一部のはたらきを妨げる作用があるため、血管内に血栓(血液の塊)ができやすくなると考えられています。
抗リン脂質抗体が形成される明確なメカニズムは解明されていません。一方で、この病気の半数は自己免疫疾患である全身性エリテマトーデスを併発していることが分かっており、抗リン脂質抗体症候群の発症に何らかの関与があると考えられています。また、全身性エリテマトーデスのような合併症を持たずに発症するものは“原発性抗リン脂質抗体症候群”と呼ばれ、遺伝などの関与が指摘されています。
症状
抗リン脂質抗体症候群は血管内で血液が固まりやすくなるため、血栓を形成して血管を閉塞させてさまざまな症状を引き起こします。
具体的には、深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳梗塞などさまざまな病気を引き起こし、下肢の痛みや腫れ、呼吸苦、胸痛、神経麻痺、腹痛などそれぞれの病気に特徴的な症状が現れます。重症な場合には命を落とす原因になることも少なくありません。
また、この病気によって流産が引き起こされることが知られています。特に妊娠10週以降に子宮内で胎児が死亡する流産を繰り返すのが特徴で、3回以上にわたって流産を繰り返す“習慣性流産”の場合はこの病気が疑われます。さらに、この病気は妊娠高血圧症候群や子癇発作など重篤な妊娠時の合併症のリスクを高めることも指摘されているため注意が必要です。
検査・診断
症状などから抗リン脂質抗体症候群が疑われるときは次のような検査が必要です。
画像検査
この病気では種々の血栓症を引き起こす可能性があるため、症状から疑われる血栓症を発症しているか確認するためCTやMRI、超音波などを用いた画像検査が必要です。
血液検査
抗リン脂質抗体の存在を確認するため血液検査が必須となります。具体的には、抗カルジオリピン抗体や抗β2-グリコプロテイン抗体、ループス抗凝固因子の有無が調べられます。
治療
抗リン脂質抗体症候群を根本的に治す方法は残念ながら確立していません。そのため、この病気と診断された場合は血栓が形成されるのを予防する治療と血栓症を発症した場合の治療が行われます。
血栓症を発症したり、習慣性流産と診断されたりした場合は血液を固まりにくくする抗血小板薬や抗凝固薬などを用いた薬物療法が予防的に行われます。
また、抗リン脂質抗体症候群は急激に全身症状が悪化することがあります。このような場合には上述した薬物療法に加えて免疫を抑えるためのグルココルチコイド(ステロイド)大量療法や血液中から抗リン脂質抗体を除去するための血漿交換療法などを行うことがあります。
予防
抗リン脂質抗体症候群は明確な発症メカニズムが解明されておらず、確立した予防法もありません。しかし、この病気は命に関わる肺塞栓や脳梗塞など重篤な病気を引き起こすこともあるため、必要な場合は医師の指示にしたがって適切な薬物療法で血栓症を予防することが大切です。なお、抗リン脂質抗体症候群と診断された場合は血栓症のリスクを高める肥満や喫煙などの生活習慣を改め、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病の管理を徹底していくことも必要です。
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