概要
顕微授精とは、体外受精と同様に、体外へ取り出した卵子に対して、顕微鏡で観察しながら精子を細いガラス針で直接注入する不妊治療の1つです。特に男性不妊症の治療において重要な役割を果たし、精子の数が少ない、または運動性が低い場合でも受精の可能性を高めることができます。
不妊治療には、妊娠の可能性を高めるさまざまな方法があります。まず、タイミング法では、女性の排卵時期を把握し、性交のタイミングを調整することで妊娠率の向上を目指します。また、人工授精は精子を女性の子宮内に直接注入する治療法です。
これらの治療で妊娠に至らない場合、体外受精が検討されます。体外受精は、卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を子宮に戻す治療法です。精子数が少ない、または運動率が低くて体外受精では受精が難しい場合や、体外受精で受精率が悪かったり、受精しなかったりした場合には、顕微授精が検討されます。1992年に導入されたこの治療法は、不妊に悩むカップルに新たな希望を提供しました。顕微授精は、現在も研究が続けられており、高度な技術と専門的な医療知識を必要とする生殖補助医療の1つとして、重要な選択肢となっています。
効果
顕微授精は、男性不妊症や受精障害の患者に適した治療法です。通常の体外受精では、卵子1つに対して約10万個の精子が必要とされますが、顕微授精では精子は1つあれば受精が可能となります。これにより、精子の数が少ない乏精子症や、無精子症などの患者にも、妊娠の機会を提供することができます。
顕微授精の効果は女性の年齢などの条件によって異なります。一般的には一度の胚移植で妊娠できる確率は30歳代前半までで40~50%程度、30歳代後半で30~40%程度、40~42歳で20~30%程度、43歳以上になると、数%〜10%程度となります。妊娠あたりの流産率は、30歳代前半までで10~20%前後、30歳代後半で25~30%前後、40~42歳で30~40%前後、43歳以上になると、50%前後~60%以上となります。結果的に、1回の胚移植で出産できる確率は、年齢の上昇に伴い大きく低下していくことになります。
治療の流れ
顕微授精の具体的な治療の流れは、以下のとおりです。
卵巣刺激
卵胞を多数発育させるために排卵誘発薬を使用し卵巣を刺激します。具体的には、通常月経開始3日目あたりから、排卵誘発薬の内服や注射によって卵巣を刺激し、卵胞*の成長を促します。
*卵胞:卵巣の中にある卵子が入っている袋のこと。通常、発育した卵胞から卵子が1個排卵される。
採卵
卵胞が十分に成長したら、経腟超音波で卵胞を観察しながら細い針を刺して卵子を採取します。この際、局所麻酔や静脈麻酔を使用するのが一般的です。
精子の採取(採精)
精子の採取は、病院の採精室または自宅で行うことができます。無精子症の場合は、通常は前もって病院で精巣あるいは精巣上体から直接精子を回収しておきます。
顕微授精
専用の細いガラス針を用いて採取した精子を顕微鏡下で直接卵子に注入します。
卵子の培養と受精卵(胚)の移植
受精の確認後、受精卵を専用の培養液で培養します。培養が完了したら、妊娠に適した胚(受精卵)を選び子宮に移植(胚移植)します。また、受精卵の着床を促進するため、胚移植前から黄体ホルモンを投与します。胚移植後約10日間前後で妊娠が成立しているか検査します。
1回の顕微授精で多数の受精卵が得られた場合には、余剰胚を凍結し、妊娠しなかった場合や、次の児を希望する場合に胚移植する方法(凍結胚移植)もあります。
リスク
卵巣に針を刺して排卵直前の卵子を採取します。卵子の採取は超音波を使用して慎重に行われますが、卵巣からの出血や骨盤内の感染症が生じる可能性があります。また、まれに針を刺す際に周囲の腸や膀胱を損傷してしまう場合があります。
また、一般的には排卵誘発薬を使用して多くの卵胞を成熟させた状態で卵子の採取を行います。そのため、まれに卵巣過剰刺激症候群という副作用を引き起こすことがあります。卵巣過剰刺激症候群とは、排卵誘発薬により過度に刺激されたことで卵巣が大きく腫れ、お腹に水が溜まって痛みが生じたり、重症化すると呼吸困難などを引き起こしたりする病気です。さらに、腫れた卵巣の根元がねじれると卵巣への血流が低下するため、極めてまれに手術が必要になるケースもあります。このような卵巣過剰刺激症候群は多嚢胞性卵巣症候群の人や35歳以下の人などで生じやすいことが分かっています。
顕微授精による出生児の先天異常については明確な結論は出ていませんが、特に先天異常は増えないとする報告もある一方で、先天異常が若干増加する可能性を示唆する報告もあります。なお、高度の乏精子症や無精子症で、その原因が男性の遺伝子の異常である場合は、生まれてくる子どもに男性不妊が遺伝する可能性も指摘されています。
治療後の経過
妊娠の成立が確認された場合は、治療法によっては必要に応じて妊娠初期にホルモン薬を補充しつつ、妊婦健診をしていきます。顕微授精では高年齢の人も多く、また妊娠中や分娩時の合併症の頻度も自然妊娠より高いため、妊娠後もより慎重に経過を見ていくのが一般的です。
一方で、妊娠の成立が確認できない場合は妊娠に向けて次の治療をどのように行っていくか決めていくこととなります。
費用
2022年4月から体外受精は健康保険適用となったため、原則的に3割の医療費負担で受けることができるようになりました。
一度の顕微授精にかかる費用は行う治療や使用する薬剤、採卵数や顕微授精の数、培養する受精卵の数などによって異なりますが、健康保険適用の場合の自己負担は10数万~20数万円ほどです。凍結胚の移植では、自己負担が5万~10万円前後となります。
自費の場合の費用は病院や患者によって異なりますが、おおよその目安として、上記費用の3倍前後の治療費となります。
医療機関によって費用が大きく異なるため、具体的な費用については事前に医療機関で確認することをおすすめします。
治療費が高額となる場合に、1か月(暦月:1日から末日まで)で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する「高額療養費制度」があります。この上限額は、所得に応じて定められています。
ただし、健康保険により顕微授精を受けるには条件があり、43歳未満の女性が対象となります。また、治療開始時の女性の年齢が40歳未満の場合は1子につき最大6回まで、40歳以上43歳未満の場合には1子につき最大3回までが適用となります。これらの回数は胚移植でカウントされます。
治療開始時に女性が43歳以上の場合や、上記の回数を超えた場合は健康保険が適用されないため注意が必要です。
実績のある医師
周辺で顕微授精の実績がある医師
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