「ハイリスク妊娠」という言葉をご存知ですか。これは、母児のいずれかまたは両者に重大な予後不良が予想される妊娠のことを指し、妊娠・分娩時には考えられるリスクに備えた適切な管理や対応が必要とされます。今回はハイリスク妊娠の一つであり、大量出血を伴うこともある「前置胎盤(ぜんちたいばん)」の症状・診断・帝王切開について、央優会レディースクリニックの院長、種元智洋先生にお話を伺いました。
通常、胎盤は子宮底部と呼ばれる子宮の天井側に形成されます。これとは異なり、胎盤が子宮の出口部分である内子宮口を覆っていたり、一部が内子宮口にかかっている状態のことを「前置胎盤」と言います。前置胎盤の発生頻度は全分娩の0.3~0.6%と決して高くはありません。しかし、前置胎盤になってしまった場合は、妊娠後期や分娩時に大出血を伴う可能性が高く、入院や輸血を要することもあるため、その症状やリスクを知り、理解していただく必要があります。
胎盤の形成される位置が通常と異なるという点で、しばしば混同されがちな「前置胎盤」と「低置胎盤」ですが、明確な違いがあります。低置胎盤の場合、胎盤の位置は通常より低く、その端(胎盤辺縁)は内子宮口から2㎝以内のところにありますが、内子宮口には全くかかっていません。そのため、低置胎盤は経膣分娩が可能なケースもしばしばあります。
これに対し、胎盤辺縁がわずか数㎜でも内子宮口にかかっていれば前置胎盤と診断され、ほぼ100%帝王切開による分娩となります。
前置胎盤は、胎盤がどの程度内子宮口にかかっているかにより、次の3種類に分けられます。
最も危険性が高いのは1の全前置胎盤であり、辺縁前置胎盤は、前置胎盤の中では比較的軽い症状と言えます。
前置胎盤の典型的な症状は、痛みを伴わない突発的な性器出血ですが、症状の程度は妊娠週数によって大きく変わります。妊娠20週頃ならばほとんど出血もなく、一般的には無症状です。前置胎盤が原因の出血は、子宮口が広がる妊娠後期に起こりやすく、出血量も週数が進むにつれ増加していきます。少量の出血の場合は「警告出血」と呼ばれますが、その後大出血を起こすこともありえます。さらに、一度大出血を起こした場合は、再度出血する可能性も高まります。
症状が認められた場合は、必ず産婦人科の緊急受診・入院が必要になり、場合によってはそのままお産まで、長期間にわたっての入院となるケースもあります。
そのため、前置胎盤または前置胎盤の疑いがあると診断された場合には、帝王切開の必要性を理解しておくだけでなく、出血や緊急かつ長期的な入院の可能性があることも理解し、周囲の人に周知しておいた方が良いでしょう。
このほか、胎盤が内子宮口側にあり、胎児の頭部が骨盤に入り込めないため、逆子になりやすいといった特徴もあります。
子宮体下部がギュっと閉じている妊娠初期や中期の早い段階では、低い位置に形成された胎盤が内子宮口にかかっているように見える(※前置胎盤のように見える)ことが多々あります。しかしながら、これは文字通り前置胎盤のように見えるだけであり、そのほとんどは前置胎盤ではありません。そのため、診断は分娩時まで前置胎盤の可能性が高くなる妊娠30週前後に行います。
日本産婦人科学会の資料にも、前置胎盤で他院に管理を依頼する場合は31週までに紹介し、32週までに受診を完了するようにとありますので、30週前後に診断するのはスタンダードであると言えるでしょう。
前置胎盤の疑いがある場合、内診は禁忌ですので、診断には経腟超音波検査を用います。
央優会レディースクリニック 院長
央優会レディースクリニック 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本超音波医学会 超音波専門医日本臨床細胞学会 細胞診専門医
東京慈恵会医科大学を卒業後、町田市立病院、国立成育研究医療センター 周産期診療部産科医員、東京慈恵会医科大学附属病院 総合母子健康医療センターの産科病棟医長を経て、現在は央優会レディースクリニック 院長および千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座 特任准教授を務めている。出生前の超音波診断などを専門とする周産期医療のエキスパートであり、正常分娩から合併症妊娠まで、日々あらゆる症例に対応している。
種元 智洋 先生の所属医療機関
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