インタビュー

前置胎盤の分娩-出血のリスクや赤ちゃんへの影響は?

前置胎盤の分娩-出血のリスクや赤ちゃんへの影響は?
種元 智洋 先生

央優会レディースクリニック 院長

種元 智洋 先生

この記事の最終更新は2015年11月22日です。

前置胎盤の最大のリスクは分娩時の大量出血とも言われており、分娩方法はほぼ100%帝王切開となります。また、妊娠中の出血の程度によっては、緊急帝王切開が必要となることも少なくはありません。今回は、分娩時に考えられるリスクの詳細や赤ちゃんへの影響について、央優会レディースクリニックの院長、種元智洋先生にお話しいただきました。

前置胎盤の分娩には、大量出血をはじめとする高いリスクが伴うため、NICUのある総合病院や大学病院で対応することとなります。また、妊娠後期になると出血頻度も増していくので、人工早産となる場合も多々あります。妊娠中に緊急帝王切開が必要になるような出血がない場合は、胎児の成長を待ち、妊娠37週以降を目安に帝王切開を行います。

前置胎盤の場合、分娩時の大量出血にそなえ、あらかじめ2~3回自己血貯血をするのが望ましいとされています。また、自己血では足りないほどの出血が起きた場合に備えて、輸血の確保も万全にしておきます。ただし、実際に輸血を行うか否かは、母体の状態(貧血の程度や心拍数、血圧など)によって変わりますので、必ずしも全てのケースで輸血を必要とするわけではありません。

手術時間は止血にかかる時間などにより変わりますが、早くて普通の(逆子などの)帝王切開と同じ程度で、ほとんどは長くなると考えていただいて間違いないでしょう。

前置胎盤による大量出血は母体死亡の大きな原因であり、分娩時に母体の生命にかかわるほどの出血が起きた場合は、やむをえず子宮摘出の処置がとられることもあります。1993年のデータになりますが、前置胎盤の3.5%症例に子宮摘出が必要であったという報告もなされています。

先に述べたように、前置胎盤の場合は早産になる可能性も高く、そのこと自体が赤ちゃんの負うひとつのリスクであると言えます。しかし、母体からの出血が多く、34週未満で早産児として生まれた赤ちゃんは、前置胎盤であったかどうかということは関係なく、早産児としてのリスクを負うだけ、つまり「生まれた時の週数のリスクを週数相当に負うだけ」ということになります。前置胎盤の出血は母体からのものであり、出血量が多いことが赤ちゃんに影響を与えるといったことはありません。他の早産児と同じように、NICUにも生まれた週数に応じて入院することとなります。

帝王切開には縦切開と横切開、2種類の切開法があります。縦切開は何かあった時に切り口を広げやすく、手技的に簡単というメリットがあり、横切開は傷が目立ちにくく、美容面で優れているというメリットがあります。

現在、施設によっては縦と横どちらの切開法も行うこともありますが、前置胎盤の場合はリスクが高くなるため、そのような施設であっても縦切開しか行わないことがあります。当院では、あらかじめ出血が少なそうであると考えられる場合に限り横切開を行うこともありますが、その件数は少なく、ほとんどは縦切開となります。

また、よりリスクの高い癒着胎盤を合併している疑いが持たれる場合は、縦切開のみでの処置となります。前置胎盤の危険な合併症である癒着胎盤については、次の記事で詳しく解説していきます。

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  • 央優会レディースクリニック 院長

    日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本超音波医学会 超音波専門医日本臨床細胞学会 細胞診専門医

    種元 智洋 先生

    東京慈恵会医科大学を卒業後、町田市立病院、国立成育研究医療センター 周産期診療部産科医員、東京慈恵会医科大学附属病院 総合母子健康医療センターの産科病棟医長を経て、現在は央優会レディースクリニック 院長および千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座 特任准教授を務めている。出生前の超音波診断などを専門とする周産期医療のエキスパートであり、正常分娩から合併症妊娠まで、日々あらゆる症例に対応している。

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