概要
無精子症とは、精液中に精子がまったくいない状態を指します。精液中の精子数が基準値よりも少ない状態を乏精子症、精液そのものが出ない状態を無精液症といいます。
このような異常は精液検査によって診断でき、男性不妊症の精液検査において無精子症と診断される割合は10人に1人程度とされています。
無精子症であっても射精することは可能で精液も排出されますが、精液中に精子が存在しないため自然妊娠は不可能です。妊娠の成立を目指すには、原因に対する治療または顕微授精*が必要となります。
*顕微授精:体内から取り出した卵子と精子を体外で受精させる方法(体外受精)の1つ。卵子に精子を人工的に注入することで受精を促す
原因
無精子症には、精路(精子の通り道)の通過障害によって精液中に精子が出ない“閉塞性無精子症”と、精巣で精子が作られない“非閉塞性無精子症”の2種類があります。
閉塞性無精子症の原因
精子は精巣(睾丸)で作られ、射精時には精巣上体~精管~射精管を通り、精液と一緒に尿道から射出されます。
しかし、精巣で精子が作られても精巣上体、精管、射精管のいずれかが塞がっていると、射精しても精液中に精子が含まれず妊娠には至りません。
精子の通り道が塞がる原因には、両側精巣上体炎、先天性射精管閉塞症、先天性両側精管欠損症、ヤング・シンプソン症候群、両側鼠径ヘルニア手術後、精管切断手術後(パイプカット手術後)などがあります。しかし、原因が分からない場合もあります。
非閉塞性無精子症の原因
精巣の精子を作る能力が低下することによって正常に精子が作られない状態です。
その原因の1つに精子の形成を刺激するFSH(卵胞刺激ホルモン)の低下が挙げられます。FSHは脳の下垂体から分泌されるため、何らかの原因によって下垂体や視床下部の機能が低下するとFSHが正常に分泌されず、精子が作られなくなります。
そのほかの原因として、染色体異常(クラインフェルター症候群など)、停留精巣、薬剤(抗がん薬など)、おたふく風邪(ムンプス精巣炎)などが考えられますが、非閉塞性無精子症の半数以上は原因不明といわれています。
検査・診断
無精子症は精液中に精子が認められない状態であり、精液検査で精子濃度や精子数などを確認することで診断されます。
精液検査では2~7日間の禁欲期間の後にマスタベーションで精液を全量採取し、顕微鏡を用いて精液量、精子濃度、精子数、精子の運動率、精子の形態、白血球数を確認します。
男性の精液所見は日によって変化するため、通常2回または3回検査を行い、その中央値をもとに評価します。
また、原因を調べるために、泌尿器科で触診や血液検査、超音波検査などが行われます。
治療
無精子症の治療は閉塞性、非閉塞性によって異なります。閉塞性の場合には精子の通り道が塞がっているため、塞がった部分を開通させる手術が行われます。非閉塞性の場合、原因がFSHの低下によるケースでは薬物療法を行いますが、それ以外で精子が採取できる場合は顕微授精によって妊娠の成立を目指します。
閉塞性無精子症の治療
塞がった精子の通り道を開通させる手術を精路再建術といい、外科的に閉塞部分を取り除いてつなぎ直します。手術が奏功すれば精液中に精子が出るようになるため、自然妊娠が期待できます。ただし、先天性両側精管欠損症などで閉塞部分が長い場合、手術で治すことができません。この場合は、精巣から精子を採取して顕微鏡下に受精させる顕微授精が行われます。
非閉塞性無精子症の治療
FSHの低下によるケースでは、薬物療法によってFSHを定期的に補充することで精子が作られるようになります。そのほかの原因の場合は、現在のところ自然妊娠を期待できる効果的な治療はありません。
しかし、肉眼的に確認できる精索静脈瘤を合併している場合は、精索静脈瘤手術を行うと射出精子が出現することもあり、その後の婦人科治療で妊娠率が上昇します。
また、精液中に精子が存在しなくても、精巣の一部で精子が作られている場合があります。その割合は20~50%とされ、顕微鏡手術で精巣内の精細管(精子が作られる管)から精子を採取して、顕微授精を行うことが可能です。
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