概要
不育症とは広い定義では、妊娠は成立するものの、流産や死産、新生児死亡(新生児:出生後28日を経過しない乳児を繰り返し、結果的に子どもを持てない病態をいいます。特に流産(22週未満に妊娠が終了してしまうこと)を2回以上繰り返した場合を「反復流産」、3回以上繰り返した場合を「習慣流産」といい、大多数の不育症は妊娠12週未満の初期に発生します。
不育症の定義には新生児死亡が含まれてはいますが、不育症において主に問題となるのは流産・死産です。新生児死亡も最終的に子どもを獲得できないという意味では同じですが、これは主に赤ちゃん側の要因(お母さんの要因ではない場合)で起こり、偶然起こることが多いです。
原因
不育症・習慣流産は、偶然起こることもあれば、何か要因があることもあります。要因は多様で、内分泌異常や血栓性素因(血管に血の塊が生じやすい状態)などが挙げられます。しかし、不育症については分かっていないことが多く、詳細な検査を行っても約半数は原因が特定できないといわれています。
以下に「不育症の方を調べるとよくみられる異常」を挙げます。ただし、これらは不育症の直接の原因かどうか分かっていないため、「これらの因子があると流産しやすい」という意味で「リスク因子」ともいわれています。
赤ちゃん側の病気
- 染色体異常疾患(構造異常・数的異常)
- 遺伝子異常(単一遺伝子疾患・多因子遺伝子疾患)
お母さん側の病気
- 抗リン脂質抗体症候群
- 子宮奇形(子宮形成不全)
- 甲状腺機能の異常
- 黄体機能不全
- 血液凝固系の異常
検査・診断
不育症の検査対象
不育症の検査を次のような方に推奨されます。
3回以上の流産を繰り返した場合
流産が3回以上になると、治療前後での妊娠の成功率に差が出てくることが分かっているため、検査を受けることが推奨されます。ただし、一度でも出産を経験したことがある方では、検査の意義はあまりありません。
原因不明の死産の場合
原因不明の死産の場合は、たとえ1回であっても検査を行うことがあります。ただし、臍帯が絡んでしまうなど偶然起きた出来事が原因となることが多いため、主治医とよく相談してください。
検査の内容
問診
主に下記について確認します。
- 妊娠歴
- 肥満
- 喫煙
- カフェインの大量摂取
- 精神的なストレス
血液検査
<内分泌検査>
甲状腺異常を認めた場合:抗サイログロブリン交代、抗ペルオキシダーゼ抗体、TSH受容体抗体)
<免疫学的検査>
- 抗核抗体
- 抗リン脂質抗体検査
<血栓性素因検査>
PT、APTT、プロテインC活性、プロテインSカッセイ、第XII因子活性
<夫婦の染色体検査>
超音波検査・子宮卵管造影検査
先天的な子宮奇形や後天的な粘膜下子宮筋腫など子宮の形態異常がないか確認するために行います。中隔子宮という奇形は、流産率が高く、かつ子宮鏡手術による治療が可能です。
骨盤MRI:子宮の奇形である双角子宮と中隔子宮を鑑別したり、子宮の形状を確認したりするために使用することがあります。
子宮鏡検査
超音波検査ではっきりとしない子宮内膜ポリープや子宮内膜炎を確認することができます。
治療
まず知っていただきたいことは、不育症患者さんのうち多くの方が、最終的に子どもを授かることができるといわれていることです。しかしこれはもちろん、検査・治療を進めた場合です。流産を3回以上経験された方にとっては、妊娠されても不安を感じることもあると思いますが、ぜひ医師と二人三脚で前向きに治療を行ってください。
不育症の治療は検査を行い、みつかったリスク因子をもとに行います。精神的なストレスやカフェインの大量摂取、喫煙、肥満も流産と関連性があり、生活習慣を見直すことも重要です。不育症治療を行っても流産した場合は、絨毛染色体検査を行い、その後の治療方針を検討します。
原因がわかっている場合の不育症の治療法
基本的には検査でみつかった異常に対して適切な治療を行います。
- 抗リン脂質抗体陽性や凝固因子異常の場合は「抗血栓療法」を行います。
- 甲状腺機能異常や糖尿病などでは内科の医師などと連携し、薬物治療を行います。
- 子宮の形態異常がある場合には、子宮鏡下や腹腔鏡下の手術により治療を行います。
- 近郊型相互転座やRobertson転座などの染色体異常に対しては、着床前診断(PDG)を行う選択肢があります。しかし、子どもを得るまでの流産回数が減ることは期待できても、最終的に子どもを持てる割合には影響しないと報告されています。また、PDGでは生殖補助医療が必要となり、体への負担や高額な治療費がかかるため、実際に行うかについては遺伝カウンセリングでよく相談してください。
原因不明な不育症の治療法
検査を行っても原因が分からない方が半分程度いらっしゃいます。流産の多くは胎児の染色体異常が原因であり、胎児側の理由で流産を繰り返している場合もあれば、まだわかっていない原因(リスク因子)が存在する可能性も考えられます。最近では、原因不明の不育症に対してプロゲステロンの投与を用いることが検討される場合もあります。
「不育症」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「不育症」に関連する記事
- 不育症の検査と費用、有効性の高い治療法-保険適用で受けられる治療とは?富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学...齋藤 滋 先生
- 不育症の原因-染色体構造異常がみつかっても、最終的に出産できることが多い富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学...齋藤 滋 先生
- 抗リン脂質抗体症候群の女性が妊娠中に流産、死産をしないためには名古屋市立大学 医学研究科産科婦人科学分野杉浦 真弓 先生
- 抗リン脂質抗体症候群が原因の不育症は正しい検査・診断のもとで治療を受けることが大事名古屋市立大学 医学研究科産科婦人科学分野杉浦 真弓 先生
- 不育症や流産を防ぐには?抗リン脂質抗体症候群合併妊娠に対する治療・管理北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内...渥美 達也 先生
関連の医療相談が10件あります
帯状疱疹による顔面麻痺
今治療中ですが、発生から約2か月たち、現在ビタミンB12の投与をうけております。 帯状疱疹自体は、右耳に出るであろうといわれましたが、出たという認識はありません。このことは、顔面麻痺も軽症であると認識してもよいのでしょうか。完治には、6か月くらいかかるといわれていますが、もっと早く治る方法は、ないのでしょうか。いま、現在毎日7キロぐらい速足で散歩しております。ときどきふらつくことがありますが、しっかり歩いていると思っております。いま、脳神経内科で治療しております。
睡眠不足解消
睡眠について教えて下さい。夕飯はいつも晩酌しながら18:00~19:00頃になります寝床に入るのが21:00過ぎになります 時には寝床で少しテレビを見たりもします。寝つきはあまり心配しないのですが、夜中に目がさめて以後朝まで眠れない時があります。 以前、睡眠のサプリを飲んでみたのですがあまり改善しませんでした、どんな対応をすれば快適な睡眠ができるか教えて下さい。
チック症は治りますか?
突然、しゃっくりのような変な声が出たり身体が痙攣したりするようになってしまいました。 病名はまだわかっていませんが、病院ではもしかしたら「チック」かもと言われました。 もう3ヶ月近くずっと治っていなくて、薬もあまり効いていません。 声が出てしまうので職場でひどく目立ってしまい、周りから心配されます。 今後症状が治らない場合は仕事を続けるにしても周りに迷惑がかかるし、リモートワークも可能になってはいますが永久にそれだけでは今の仕事を続けるわけにいかないのでは…独身なので人と関わらないのは辛いし… と不安です。。 薬が効かない場合は治療法はないのでしょうか…?
妊娠中のコロナワクチン接種
妊娠中もコロナワクチンを推奨されていますが、副作用や胎児への影響、長期的な影響を考えると躊躇しています。 現在、安定期に入ったので受けるタイミングは今かなとも思っています。 やはり受けた方が良いでしょうか。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
不育症を得意な領域としている医師
-
-
不妊症
- 体外受精・胚移植
- 調節卵巣刺激
- 遺伝カウンセリング
- PRP療法
-
不育症
- 検査
- 薬物療法
- カウンセリング
-
子宮筋腫
- 腹腔鏡手術
- 子宮鏡手術
-
子宮内膜症
- 薬物療法(低用量ピルなど)
- 腹腔鏡手術
-