胎盤が通常より低い位置に形成され、妊娠後期や分娩時の大出血が予想されるハイリスク妊娠・「前置胎盤」。原因や前置胎盤になりやすい人は明らかになっているのでしょうか? また、日常生活でできる予防策や治し方は存在するのでしょうか? 央優会レディースクリニックの院長、種元智洋先生にお話しいただきました。
前置胎盤になるメカニズムは、現段階でははっきりとはわかっていません。強いて述べるならば、子宮手術などをこれまでに受けたことがあり子宮内膜に傷がある場合、そこに着床する可能性が高くなるため、胎盤の位置が低くなる可能性も高まるといえます。このほか、現在考えられている前置胎盤のリスク因子を挙げていきます。
上記のリスク因子を詳しく見ていきましょう。前置胎盤の発生頻度は、35歳未満では全分娩の0.5%、35歳以上になると1.5%という報告もあるため、高齢妊娠に多いというのは間違いないと思われます。しかし、現在日本では全体的に高齢妊娠が増えているので、必ずしも年齢だけが原因だと明言することはできません。
また、今は昔に比べて帝王切開も増えました。逆子や双子のお産では、過去のように経膣分娩で無理をせず、リスクを回避するために多くの病院で帝王切開による分娩が施行されています。高齢妊娠が増えたことから、難産で緊急帝王切開に切り替えざるを得ないというケースも増加しています。こういった背景もあり、帝王切開の既往(これまでに帝王切開術を受けた経験)により前置胎盤の発生率が上がるというのも肯けます。帝王切開の既往は、前置胎盤だけでなく、前置癒着胎盤(「前置癒着胎盤」)の発生率上昇にもつながるものです。
ちなみに「自分のお母さんが前置胎盤だった場合、自分も前置胎盤になりやすいのか」という質問を受けることもありますが、前置胎盤は遺伝することはありません。
前置胎盤は予防できるものではありません。基本的に、「なってしまってからの対応」となります。また、食生活との関連もありません。
前置胎盤は、残念ながらご本人の努力や、手術や投薬といった治療でどうにかできるものではありません。診断を受けた場合は、出血を防ぐために安静にする必要があります。
ただし、先述したように、妊娠週数が浅い段階では前置胎盤はあくまで「疑い」であり、その後に実は前置胎盤ではなかったとわかることもよくあります。妊娠30週前後に診断を告げた後で診断が変わることもあります。
今はどこの病院でも大体妊娠20週前後で胎盤の位置を確認しますが、この時点ではほとんどの疑いが「空振り」ですから、お母さんには無駄な不安を抱かせてしまわないよう、「前置胎盤のように見えているだけのこともよくありますよ」と付け加えています。
エコー写真だけでは、本当の前置胎盤と前置胎盤の疑いを妊娠20週前後の段階で見分けることができる人はほとんどいないでしょう。しかし、現在あるグループでは、「妊娠20週頃に前置胎盤を疑ったとき、それが結果的に前置胎盤であったかどうか」という研究も前向きになされています。こういった研究は今後増えてくるのではないでしょうか。それが即治療につながるわけではありませんが、あらかじめリスクを把握できるようになるという点が大きなメリットであると言えます。
央優会レディースクリニック 院長
央優会レディースクリニック 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本超音波医学会 超音波専門医日本臨床細胞学会 細胞診専門医
東京慈恵会医科大学を卒業後、町田市立病院、国立成育研究医療センター 周産期診療部産科医員、東京慈恵会医科大学附属病院 総合母子健康医療センターの産科病棟医長を経て、現在は央優会レディースクリニック 院長および千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座 特任准教授を務めている。出生前の超音波診断などを専門とする周産期医療のエキスパートであり、正常分娩から合併症妊娠まで、日々あらゆる症例に対応している。
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