インタビュー

間質性肺炎の診断と治療―確かな診断と治療で治すことも可能

間質性肺炎の診断と治療―確かな診断と治療で治すことも可能
服部 登 先生

広島大学病院 呼吸器内科 教授・診療科長

服部 登 先生

間質性肺炎は、膠原病などの自己免疫疾患に伴うもの、アスベストなど粉塵吸引が原因となるもの、羽毛・カビなどのアレルギーが原因となるもの、薬剤や放射線照射が原因となるもの,そして原因不明なもの,などと多様に分類されます。原因によって治療法も変わってくるため、しっかりと検査を行って診断をつけることが、間質性肺炎診療の第一歩となります。

記事1『間質性肺炎は病名ではない!間質性肺炎の分類や原因』に引き続き広島大学病院 呼吸器内科 教授・診療科長の服部 登 先生に、間質性肺炎の検査・診断と治療についてお聞きしました。

問診

記事1『間質性肺炎は病名ではない!間質性肺炎の分類や原因』でお伝えしたように、間質性肺炎はまずその原因の特定が治療への第一歩です。ですから、以下の診察と各種検査を実施して原因の特定に努めます。

病歴、職歴、家族歴、薬剤使用歴、生活歴(家屋や職場の環境、鳥の飼育や羽毛布団の使用、加湿器や空調の使用、趣味、ペット飼育歴)など発症原因の特定につながる事項の問診を行います。身体所見として、膠原病の存在を示唆する皮膚所見やばち指の有無には特に注意を払って診察します。また、間質性肺炎の場合、背部の下肺野での聴診で異常な音(捻髪音・ねんぱつおん)が聴こえることが多いですから、背部の聴診を怠らないようにします。

KL-6、SP-A、SP-Dというバイオマーカーが高値であると、間質性肺炎の存在が疑われます。抗核抗体価や膠原病の存在を示唆する各種自己抗体が高い場合は、膠原病由来の間質性肺炎である可能性があります。

間質性肺炎の存在を示唆するレントゲン上の所見では、すりガラス影や粒状影,網状影などが挙げられます。また線維化が進行してくると、蜂巣肺という、蜂の巣状のはっきりした陰影が認められます。

CTはレントゲンより細部まで肺のようすをみることができます。近年はCTの普及から、まったく症状のない軽症例の間質性肺炎を持つ患者さんも見つかるようになってきました。陰影の性状をより細かくみる必要がありますので、一般的にはHRCT(胸部高分解能CT)という高精度なCTの撮影法を用います。

気管支鏡という内視鏡を用いて、気管支肺胞洗浄や経気管支肺生検を実施します。気管支肺胞洗浄は、気管支鏡を使って肺の中に生理食塩水を注入し、その液を回収して、回収した液の内容を調べる検査です。液を調べることで、肺の中にどんな細胞が増えているのかが観察できます。通常よりも増加している炎症細胞の種類によって肺の炎症の状態を推察することが可能となります。気管支鏡を介して肺の組織を採取する経気管支肺生検では、残念ながら取ってこられる肺組織が非常に小さいため、間質性肺炎の組織診断には向いていません。ただ,この検査によって,原因を特定できる間質性肺炎もありますし,また間質性肺炎以外の疾患の診断がなされることもありますので,決して無用な検査でありません。

現在、間質性肺炎で用いられる検査のなかで最も確実にその病態と原因を調べることができる検査法は、全身麻酔を伴う外科的肺生検によって得られた組織を用いた病理組織検査です。胸腔鏡を用いる手術が行われるようになって外科的肺生検が患者さんに及ぼす負担は著しく軽減されたものの、全身麻酔も含めてそれなりの侵襲は必ず伴いますので、病状が進行している、高齢である、など体力的な問題が懸念される患者さんには実施できません。

胸部高分解CTにて特発性肺線維症として典型的な画像所見を呈する場合や、原因や膠原病などの関連疾患が明らかな間質性肺炎に対しては、外科的肺生検を実施しないことが一般的です。

肺繊維症のレントゲン画像
左:比較的早期の特発性肺線維症 右:蜂巣陰影が目立つ進行した特発性肺線維症(服部登先生 ご提供)

ベッドに寝る患者さん

気管支鏡検査や外科的肺生検は、患者さんの体にそれ相応の負担をかけます。まれではありますが気管支鏡検査が、またそれよりも頻度を多くして外科的肺生検が、間質性肺炎の病状が急激に悪化する急性憎悪を誘発するリスクを上げることも専門医の間ではよく知られている事実です。

なかには急性憎悪のリスクをおそれて気管支鏡検査や肺生検を実施しない医師もいますが、私はこれらの検査が必要と感じられるなら積極的に実施したほうがよいと考えています。原因を特定することすら難しい間質性肺炎の診療においては、これらの検査から得られる情報がもたらす利益が,検査を行うことによって生じる不利益を凌駕するものと信じているからです。原因や病態が特定できればそれに適した対処法を見出せる可能性が高まりますし、たとえ特定に至らずとも消去法からある程度今後の臨床経過について予想を立てることができます。

幸いなことに広島大学病院では2017年7月時点で、気管支鏡検査や外科的肺生検を原因とする急性憎悪の例はまだ経験しておりません。これらの侵襲性のある検査は、検査を実施するスタッフの技術やスタッフ間の連携によってリスクの生じる確率が左右される可能性があるため、できるだけこれらの検査の実績が多い病院で検査を受けることをおすすめします。

間質性肺炎は、その原因と病態により治療法が異なります。

鳥やカビなどへのアレルギーや薬が原因で発症している場合は、その原因となっている物質を遠ざけます。喫煙の関与が強いと考えられる場合は禁煙をします。軽症であれば、これだけで病状は回復します。炎症が強い場合や慢性化している場合にはステロイドを用いて炎症を抑えます。膠原病などの自己免疫疾患によるものは、ステロイド±免疫抑制剤を使用して治療を行うことが一般的です。

特発性肺線維症であれば抗線維化薬(ピルフェニドンとニンテダニブ)という肺の線維化を抑える薬を使用します。実際には特発性肺線維症以外の間質性肺炎であっても、症状が進行すると線維化が起きることがありますが、抗線維化薬は特発性肺線維症のみ保険適用となっています。また抗線維化薬は薬価が高いことも、特発性肺線維症以外の線維化を起こしている患者さんへの使用を難しくしています。

いずれにしても、間質性肺炎治療の基本的な考え方は、炎症性の病態が強いと考えられる場合にはステロイド±免疫抑制剤,線維化病変が中心であると考えられる場合には抗線維化薬を使用することであり、効果をみながらこれらの治療を試していくのが現状です。

通帳

間質性肺炎のなかでも、特発性間質性肺炎は国の難病に指定されていることや、治療費が高額であることから特定の条件をクリアすれば「難病医療費助成制度」による医療費助成を受けることができます。

「難病医療費助成制度」適応の条件は、以下の通りです。

  • 特発性間質性肺炎と確実な診断を受けている(特発性肺線維症以外は外科的肺生検による診断が必要)
  • 重症度分類でⅢ・Ⅳに該当している、または重症度Ⅰ・Ⅱであっても3か月以上本疾患の治療費を高額負担している

ここで述べている重症度は、厚生労働省が定める重症度分類基準に基づいた医師による判定が必要で、Ⅰ度が最も軽症、Ⅳ度が最も重症となります。

この基準は認定をする各都道府県により若干異なるため、助成の対象となるかどうかは主治医や各自治体の担当窓口に確認してください。

間質性肺炎はあくまで「間質に炎症を起こしている状態」であり、その原因や病態は多様で、それにより治療アプローチも変わります。そのためまず大事なことは、間質性肺炎が疑われたら専門医のもとでしっかりと検査を受け、原因を特定してもらうことです。

なかにはどれだけ調べても原因不明な特発性間質性肺炎である可能性がありますが、そのなかでも特発性肺線維症など分類ができれば、それに対する有効な治療法も検討できます。

間質性肺炎は、すべての例が重症で命にかかわるということはありません。原因や分類によっては有効な治療法があり、症状を改善できる可能性があります。ですからまずは専門医のもとでしっかりと検査をしてもらい、診断・治療を受けてください。

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