ここでは前期破水の原因や詳しい症状、予防方法についてご説明します。なお、前期破水の治療には健康保険が使えることをご存知でしょうか。この理由についても後半でご紹介します。
陣痛が始まる前に、胎児を包んでいる卵膜(羊膜、絨毛膜、脱落膜)が破けて羊水が漏れてくることを“前期破水”といいます。
前期破水と似た言葉に“早期破水”があります。早期破水とは、陣痛は始まっているものの、子宮口が全開になる前に破水することをいいます。早期破水も前期破水に含まれていますが、前期破水のなかでも陣痛が始まった後に起こるため問題ないという判断から名称がつけられています。
早期破水を起こすと分娩が早く進む傾向にあるといわれていますが、分娩が進まない場合には赤ちゃんの感染症予防のため子宮収縮薬を使用して陣痛、分娩を促すこともあります。
前期破水を起こすと、“何か出てきている”と感じます。しかし、漏れてきた羊水が少ないと、サラサラとした水っぽいおりものが出てきているだけと勘違いされる方もいます。
前期破水後に発熱したりおりものが増加したりする
発熱や膿性帯下(黄色や緑がかった悪臭のするおりもの)が現れる場合があります。これは細菌感染(絨毛膜羊膜炎)が起こり始めているサインと考えられます。
羊水は胎児と子宮壁の間でクッションの役割をしています。そのため前期破水で羊水が減り続けると、胎児とへその緒が子宮壁に圧迫されるため、変動一過性徐脈(赤ちゃんの脈拍数が一時的に少なくなる)を起こすことがあります。
卵膜とは、胎児を包んでいる胎盤を構成する組織の一部です。この卵膜部分に雑菌などが侵入すると、炎症を起こすことがあります。炎症部位に白血球が集まってくると、白血球が持つ酵素の作用で羊膜のコラーゲンがもろくなってしまい、卵膜が破けて前期破水を起こしてしまいます。
羊膜・絨毛膜部分に雑菌が入る原因には腟炎などが考えられます。
羊水量が多い方や多胎妊娠(双子や三つ子などを妊娠している)の方は、通常より羊膜内容物が多くなることから、子宮内圧が上昇しやくなります。
感染がなければ軽度の子宮内圧の上昇で破水することはありませんが、交通事故などの外傷がきっかけで子宮内圧の強い上昇が生じた場合には破水を起こすことがあります。
出生前診断(胎児に先天的な問題がないかを調べる検査)を行う際に、羊水を採取することがあります。非常に細い針を使用しますが、まれに卵膜が損傷し、前期破水を起こすことがあります。
病気やケガで医療機関を受診したときに窓口に健康保険証を提示すると、実際の医療費負担額は1~3割になります。しかし妊娠、出産は病気ではないため、健康保険が適用されません。つまり、妊娠出産で医療機関を受診した際の費用は全額自己負担になるのです。
妊婦健診は、自治体から母子手帳と一緒に渡されるチケット(補助券)を使えるため、ある程度出費を抑えることはできますが、途中でチケットが足りなくなった場合はそれ以降の検査費用が全額自己負担となります。
しかし、妊娠中や出産でトラブルが生じた場合に行う処置には、健康保険が適用されることがあります。たとえば、妊婦健診で実施する超音波検査は健康保険適用外ですが、切迫流産や前置胎盤といったトラブルの状態を確認するために実施した超音波検査では、健康保険が適用されます。
今回ご紹介してきた前期破水は、そのままにしてしまうと母子共に悪影響を及ぼす可能性があるため、前期破水の治療費、入院費(差額ベッド代は除く)は健康保険が適用*されます。
*今回は前期破水のケースをご紹介しましたが、妊娠悪阻(にんしんおそ:重度のつわり)や逆子でも健康保険が適用される場合があります。詳しくは医療機関にお問い合わせください。
前期破水の原因は多岐にわたり、はっきりとは特定されていません。しかし病院では、前期破水の予防のために喫煙はもちろんのこと、過度な運動を避けるように指示されることがあります。
また、性感染症が原因の1つとなる可能性も指摘されていることから、以下のような取り組みも大切といえるでしょう。
順天堂大学大学院医学研究科 産婦人科学教授、順天堂大学医学部附属浦安病院 産婦人科科長
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