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不育症の主な治療法――低用量アスピリン・ヘパリン併用療法を中心に

不育症の主な治療法――低用量アスピリン・ヘパリン併用療法を中心に
林 博 先生

恵愛生殖医療医院 院長

林 博 先生

目次
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不育症にはさまざまな原因があることが分かってきており、主な原因の1つである抗リン脂質抗体症候群については治療法が確立されています。

今回は、抗リン脂質抗体症候群に対する“低用量アスピリン・ヘパリン併用療法”を中心に、不育症治療の現状や将来の展望などについて、恵愛生殖医療医院 院長の(はやし)ひろし)(先生にお話を伺いました。

低用量アスピリン・ヘパリン併用療法は、抗リン脂質抗体症候群や類似する病態(血が固まりやすいなど)の方に対して行う、抗凝固療法(血液をサラサラにする治療法)です。

抗リン脂質抗体症候群は不育症の主な原因の1つで、抗リン脂質抗体という自己抗体*が血液中に血栓(血の塊)をつくって血流を悪化させ、胎児への栄養供給を妨げる病気です。低用量アスピリン・ヘパリン併用療法の実施により胎児の成長を阻害する因子が除かれ、出産に至る確率が高まることが報告されています。

*自己抗体:自分の組織や細胞に対する抗体のこと。抗体には本来、特定の異物と結合して体外に排除するはたらきがあるが、自己抗体ができると自分の組織や細胞を攻撃し、自己免疫疾患を引き起こす。

不育症は、抗リン脂質抗体症候群のほかにも、子宮の形態異常や子宮筋腫、黄体ホルモンの不足、甲状腺機能異常など、さまざまな原因により起こります。

子宮の形態異常がある場合には、主に内視鏡による形成手術を行い、子宮筋腫があれば、子宮鏡手術(子宮口から内視鏡を挿入して行う)などにより筋腫を切除します。また、黄体ホルモンの不足や甲状腺機能異常があれば薬物治療を開始します。

当院では実施していません(2023年8月時点)が、体外受精を選択する場合には、PGT-Aにより、染色体の異数性(数の異常)の有無を調べることができます。胚(受精卵)の細胞の一部を採取して検査を行い、異数性のない胚を見極めて子宮内に移植すれば、流産の可能性の低減が期待できると考えられています。

抗リン脂質抗体があると血液が固まりやすくなり、血栓をつくって血流を悪化させ、胎児への栄養供給を妨げます。このようなメカニズムで起こる抗リン脂質抗体症候群による流産を避けるべく、血栓をできにくくするための治療として低用量アスピリン・ヘパリン併用療法を行います。

低用量アスピリンとヘパリンを併用すると治療効果が高まることが分かっています。低用量アスピリンは1日1回服用し、妊娠27週6日前後で中止しますが、ヘパリンは1日2回、12時間ごとに腹部への自己注射を35週6日前後まで継続します。注射キットの登場により自己注射が簡便になり、保険適用になったため以前よりも受けやすくなったとはいえ、治療の必要性をしっかりと見極めることが重要です。

妊娠中にお腹に自分で注射を打たなければならないため、初めは抵抗感を持つ方もいらっしゃいます。また、約30週間、毎日2回注射を続けるため、お腹が内出血で赤くなってしまうのですが、注射によって治療効果のみならず安心感を得ているという方も多いようです。不育症の患者さんは、今回もお腹の赤ちゃんが流産や死産をしてしまうかもしれないという不安を抱えていらっしゃるので、注射が心の安定にもつながっているのかもしれません。低用量アスピリン・ヘパリン併用療法について分からないことや心配なことがある場合は、ご遠慮なく質問をしていただければと思います。

喫煙や過度の飲酒、カフェインの過剰摂取は流産や死産のリスクを高める可能性があるため、避けたほうがよいでしょう。また、適度な運動は肥満防止になるだけでなく、血流を促し、体を温める効果も期待できます。

なお、当院では患者さんの状態に応じて、漢方薬の柴苓湯(さいれいとう)などを処方する場合があります。

不育症の治療には、周囲の精神的なサポートも重要です。治療に携わる医療スタッフによるテンダー・ラビング・ケア*はもちろん、パートナーの存在も大きな支えになるでしょう。また、必要に応じてメンタルヘルスケアを専門とする医療施設でカウンセリングを受けるのもよいかと思います。

*テンダー・ラビング・ケア:医師、看護師ら医療スタッフが、不育症に関する正しい知識に基づいて実践する“優しさに包まれるような愛に満ちたケア”。

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写真:PIXTA

近年、日本不育症学会が設立され、不育症治療の標準化が進められています。当院も、エビデンスに則った標準的な治療を提供するという、地域における役割をしっかり果たしていきたいと考えています。また、系列の恵愛病院の産科では、私も外来診療を担当しています。当院の患者さんには、妊娠10週以降を目安にそちらへ移っていただき、36週ぐらいまで私が引き続き診療しますので、安心して受診いただければと思います。

不育症の治療を続けていると、治療以外に何も考えられなくなってしまうときがあります。ご家族や周囲の方のサポートを受けながら心身を休める時間を取るのも、治療を継続するうえで重要でしょう。特に、流産された後などには、体調をみながらパートナーとともに旅行に出たり、おいしいものを食べに行ったりするなど、日常から離れて気分転換をする機会をつくるとよいと思います。上手にリフレッシュできれば、心穏やかに、また治療に臨めるのではないでしょうか。私たち医療スタッフも、患者さんの安心につながる治療を提供できるよう、日々努力を続けていきます。

認定医制度による治療の標準化

日本不育症学会では2020年度から認定制度を設け、不育症の診療に必要な知識、技術を身につけた医師の養成、患者さんが安心して受診できる環境づくりに力を注いでいます。これにより、今後、不育症治療の標準化がさらに進むと期待しています。

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)の普及による流産率の抑制

体外受精によって得られた胚(受精卵)の細胞の一部から染色体の異数性(数の異常)の有無を調べるPGT-Aのさらなる普及が、不育症の治療に生かされるよう期待しています。この検査により異数性のない胚を見極め、子宮内に移植すれば、流産率の抑制につながると考えられます。

新たな検査・治療法の確立

近年、抗リン脂質抗体の一種であるネオ・セルフ抗体*が不育症の原因となっている可能性を示唆する研究結果が報告されました。今後、ネオ・セルフ抗体のはたらきを抑える治療法の開発が進めば、不育症の検査、治療の進展につながると期待しています。

*ネオ・セルフ抗体:抗体は本来、異物を除去して体を守る役割を果たすが、自己に対する抗体(自己抗体)がつくられると自己免疫疾患が起こる。近年、これとは異なる仕組みで自己免疫疾患を引き起こす自己抗体が発見され、“ネオ・セルフ抗体”と名付けられた。

近年、“連続、不連続を問わず2回以上の流産や死産”と不育症の定義が拡大され、該当される方が増えていると考えられます。年齢を重ねると流産のリスクが高まりますので、なるべく早く医師に相談し、適切な治療、対策を開始されるようおすすめします。

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