2022年4月に不妊治療の保険適用がスタートし、1年余りが経過しました。費用負担の軽減を受け、患者さんの治療に対する考え方にも変化がみられるようです。
今回は、金銭的な計画の前提となる費用の目安、各種支援制度の活用などについて、長年、不妊治療に携わってこられた恵愛生殖医療医院 院長の林博先生にお話を伺いました。
2022年4月から不妊治療が保険適用となり、患者さんの費用負担が軽減されたメリットは大きいと実感しています。当院では、以前は20歳代で体外受精*を受けようという方はまれでしたが、保険適用以降は20歳代後半ぐらいから体外受精を希望されるカップルが増えています。この年齢で体外受精を開始すれば妊娠できる可能性が高まりますので、早めに決断できる環境が整ったのは喜ばしいことだと考えています。
*体外受精:女性から採取した卵子と男性から採取した精子を体外で共存させて受精させる方法。
保険適用となるのは、一般不妊治療(タイミング法*、人工授精**)および生殖補助医療(体外受精、顕微授精***)で、後者については年齢により回数制限が設けられています。治療開始時の女性の年齢が40歳未満であれば1子につき通算6回まで、40歳以上43歳未満であれば1子につき通算3回までが保険適用の対象で、この回数を超えて治療する場合には自費診療になります。2023年8月現在、当院ではこの回数を超えている方はまだ多くないですが、回数制限を超えて自費で治療を継続する方に関しては、費用負担が大きくなる可能性があるでしょう。
*タイミング法:排卵日を予測し、妊娠しやすいとされるタイミング(排卵日の2日前から排卵日までの3日間)に合わせて性交する方法。
**人工授精:精液から採取して洗浄・回収した良好な精子を排卵時期に合わせて子宮内に注入する方法。
***顕微授精:女性から採取した卵子の中に、男性から採取した精子を細い針で1つ注入して受精させる方法。
治療にかかる費用の目安は実施する内容によって異なります。例として、タイミング法では通院回数にもよりますが1回2,000円程度、人工授精の場合は1月経周期あたり1万円程度が目安となるでしょう。体外受精では、凍結融解胚移植*と新鮮胚移植**のどちらを選択するかといった違いによって費用が大きく異なります。
*凍結融解胚移植:体外授精や顕微授精で得られた胚(受精卵)を凍結保管し、別の周期に溶解して子宮内に移植すること。
**新鮮胚移植:受精させた胚を、採卵した周期と同じ周期に子宮内に移植すること。
患者さんの多くは、年齢の上限や体外受精の回数などをある程度想定したうえで不妊治療に臨まれています。治療のステップアップについては、タイミング法を6回程度まで行って妊娠に至らなければ人工授精を6回程度まで、その後、体外受精に進むという流れが一般的です。また、体外受精は3~4回で妊娠する方が多いといわれています。費用の総額はこれを目安に算出できますので、体外受精まで受けるものとして計画しておくと安心でしょう。ただし、初めから体外受精をされる方もいれば、タイミング法で妊娠される方もいますので、実際の費用は患者さんによって大きく異なります。
不妊治療の保険適用によって患者さんの費用負担が軽減されていますが、そのほかにも利用できる支援制度やサービスがあります。
保険適用となったとはいえ、体外受精の費用は高額です。高額療養費制度を利用すれば、自己負担月額が上限を超えると、超過した金額が支給されます。自己負担額の上限は年齢(70歳以上か69歳以下か)や所得により決められており、不妊治療を受ける年齢の方で年収が約370~770万円であれば、体外受精を行う場合のひと月の自己負担額の上限は約8万円に抑えられます。体外受精を受ける際には、加入している健康保険組合などに申請しておくようおすすめします。
独自の助成制度を設けている自治体もあります。たとえば東京都では、体外受精や顕微授精の保険診療と併せて受けた先進医療*の費用の一部を助成する制度があります。また、埼玉県でも早期不妊検査費助成事業など、不妊症や不育症に関する支援制度が用意されています。
*先進医療:保険適用外の先進的な医療技術として認められ、保険診療とともに実施できる自費診療のこと。保険診療と自費診療は原則的に併用できないが、先進医療は例外的に保険診療との併用が認められている。
体外受精は手術として扱われるため、民間の生命保険でも保険金を受け取れる場合があります。また、先進医療として認められている治療については、先進医療特約の給付対象になる可能性があります。給付条件や保障内容は保険の種類や契約内容によって異なりますので、生命保険会社に問い合わせてみるとよいでしょう。
会社などで加入している健康保険組合で独自の支援制度を設けている場合もありますので、勤務先の担当窓口に確認するとよいでしょう。
先に述べたとおり、不妊治療の保険適用以外にも、調べてみるとさまざまな支援制度やサービスがあります。また近年、政府は少子化対策に力を入れており、その一環として今後さらなる公的支援制度ができる可能性もあるでしょう。それらを上手に活用し、治療に前向きに取り組んでいただければと思います。
恵愛生殖医療医院 院長
恵愛生殖医療医院 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)
1997年に東京慈恵会医科大学卒業後、同大学病院にて生殖医学に関する臨床および研究に携わる。
2011年4月恵愛病院生殖医療センター開設。
2016年1月恵愛生殖医療クリニック志木開院。院長就任。
2018年1月同クリニックを和光市に移転し、恵愛生殖医療医院へ改称。
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、日本産科婦人科学会認定 内視鏡技術認定医、日本周産期・新生児医学会認定 周産期(母体・胎児)専門医を持つ不妊治療のスペシャリストとして活躍。自らも体外受精・顕微授精や不育治療を経験しており、患者さま目線の治療を提供することをモットーとしている。
林 博 先生の所属医療機関
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