インタビュー

全身性エリテマトーデス(SLE)とはどのような病気? 顔の湿疹や腎炎といった症状が特徴である全身性の免疫疾患

全身性エリテマトーデス(SLE)とはどのような病気? 顔の湿疹や腎炎といった症状が特徴である全身性の免疫疾患
井畑 淳 先生

国立病院機構横浜医療センター 臨床研究部長/膠原病・リウマチ内科部長

井畑 淳 先生

目次
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全身性エリテマトーデスSLE)は全身に起こる自己免疫疾患の一種で、顔に特徴的な湿疹(しっしん)がみられることが知られています。全身性エリテマトーデス(SLE)の症状や診断、治療に対する考え方などについて、国立病院機構 横浜医療センター膠原病・リウマチ内科 部長の井畑 淳(いはた あつし)先生にお話を伺いました。

全身性エリテマトーデスSLE)は全身に起こる免疫の病気です。その中でも主に悪くなるところは皮膚、白血球や赤血球などの血球、そして腎臓です。そのほか、症例によっては胸膜(きょうまく)(肺と胸郭を包む膜)や心膜(しんまく)(心臓を包み、ほかの臓器と隔てている膜)に炎症が生じ、胸膜炎や心膜炎を発症することもあります。

炎症を起こすと熱が出るため、最初にみられる症状としては関節の痛みと熱が多いです。さらに、この病気の名前の由来でもある特徴的な症状として、皮膚の湿疹があります。

エリテマというのは“赤い”という意味で、赤い湿疹(紅斑)のことをエリテーマといいます。つまり、エリテマトーデス(Erythematosus)は“赤い湿疹ができる病気”という意味です。全身性エリテマトーデスはSLEとも呼ばれます。これはSystemic Lupus Erythematosusの略です。Systemicは英語で“全身の”という意味で、Lupusはラテン語で狼のことを指します。“狼に噛まれた痕のような形の赤い湿疹を生じる全身の病気”という意味で、この名前が付けられました。

全身性エリテマトーデスSLE)の皮膚症状の特徴は、顔に蝶々のような形の湿疹が出ることです。鼻筋を蝶の体に見立てると、ちょうど左右に羽を広げたような形に湿疹が出ることから蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)あるいはバタフライ・ラッシュと呼ばれます。

蝶形紅斑

蝶形紅斑2
画像提供:国立病院機構横浜医療センター 井畑淳先生

この皮疹(ひしん)は全身性エリテマトーデス(SLE)に非常に特徴的なものであるとされています。すべての患者さんにみられるわけではありませんが、蝶形紅斑が出ている場合には全身性エリテマトーデス(SLE)の可能性が高いといえます。

患者さんが最初に気づくきっかけは、こうした皮疹で皮膚科を受診することもありますが、熱が出てなかなか下がらないという場合もあります。しかし、湿疹も最初から目に見えてはっきり出るとは限らないため、何か赤いものが皮膚に出てきて熱もあるということから、はしか麻疹)や水ぼうそう水痘)かもしれないと考えて病院に来られる方もいらっしゃいます。

患者さんの自覚症状としては、関節の痛み・熱・皮疹の3つが最初によくみられるものですが、腎臓が炎症を起こすため、中にはむくみが現れるという方もいらっしゃいます。発熱や異常なだるさを訴えて受診された方を診察してみると、足がむくんで水が溜まっているというケースはしばしばみられます。

PIXTA
写真:PIXTA

先に述べたように、全身性エリテマトーデスSLE)では特徴的な湿疹が出ることが多いのですが、患者さん自身が湿疹を見て最初からこの病気を疑うということはあまりありません。したがって、我々が診療をしているリウマチ内科を受診される患者さんは、主にほかの診療科からの紹介で来られることが多くなっています。

患者さんが発熱やだるさ、関節痛、湿疹などにより最初に皮膚科や内科など一般の開業医を受診された場合、体のどこが悪いか分からないまま診断に悩んでしまうこともよくあります。特に全身性エリテマトーデス(SLE)は症状が多彩であるため慣れていないと診断することは困難だと思います。

日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医が診れば、全体のおよそ7割以上を占めるような典型的な症例については、診断に至ること自体は決して難しいわけではありません。もちろん例外的な症例はありますが、現在は診断の手がかりとなるような特異性の高い抗体(病気の特定に役立つタンパク質)などがあることも分かっています。たとえば、抗DNA抗体と抗核抗体が強い陽性を示している、あるいは補体が低下するというような特徴的な所見が出ている患者さんに関しては、比較的容易に診断が可能です。

湿疹についても、より詳しく診断するために皮膚の一部を採取して調べるという方法があります。この検査によって湿疹などの皮膚症状が本当に免疫の病気によるものなのかどうかということが、より正確に判断できる可能性があります。皮膚の症状が診断の糸口になることもあるため、近年の海外の診断基準では皮膚に関して詳しく分類して評価するようになっています。

PIXTA
写真:PIXTA

全身性エリテマトーデスSLE)の典型的な疾患像は、20歳代から30歳代ぐらいの比較的若い女性が発症し、急な発熱とともに湿疹やむくみ、関節の痛みが出てきて、抗生物質を使ってもよくならないというものです。しかし、実際には症状の現れ方はさまざまです。皮膚の症状だけ、関節の症状だけが目に付く患者さんもいらっしゃいます。たとえば皮膚症状が中心であっても、リウマチ内科を受診してよく調べてみたら実は腎臓にも炎症があることが分かったというような場合もあります。

皮膚症状として円板状の紅斑(Discoid)のみが現れている場合には、全身性のエリテマトーデスとは別のものとして、慢性円板状エリテマトーデス(Discoid Lupus Erythematosus:DLE)と診断されることがあります。しかし、皮膚症状が中心であるためにDLEだと思われていた症例であっても、よく診てみると実は全身症状がみられるということがあります。

たとえば皮膚症状の場合、典型的な症例では顔に非常に鮮明な紅斑が出るので比較的分かりやすいのですが、たとえば手の甲などに湿疹が出る、あるいは脱毛という形で症状が出る方もかなりいらっしゃいます。毛の根元に皮疹があることが脱毛の原因になっている場合には、見ただけではなかなか分からないということがあります。

特に若い女性の患者さんでこのような症状がみられ、全身性エリテマトーデスSLE)を疑った皮膚科医の先生方は我々が診療しているようなリウマチ内科に紹介してくださいますが、患者さん自身が受診や通院をせず後になってリウマチ内科にかかってみると実は全身性エリテマトーデス(SLE)だったということもあります。症状がもっと表に出てきてからようやく病院に行き、病気が進んでかなり重い状態で受診される方もいらっしゃるのです。

全身性エリテマトーデスSLE)の治療は腎炎があるかどうかで少し変わってきます。全身性エリテマトーデス(SLE)による腎炎はループス腎炎と呼ばれ、この病気の予後、すなわちこれからの経過を決める重要な 要因であるといわれています。

腎臓で炎症がずっと続いていると、やがて腎臓の機能が低下していきます。

腎臓には糸球体(しきゅうたい)と呼ばれる毛細血管の塊がおよそ100万個あります。炎症によって糸球体が壊れていくと、その分だけ腎臓の機能は低下してしまいますが、腎臓には予備能力があるので、機能の低下を早めに食い止めることができれば、残った糸球体が機能を補って元の状態に回復する可能性があります。

しかし、治療のタイミングが遅れて糸球体がどんどん壊れると、腎臓の機能が元に戻らないような状態になり得ます。それがあまりにひどくなると人工透析腎移植が必要になります。したがって、腎機能を元に戻せないとしてもできるだけ障害が少ない状態で止められる可能性があるという意味では、治療介入は早いほうがよいといえます。

皮膚症状に関しても、浅い皮疹であれば治療によってある程度治すことができますが、かなり深いところまで湿疹がある場合は瘢痕(はんこん)といって、あとがへこみとなって残ったり、脱毛が永久的なものになったりすることがあります。全身性エリテマトーデスSLE)の患者さんは比較的若い女性が多いため、このような審美的な問題も軽視できないところです。

全身性エリテマトーデス(SLE)の5年生存率は、95%以上と高い数字を示しています。適切な治療を受けることができれば短期間に命を落とすようなことはまれであり、良好な状態を保つことができます。しかし、治療の目的としてはそれ以外にも“生活の質をいかに保てるか”という部分もとても重要です。我々は長い目で見たときに患者さんがいかに幸福な人生を送ることができるかという視点を持って治療することが非常に大切であると考えています。

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