インタビュー

前置胎盤の止血法にはどのようなものがある?「圧迫縫合法」を図解

前置胎盤の止血法にはどのようなものがある?「圧迫縫合法」を図解
牧野 真太郎 先生

順天堂大学大学院医学研究科 産婦人科学教授、順天堂大学医学部附属浦安病院 産婦人科科長

牧野 真太郎 先生

この記事の最終更新は2016年01月29日です。

子宮の下部や頸部は、子宮体部に比べて筋組織が少ないため、筋肉による収縮が弱くなっています。そのため、胎盤が子宮の下部に形成されてしまう「前置胎盤」では、赤ちゃんが生まれて胎盤が剥がれた時に、子宮筋の収縮による止血ができず大量出血を起こすことがあります。実際に母体からの大量出血が起こったとき、手術室ではどのような止血処置が行われているのか、順天堂大学医学部婦人科講座准教授の牧野真太郎先生にお伺いしました。

前置胎盤は、母体を危険にさらす可能性が非常に高い「ハイリスク妊娠」ですので、必ず帝王切開での分娩となります。胎児が娩出されたら(赤ちゃんが生まれたら)、まず胎盤が剥離するか確認を行います。胎盤を剥がすことができ、さらに出血もなかった場合はスムーズに手術終了となりますが、多くの場合は胎盤剥離後に剥離面からの出血が起こります。このとき私たち医師が行う止血法には下記のようなものがあります。

  • 子宮収縮薬の使用:薬により子宮の収縮を促し止血する
  • ガーゼやバルーンタンポナーデ法を用いた止血
  • 圧迫縫合法(あっぱくほうごうほう)
  • 動脈結紮術(どうみゃくけっさつじゅつ)
  • 子宮摘出術(しきゅうてきしゅつじゅつ)

本記事では、胎盤剥離面全体から大量に血液が湧き上がってくるような出血時に行う、順天堂方式の「圧迫縫合法」について、具体的にどのような処置を行うのかを解説します。

圧迫縫合法とは、子宮の前壁と後壁をきつく縫い合わせることで出血部位を圧迫し、止血する方法です。

 

子宮の圧迫縫合法には様々な方法がありますが、ここでは子宮の下の方の胎盤剥離面を子宮前後壁で圧迫する“vertical compression sutures(順天堂方式)”という方法を紹介します。“vertical compression sutures”は、前置胎盤など、子宮の下部や頸部からの出血に対し有効です。また、血管や尿管を損傷するリスクも極めて少ないため、安全かつ迅速に行える止血法であるといえます。

膀胱を損傷させないよう、十分に下方に剥離してから、子宮下節の筋層を露出させます。帝王切開による傷の端よりもやや内側・下方で、子宮の前壁から後壁へと一気に針糸を貫通させます。

(上の図は子宮を横から見た図。)

1で糸を通した箇所の約2㎝上かつ、帝王切開の傷より下部に、後壁から前壁に向けて針糸を貫通させます。

これを、左右1か所ずつ行います。針糸を動かすときには、腸管を損傷させないよう十分に注意する必要があります。

​子宮の前壁と後壁をきつく圧迫した状態で、結紮(けっさつ)します(結紮:ここでは、止血のために糸をきつく結ぶこと)。このとき、腸管や胃の周囲にある腹膜である大網などを巻き込んでいないか確認しながら結紮することが重要です。

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