全身性強皮症は、皮膚や内臓が硬く変化(硬化や線維化と呼ばれる)したり、血管障害が起こったりするなどさまざまな症状が現れる病気です。患者さんの半数以上に、肺の間質と呼ばれる部分に炎症や線維化が起こる間質性肺疾患がみられ、進行すると肺の柔軟性が失われて肺活量が減り、息切れや空咳といった症状が現れます。
今回は、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患を中心に、病気の特徴や治療法、注意点などについて、日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長の桑名 正隆先生にお話を伺いました。
全身性強皮症は膠原病の1つで、国の指定難病です。人間の体には、細菌やウイルスなど体外から侵入する異物を排除しようとする免疫機能が備わっていますが、免疫が自分の体(自己)と体外からの異物を区別できなくなり、誤って自己を標的として攻撃してしまうことがあります。これが自己免疫です。自己免疫により皮膚、骨、内臓などに炎症が起こり、その結果として正常な構造が壊れたり、組織を形づくるタンパク質であるコラーゲンの蓄積が生じたりすることで全身にさまざまな症状が現れる病気を総称して膠原病といいます。
膠原病の1つである全身性強皮症は多様な症状を伴う病気ですが、主な兆候として、レイノー現象と、皮膚やさまざまな臓器の線維化が挙げられます。レイノー現象とは、冷たいものに触れたときなどに指先が白色に変化し、紫色を経て赤色に変わる症状のことです。また、指先から体の中心部へと広がる皮膚硬化のほか、肺、心臓、食道などの消化管が線維化により硬くなり、機能が障害されます。
全身性強皮症の原因は明らかになっていませんが、遺伝的要素と後天的な環境要因が複雑に絡み合って起こるとされています。
遺伝的要素といっても、病気がそのまま遺伝するわけではありません。“自己免疫疾患になりやすい体質”が受け継がれることを意味します。たとえば、親や兄弟などの血縁関係に関節リウマチや慢性甲状腺炎(橋本病)*など自己免疫疾患を持つ方がいると全身性強皮症の発症リスクが高まります。中には、全身性強皮症に関節リウマチや慢性甲状腺炎を合併する患者さんもいます。
環境要因には、土ぼこりや金属・鉱物の粉じんを吸い込みやすい環境、特定の化学物質を扱う環境での就労などが挙げられます。ただし、こうした要因が特定できる事例はごく一部に過ぎません。
*慢性甲状腺炎(橋本病):甲状腺に対する自己免疫のために、全身の臓器のはたらきを活性化させるなどの役割を担う甲状腺ホルモンが減少する病気の1つ。
国内で難病認定を受けている患者数は約3万人ですが、これには軽症の方は含まれていません。実際にはもっと多く5万人程度と推測されています。
男女比は1対9で、女性に多い病気です。特に40~50歳代の女性の発症が多くみられます。しかしながら小児や高齢で発症する患者さんもおられ、基本的に年齢や性別を問わずどなたでもなり得る病気といえるでしょう。
全身性強皮症は、指先から始まった皮膚硬化がどこまで広がるか、その範囲によって2つの病型に分けられます。1つは皮膚硬化が肘や膝を越えて体の中心に近いところまで達する“びまん皮膚硬化型”、もう1つは指先から肘や膝までの範囲と顔にとどまる“限局皮膚硬化型”です。
びまん皮膚硬化型では、発症後5年程度の期間に比較的急速に全身の臓器障害が進み、特に間質性肺疾患の進行が速い事例が多いのが特徴です。
一方、限局皮膚硬化型では、長い年月をかけて症状がゆるやかに進行し、肺疾患の中でも間質性肺疾患だけでなく肺動脈性肺高血圧症*を起こす事例があるのが特徴で、圧倒的に女性に多くみられます。
このように病型を2つに分けて理解すると、それぞれの病型で将来起こり得る臓器障害を見据えたうえで治療やモニタリングが可能になります。
*肺動脈性肺高血圧症:肺動脈(血液を心臓から肺へ送る動脈)の内腔が狭くなって、肺でのガス交換が障害される病気。進行すると、息苦しさや疲労感などの症状が現れる。
全身性強皮症の初発症状としてもっとも頻度が高いのがレイノー現象です。レイノー現象とは、急な温度低下や精神的緊張により手指の血管攣縮*が起こり、指先が白色となり、時間の経過とともに紫色、さらに赤くなって元に戻るという色調の変化のことで、2色以上の変化があればレイノー現象ありと判断します。ジーンとした重苦しい感覚を伴うことがありますが、自然に回復するため放置されてしまうことが多くあります。
全身性強皮症では、レイノー現象に続いて両手の指全体が太くなり、指輪が入らない、こわばる、握りづらいといった症状が現れます。この段階で一般内科や整形外科などを受診される方もいますが、40〜50歳代で発症することが多いため更年期障害の冷え、むくみなどの症状と自己判断する女性の患者さんもおり受診につながらないケースもあります。
その後、皮膚の硬化が始まるとさらに握りづらくなります。この段階で受診される方もいます。さらに、ほぼ同時期に内臓の障害も現れると、胸やけや飲み込みづらさなどの食道の症状で消化器内科に行かれる方もいれば、痰を伴わない空咳や労作時の息切れなど間質性肺疾患の症状で呼吸器内科を受診される方もいます。
*血管攣縮:可逆的な血管の収縮により血液が十分に供給されない状態。
全身性強皮症は多様な症状を引き起こすため、患者さんは、症状から判断してさまざまな診療科を受診されます。上述の一般内科、整形外科、皮膚科、消化器内科、呼吸器内科のほか、更年期障害を疑って婦人科に行かれる方もいます。このような他科の受診をきっかけに比較的スムーズに膠原病内科にたどり着く患者さんもいらっしゃいます。
しかし実際には、患者さんの多くはレイノー現象が始まって以降、症状に合わせて複数の診療科を受診してもなかなか診断に至らない現実があります。全身性強皮症と診断されるまでに3年程度を要し、その間に全身性強皮症に関連があると思われる症状で受診した医療機関は平均3か所であるという調査結果もあり、早期に膠原病を専門とする医師にたどり着くのは難しい状況です。
最初にかかった診療科の医師が全身性強皮症をはじめとした膠原病の可能性を疑えば、膠原病内科への紹介につながります。早期発見のためには、レイノー現象や手指の腫れをみたら全身性強皮症を疑うよう、ほかの診療科の先生方にも広く認知していただきたいと思っています。
全身性強皮症と診断された方の6割程度に間質性肺疾患がみられ、この病気で亡くなる最大の要因となっています。
肺は肺胞という小さな袋がぶどうの房状につながった臓器で、肺胞の外側の部分を間質といい毛細血管が発達しています。間質を介して肺胞内の酸素が血管に取り込まれ、血管内の二酸化炭素が肺胞に移動して呼気として排出されます。その間質が炎症を起こして線維化をきたし、厚くなる病気が間質性肺疾患です。初期段階ではほとんどが無症状ですが、病気が進行するとガス交換が効率よく行えなくなり、また肺の柔軟性が失われて肺活量が減り、労作時の息切れなどが現れます。
特に、びまん皮膚硬化型では間質性肺疾患の頻度が高く、進行しやすい傾向にあります。びまん皮膚硬化型では、皮膚症状や間質性肺疾患などの臓器障害も同様に進行しやすいと考えたほうがよいでしょう。
間質性肺疾患を早期に発見するために、全身性強皮症と診断したら症状の有無にかかわらず全例で肺のCT検査を行うことが推奨されています。
一方、全身性強皮症と診断される前に、健康診断の肺の単純X線がきっかけで間質性肺疾患が見つかる場合や、息切れや咳といった自覚症状から呼吸器内科を受診して間質性肺疾患が発見されるケースもあります。この場合、呼吸器内科では自己抗体検査などで間質性肺疾患の基礎疾患の評価を行い、必要に応じて膠原病内科に紹介します。
間質性肺疾患が発見された場合、軽症であれば定期的なモニタリングで症状の推移を観察し、進行がみられれば早期に治療を開始します。自覚症状があり、画像検査などで中等度以上進行した状態で見つかった方は、速やかに治療を開始します。また、軽症であっても将来進行するリスクが高いと判断されるケースでは治療を行う場合もあります。
なお、喫煙は間質性肺疾患の進行リスクとなるだけでなく、レイノー現象をはじめとした血管障害も悪化させる要因になります。
全身性強皮症の原因はまだはっきりと分かっておらず、今のところ根本的な治療法は確立されていません。
現在、主に行われているのは、対症療法と疾患修飾薬による治療の2種類です。対症療法とは、症状を和らげる治療を指します。レイノー現象があれば血管拡張薬により血流を促す治療を、食道の機能障害から逆流性食道炎を起こしている場合にはプロトンポンプ阻害剤により胃酸の分泌を抑える治療を行います。ただし、これらの治療はあくまでも症状の改善を図るためのもので、病気の進行を阻止するものではありません。
もう1つは、病気の自然経過をよい方向へ変える薬(疾患修飾薬)による治療です。全身性強皮症の症状は患者さんによりさまざまで、現状では全ての患者さんに効果が望める万能な疾患修飾薬はありません。しかし、皮膚硬化や間質性肺疾患などの内臓病変が進行する方など、ある特定のグループに有効性を発揮する疾患修飾薬の開発が着実に進んでいます。
現在、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の治療に使われている薬は大きく分けて3種類あります。1つは免疫抑制薬で、病気の進行を抑えるはたらきが確認されています。2つ目が抗線維化薬で、当初は間質性肺疾患の中で特発性肺線維症*に有効であることが示されていましたが、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患にも有効性が証明されています。3つ目が分子標的薬で、病気の原因となる特定の分子のみを標的として作用するものです。
これらの薬は全身性強皮症の治療を目的に開発されたのではなく、ほかの病気の治療に使われていたところ、全身性強皮症や、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患にも有効であることが治験で認められ用いられるようになったものです。ただし、海外で使用されていても現状では国内において保険診療で使用できる薬は限られています。今後、有効性が証明されている疾患修飾薬が保険診療で使えるようになれば治療の選択肢が広がり、患者さんに合った個別化治療が進めやすくなります。
*特発性肺線維症:間質性肺疾患の中で原因不明の肺の線維化が主体となる病気で、中~高齢の男性、喫煙者に多い。
前述のような薬の多くは免疫を抑えることから、副作用として感染症にかかるリスクが高まります。特に、間質性肺疾患は感染を機に悪化する場合があり、注意が必要です。昨今は新型コロナウイルス感染症の流行により皆さんの予防意識が高まっており、マスク、うがい、手洗いなど基本的な感染対策は広く行われています。
あらためて伝えておきたいのは、ワクチン接種は特定の感染症の発症や重症化予防策として極めて有効であるということです。新型コロナウイルスに限らず、インフルエンザ、肺炎球菌についてもぜひワクチン接種を検討してください。
全身性強皮症は患者さんにより症状がさまざまです。対症療法も疾患修飾薬による治療も、専門医*が個別の症状や発症からの期間を見極め、お一人お一人に合わせて行うことが重要です。全身性強皮症に伴う間質性肺疾患だけをとっても、免疫抑制薬、抗線維化薬、分子標的薬に加えて酸素吸入などの支持療法と幅広い治療法があり、その組み合わせ方は症例により異なります。
*日本リウマチ学会認定のリウマチ専門医を指す。以下、“専門医”とある場合はこれを指す。
全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の治療には、膠原病内科と呼吸器内科の連携が欠かせません。全身性強皮症の患者さんのうち、膠原病内科を受診された例には肺に自覚症状がない方が含まれるのに対して、呼吸器内科では肺の症状が顕著な方が多い傾向があります。
このような違いを踏まえ、全身性疾患である全身性強皮症の治療を適切に行えるよう、それぞれの専門性を生かし、意見を交わしながら連携をさらに強化していかなければならないと考えています。
膠原病や間質性肺疾患の治療にステロイドがよく使われます。しかし、全身性強皮症や全身性強皮症に伴う間質性肺疾患ではステロイドの有効性が証明されておらず、腎クリーゼと呼ばれる急性腎障害のリスクを高めたり、手指の潰瘍などが生じて傷が治りにくくなったり、感染しやすくなったりなどのデメリットが大きいため、専門医は原則として使用しません。
適切な治療を行うためには、膠原病の中のどの病気なのか、また間質性肺疾患の原因となっている病気は何なのか、慎重に見極める必要があるといえるでしょう。
全身性強皮症に伴う間質性肺疾患は、個々の患者さんで重症度や進行リスクが異なります。
症状が重い方、進行リスクの高い方に対しては、現状を正しく理解したうえで適切な治療は何かを患者さんやご家族と共に考えていきます。病気の治療だけでなく、リハビリテーションや生活しやすい環境づくりを提案するなど、患者さんの生活の質を少しでも維持できるようサポートします。私たちと一緒に病気に向き合っていきましょう。
一方、自覚症状のない、あるいは軽症の方でも、定期的な受診や検査で病状をチェックしご自身の体の状態を把握しておくことが何よりも重要です。過剰に心配する必要はありませんが、何か気になる点があれば早めに主治医にご相談ください。
日本医科大学 大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 、日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長、強皮症・筋炎先進医療センター センター長
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