東京大学医学部皮膚科学教室 教授 佐藤伸一先生は、強皮症かもしれないと悩まれる方のために、強皮症を疑うチェックリストを作成されました。そのほか、専門医のリストを作成され、患者さんが早期に強皮症の専門医を受診できるよう取り組まれています。今回は強皮症の主な症状をご説明いただきましたが、「これらの症状すべてが一人の患者さんに起こるわけではない」と佐藤先生はおっしゃいます。簡単ですので、症状チェックリストをぜひご活用ください。
もしかすると自分は強皮症かもしれないと思っても、病院に行くべきか、医師に診てもらうべきかと悩まれる方も少なくありません。以下は、強皮症を疑うチェックリストです。ご自身の症状をチェックしてみてください。もし当てはまるようであれば病院を受診されることをお勧めします。しかしながら、仮にすべて当てはまった場合でも、強皮症と診断されたわけではありません。医師の診断を受けなければ確定となりませんので、あくまでも参考としてご活用ください。
1の症状があり、2から5の症状のうち2個以上あれば、医師の診察を受けられることをお勧めします。
(※強皮症の症状:東京大学医学部皮膚科学教室のホームページより引用)
強皮症研究会議というサイトでは、強皮症の専門医(強皮症の研究者)のリストを掲載しています。強皮症の症状のひとつであるこわばりや胸焼けなどの症状は、強皮症に特有の症状ではないため、近隣の病院を受診すると強皮症と診断されないケースも少なくありません。強皮症と診断されるまでに時間を要してしまうと、治療の機会を逸してしまうこともあります。もしかすると、強皮症と診断されることなく亡くなってしまった方もおられるかもしれません。専門医以外の医師に強皮症の啓蒙を行うことももちろん重要ですが、患者さん自身も病気を正確に知り、正確に診断してもらうために専門医を受診するということが必要なのではないかと感じます。
(※参考:「強皮症の専門医」強皮症研究会議より)
多くの病気がそうであるように、強皮症も早期発見・早期治療が重要です。進行してからでも治療の効果が得られる場合もありますが、肺のように一度進行すると元の状態に戻ることが難しい臓器もあります。一方、早期の状態で治療を行うことができれば改善・元の状態に戻すことができる可能性が高まりますので、早期発見・早期治療が重要となります。
強皮症によくみられる症状は以下のとおりです。しかし注意が必要なのは、これらの症状のすべてがひとりの患者さんに起こるわけではないということです。
(※強皮症研究会議「強皮症がわかるリーフレット」より引用)
冷たいものに触れると手指が蒼白〜紫色になる症状で、冬に多くみられ、初発症状として最も多いものです。多くの方がまずはレイノー症状から現れますが、急速に進行する方は、先に皮膚硬化がでてからレイノー症状があとからでるというケースもあります。
皮膚硬化は手指の腫れぼったい感じからはじまります。人によっては手のこわばりを伴います。また、今まで入っていた指輪が入らなくなったことで気づかれることもあります。典型的な症状を示す患者さんでは、その後、手背、前腕、上腕、躯幹(くかん・頭と手足を除いた胴体部分)と体の中心部分に皮膚硬化が進むことがあります。しかしながら、すべての患者さんで皮膚硬化が躯幹まで進行するわけではありません。「びまん型全身性強皮症」では時に躯幹まで硬化が進行しますが、「限局型全身性強皮症」では躯幹の硬化はきわめてまれです。
爪上皮(爪のあま皮)の黒い出血点、指先の少しへこんだ傷痕、指先や関節背面の潰瘍、毛細血管拡張、皮膚の石灰沈着、皮膚の色が黒くなったり、逆に黒くなった皮膚の一部が白くなったりする色素異常などがみられます。特に、指先や関節背面に潰瘍ができたときには、自分で処置をせず、主治医に処置してもらうことが大切です。
ひどくなると空咳や息苦しさが生じ、酸素吸入を必要とすることもあります。「びまん型全身性強皮症」で比較的多く見られる合併症です。肺線維症があると細菌が感染しやすくなり、肺炎を起こしやすいので注意が必要です。
腎臓の血管に障害が起こり、その結果高血圧が生じるものです。急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。ACE阻害薬という治療薬による早期治療が可能です。
食道下部が硬くなり、その結果胃酸が食道に逆流して起こるもので、症状としては胸焼け、胸のつかえ、逆流感などが生じます。逆流性食道炎が継続し、悪化すると胃酸逆流の影響で食道の下部の粘膜が胃と同様の粘膜のつくりになってしまうバレット食道になります。バレット食道になると食事が通りにくくなります。口から食事を摂取できない方には栄養補給のためにIVH(中心静脈高カロリー輸液法)を行うことになりますが、大静脈に直接カテーテルを用いて注入するため、QOL(生活の質)が下がってしまいます。早い段階でPPI(プロトンポンプインヒビター)を使用することで回避できる可能性が高くなります。
全身性強皮症の患者さん約100人に1人が起こります。一度症状があらわれてしまうと、多くの場合完治が難しいといわれています。そこで現在、肺高血圧症にはエンドセリン拮抗薬、PDE5阻害薬などの良い薬が使用されています。早期発見、早期治療ができれば改善も見込めます。1年に1回程度の定期的な呼吸器機能の検査を行います。
手指の屈曲拘縮・心外膜炎・不整脈・関節痛・筋炎・偽性イレウス・吸収不良・便秘、・下痢・右心不全などが起こることがあります。
繰り返しになりますが、注意が必要なのはこれらの症状のすべてがひとりの患者さんにあらわれるわけではないということです。患者さんそれぞれの強皮症があり、あらわれる症状、あらわれない症状は人によって様々です。しかし誤ったインターネットの情報などによって、強皮症は上記の症状がすべて出るような恐ろしい病気であると勘違いし、強いショックを受けてしまう方も少なくありません。その場合は入院して検査を受けていただき、ご自身の強皮症はどのようなものなのかを明らかにします。そしてどんな問題があるのか、どんな治療が必要なのかを一緒に整理し、前向きな気持ちになっていただけるようにサポートします。
東京大学 医学系研究科皮膚科学 教授、 東京大学医学部附属病院 副院長
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