晩婚化が進む近年の日本では、不妊に悩む方も少なくないといわれています。特に、女性は30歳を過ぎた頃から徐々に妊娠しづらくなるため、不妊治療に取り組む人たちも年々増加傾向にあると考えられています。
そもそも、不妊症とは、どのような原因で起こるのでしょうか。また、妊娠を望む場合、どれくらいの期間妊娠しなければ、受診を検討すべきなのでしょうか。今回は、恵愛生殖医療医院 院長である林 博先生に、不妊症の原因と検査についてお話しいただきました。
不妊症とは、正常な夫婦生活を送りながら、1年以上妊娠しない状態を指します。また、後述しますが、子宮内膜症や排卵障害など治療しなければ妊娠が難しい状態であれば、期間にかかわらず不妊症と診断されるケースが一般的です。
妊娠しやすいかどうかにもっとも影響を与えるのは、女性の年齢といわれており、加齢と共に卵子の老化が進行するために妊娠しづらくなると考えられています。具体的には30歳を過ぎた頃から徐々に妊娠しづらくなり、35歳を過ぎるとさらに妊娠しづらくなることがわかっています。
不妊症と聞くと、「女性に原因がある」と思われる方も多いかもしれません。しかし、実際には、女性と同じくらいの割合で男性にも原因があることがわかっています。そのため、本記事では、女性側と男性側、それぞれの原因と検査について解説していきます。
不妊症の原因はさまざまですが、主に以下のようなケースが考えられます。
排卵障害とは、排卵することができない、あるいは排卵までに時間がかかる状態を指します。
排卵障害は、脳の中の視床下部と呼ばれる部分からホルモンが分泌できない場合に起こることが多いといわれています。また、下垂体機能不全*や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)*と呼ばれる病気によって排卵障害が起こるケースもあるでしょう。
下垂体機能不全:脳下垂体から卵巣への排卵を促すホルモンなどが不足する病気
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):卵胞が発育するまでに時間がかかり、なかなか排卵しない病気
卵管障害とは、クラミジア感染*や子宮内膜症によって、精子の通り道である卵管の通りが悪くなったり、卵管がつまったりする場合に起こります。
卵管は左右に2つあるため、片方の卵管のみがつまっている場合には、妊娠の可能性がありますが、両方の卵管がつまっている場合には、精子と卵子が出会うことができなくなるため自然に妊娠することは難しくなるでしょう。
クラミジア感染:クラミジア・トラコマティスという病原体によって引き起こされる性感染症
子宮内膜症とは、本来、子宮の内側にある子宮内膜組織が、子宮の内側以外の場所に発生し増殖していく病気です。
この子宮内膜症の患者さんのうち、約50%は不妊症になると考えられています。子宮内膜症では、卵管が変形したり卵管がつまったりしてしまう卵管障害が起こるため、不妊につながることがわかっています。また、子宮内膜症があることによって分泌される物質が受精卵や卵子に悪影響を与えることで、受精しづらくなったり、卵子の育ちが悪くなったりすることがあると考えられています。
男性側の不妊症の原因として、なんらかの理由で精子の数が少なかったり、精子の活動力が弱かったりすることが挙げられます。
たとえば、精索静脈瘤と呼ばれる病気が原因で精子の数が減少してしまうことがあります。精索静脈瘤とは、精巣へと流れる静脈に静脈瘤(こぶのようなもの)ができてしまい、精巣の温度が上がってしまう病気です。
この病気では、精巣の温度が上昇することによって精子をつくる機能がうまくはたらかなくなり、不妊につながることがあります。
また、女性の卵管の閉塞と同じように、男性も精子の通り道である精管が閉塞してしまうことがあります。精管が閉塞してしまうと、射精時の精液の中に精子が入っていないために不妊につながることがあるでしょう。
不妊症の中には、お話ししたような明らかな原因がみつからないケースもあります。実際に、男女共に全体の約3割は、検査をしても明らかな原因が見つからない原因不明の不妊症といわれています。
たとえば、女性側では、卵子を取り込む卵管采がうまくはたらかないために受精ができないケースがあります。きちんと排卵していたとしても、卵子が卵管の中に入れないために受精できないケースがあるのです。
このような卵管采のピックアップ障害は、検査でもわからないため、原因不明のひとつとされます。
経膣超音波検査とは、膣内に超音波の機械を挿入し、子宮や卵巣の状態を確認していく検査です。この検査によって、子宮内膜症や卵巣のう腫、子宮筋腫などの異常が見つかることもあるでしょう。
また、不妊治療開始後は、経膣超音波検査によって卵子が入っている卵胞の大きさを確認し排卵日を予想することもあります。
血液検査によってホルモンの値などを測定し、卵巣機能などを確認していきます。中でも大切なものが、抗ミュラー管ホルモン(AMH)の測定です。抗ミュラー管ホルモン(AMH)を測定することで、卵子がどれくらい残っているかを予測することができます。
卵子は、もともとその方が持っている数以上に増えることはなく、限りがあります。検査の結果、卵子の数が残り少ないことがわかれば、治療を急いだほうがよいと判断することもできるでしょう。
この抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査は、まだ新しい検査であるため健康保険の適用がありませんが、当院では、6,480円(税込)の費用で検査を受けることができます。
子宮卵管造影検査とは、卵管につまりなどがなくきちんと通っているかを調べるため、造影剤によって卵管の状態を画像として映し出す検査です。一般的に、卵管造影検査には痛みを伴うため、当院では痛み止めを用いて、なるべく細い管を使用して検査を行うなどの工夫を行っています。
なお、この子宮卵管造影検査は、治療の効果も期待できる検査です。造影剤を卵管に入れることで卵管の通りがよくなった結果、自然妊娠が期待できるようになることもあります。
また、血液検査によって、クラミジアなどの性感染症の有無を調べていきます。体外受精前には、梅毒やHIV、B型肝炎、C型肝炎などにかかっていないか調べることが多いでしょう。さらに、妊娠しても問題ないか、腎臓の機能や血糖値を調べることもあります。
男性側の検査では、主に精液検査を行います。精液検査によって、精子の数や精子の運動率などを確認していきます。当院では、この検査で異常が見つかった場合、その後は男性不妊の医師が診療を担当する形になります。
また、精液検査に加えて、血液検査を行うこともあるでしょう。
繰り返しになりますが、妊娠のしやすさには女性の年齢も影響するため、30歳を過ぎた頃から徐々に妊娠しづらくなります。
特に、女性が35歳以上の場合には、妊娠しない期間が1年に満たなくても早めに受診を検討してほしいと思います。40歳以上の方が妊娠を希望する場合には、希望した時点で、1度検査を受けることをおすすめします。
一般的に、たとえば1年以上妊娠しない場合、最初に女性が受診されるケースが多いです。しかし、可能であれば、ご夫婦で一緒に受診されることをおすすめします。
どちらかに原因があったとしても、不妊治療ではご夫婦の協力が必要になるからです。情報を共有したり、真剣に将来を考えたりするためにも、なるべくご夫婦一緒に受診されることをおすすめしたいと思います。
恵愛生殖医療医院 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)
1997年に東京慈恵会医科大学卒業後、同大学病院にて生殖医学に関する臨床および研究に携わる。
2011年4月恵愛病院生殖医療センター開設。
2016年1月恵愛生殖医療クリニック志木開院。院長就任。
2018年1月同クリニックを和光市に移転し、恵愛生殖医療医院へ改称。
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医、日本周産期・新生児医学会認定 周産期(母体・胎児)専門医を持つ不妊治療のスペシャリストとして活躍。自らも体外受精・顕微授精や不育治療を経験しており、患者さま目線の治療を提供することをモットーとしている。
林 博 先生の所属医療機関
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