概要
前置胎盤とは、胎盤が通常よりも低い位置で子宮の壁に付着することで、子宮の入り口の一部または全部を覆ってしまっている状態のことを指します。
一般的に出産は胎児が娩出されると、胎児に栄養と酸素を送る役目を果たしていた胎盤が子宮の壁から剥がれ落ちて娩出されていきます。前置胎盤では、胎盤が出される際に大量の出血を引き起こすことで母子ともに危険な状態に陥るリスクがあります。そのため、妊婦健診などで前置胎盤と診断された場合は、原則的に陣痛が起こる前に帝王切開での出産を計画することとなります。
前置胎盤は全妊娠の1%ほどの頻度でみられるとされていますが、はっきりした発症メカニズムは解明されていません。しかし、近年では前置胎盤の発生率が増えているとの報告もあり、母体の高齢化、帝王切開の既往、不妊治療、ほかの子宮内操作などが発症に関わっていると考えられています。
原因
前置胎盤は、本来であれば子宮の上のほうの壁に付着して胎児と母体をつなぐ胎盤が、低い位置に付着し、子宮の入り口を覆う状態のことです。
前置胎盤の発症原因は明らかにされていませんが、高齢出産、喫煙歴、帝王切開や人工妊娠中絶などの既往、多産などがリスク要因として挙げられています。近年では出産の高齢化が進んでいるため、帝王切開の割合とともに前置胎盤の発生も増えているとされています。
症状
前置胎盤は基本的に自覚できる症状はなく、妊婦健診などで発見されるケースがほとんどです。
しかし、妊娠週数が進んで子宮が大きくなっていくと腹痛を伴わない性器出血がみられることがあります。これは、妊娠28週以降になると出産に備えて子宮の入り口が徐々に柔らかくなって広がっていく際に、子宮の入り口を覆う胎盤の周囲の血管が破綻して出血するために生じるもので、“警告出血”と呼びます。少量の出血のみの場合もありますが、大量出血を引き起こして、低血圧や意識消失などの重篤な症状を引き起こすことがあります。
また、前置胎盤は逆子など胎位異常を合併しやすいと考えられています。さらに、過去に帝王切開や子宮内操作を経験したことがある場合や経産婦の場合は、胎盤が子宮の壁に強く付着して出産後も剥がれない“癒着胎盤”を合併する頻度が高いとされています。
検査・診断
前置胎盤の診断は超音波断層法によって行われます。
超音波検査は、胎盤の位置や子宮の入り口を覆う範囲などを評価することができるため、診断だけではなく治療方針を決めるうえでも非常に役立つ検査です。ただし、胎盤の位置は妊娠週数が進み子宮が大きくなるにつれて徐々に高い位置に上がっていくこともあるため、前置胎盤と確定できるのは妊娠28週以降とされています。
そのほか、癒着胎盤の合併が疑われる場合は、胎盤の状態を詳しく評価するためにMRI検査を行うことがあります。また、大量の性器出血がみられるときは、貧血やDICの評価のために血液検査が行われます。
治療
前置胎盤を治す方法は残念ながらありません。そのため、妊娠中期以降に前置胎盤と診断された場合は、周産期センターなどの高次医療機関に転院することが一般的です。
また前置胎盤と診断された場合は、胎児の発育や子宮収縮の状態などを考慮しながら、妊娠37週頃に帝王切開を予定して出産するのが一般的です。しかし、大量の出血があるときや胎児の状態が悪くなったときは、胎児の発育が不十分な状態での緊急帝王切開を行う必要があります。
なお、前置胎盤は帝王切開中に大量出血を起こしやすく、出血が止まらない場合は追加での止血操作を行いますが、状況によっては子宮摘出が必要になる場合もあります。
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予防
前置胎盤の明確な原因は明らかになっていないため、確実な予防法もないのが現状です。
前置胎盤は適切な管理を行わなければ、大量出血などで母子ともに危険な状態に陥ることがあります。前置胎盤と診断された場合、妊娠中に性器出血などの症状があるときは少量であっても速やかにかかりつけ医に相談するようにしましょう。
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