
前置胎盤のうち5~10%に合併するといわれる「癒着胎盤(ゆちゃくたいばん)」は、日本における母体死亡の主要な原因のひとつであり、ほとんどの場合、分娩後に生命を守るための子宮全摘出術が行われます。本記事では、癒着胎盤の種類とそれぞれの危険性について、順天堂大学医学部婦人科講座准教授の牧野真太郎先生にお話しいただきました。
癒着胎盤とは、胎盤の一部である絨毛が子宮筋層に侵入し、子宮壁と胎盤が癒着してしまう異常妊娠のことです。絨毛が侵入した部分にはたくさんの血管が存在するため、胎盤が剥がれた部分からは多量の出血が起こります。加えて、胎盤が子宮内に残存してしまうために子宮の収縮が妨げられ、出血が止まらないという非常に危険な事態に陥ることが多々あります。
癒着胎盤は、胎盤の絨毛が子宮筋層へどの程度侵入しているかにより、次の3種に分類されます。
① 楔入胎盤(せつにゅうたいばん)…絨毛が子宮筋層表面と癒着しているが、侵入はしていない。出血のコントロールができれば、子宮を温存できることもある。
② 嵌入胎盤(かんにゅうたいばん)…絨毛が子宮筋層内に侵入しているが、貫通はしていない。子宮の温存は非常に難しい。
③ 穿通胎盤(せんつうたいばん)…絨毛が子宮筋層を貫通し、子宮漿膜面にまで及んでいる。子宮の温存は非常に難しい。子宮と隣接する膀胱にまで絨毛が侵入し、子宮筋層と膀胱の癒着が起こることもある。
②と③の癒着胎盤の場合は、分娩後子宮を摘出せねばならない場合がほとんどですので、あらかじめお母さんにもご家族にも十分に説明をします。
癒着の程度が比較的軽いのは①の楔入胎盤ですが、分娩後の出血のリスクが最も高いのも、この楔入胎盤です。一般的には癒着胎盤は事前診断ができないといわれていますが、②の嵌入胎盤と③の穿通胎盤は、超音波検査とMRIにより、「強い疑いあり」と事前に判断することがほぼ可能です。
たとえば、超音波検査で胎盤が膀胱のあたりまで及んでいるとわかれば、ほぼ確実に癒着胎盤であるといえるでしょう。しかし、楔入胎盤は比較的軽い癒着であるがゆえに、検査段階では気づきにくく、分娩後、胎盤を剥離する際の出血によって初めてわかることが多いのです。
もちろん、事前に診断できた(もしくは強く疑うことができた)癒着胎盤でも出血のリスクは非常に高く、帝王切開前に万全の準備を整える必要があります。特に膀胱と胎盤が癒着している症例では、胎盤剥離の際の大量出血の危険性が極めて高くなります。
癒着胎盤のリスク因子の代表は、「帝王切開後の前置胎盤」です。この理由は、過去の帝王切開の瘢痕部(傷あとの部分)には絨毛が容易に侵入できてしまうからです。超音波検査とMRIにより前置癒着胎盤を疑わせる所見がみられない場合でも、以前に帝王切開を経験しており2度目以降の妊娠で前置胎盤と診断された方の帝王切開には、前置癒着胎盤の可能性を疑って臨むべきと考えます。
癒着胎盤の頻度は、1950年代には3000分娩中に1例と非常に稀な疾患でした。しかし、帝王切開による分娩が増加したことで、近年ではおよそ10~50倍にも増加したといわれています。少しでも「怪しい」と感じたときは輸血を十分に確保するなど、最悪の事態を防ぐための備えを万全にして手術を行わなければ、日本の母体死亡は減らないと考えます。
順天堂大学大学院医学研究科 産婦人科学教授、順天堂大学医学部附属浦安病院 産婦人科科長
牧野 真太郎 先生の所属医療機関
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