限局性強皮症では皮膚の硬化をはじめ、皮膚の萎縮や色調変化が主な症状となって現れます。また皮膚のみならず、関節や神経系にも病変が起こることがあります。同じ「強皮症」という言葉がつく疾患に全身性強皮症がありますが、これら2つは全く異なる疾患です。限局性強皮症が起こるメカニズムは未だ解明されていません。しかし、この疾患の持つ特徴から、仮説的にメカニズムが推測されています。今回は限局性強皮症の症状および想定されるメカニズムついて、東京大学大学院医学系研究科・医学部皮膚科准教授の浅野善英先生にお話を伺いました。
限局性強皮症で最も特徴的な症状は、皮膚の限られた領域において、比較的境界がはっきりと生じる皮膚の硬化です。
しかし患者さんのなかには、皮膚は硬くならず、皮膚の萎縮や色素沈着・色素脱失が主な症状として現れる方もいます。また、皮膚表面にはあまり変化がなく、皮下の脂肪に発症して、皮膚が少しだけへこむ場合もあります。
また、同じ強皮症と呼び名がつくものに「全身性強皮症」という疾患があります。全身性強皮症では皮膚硬化は指からはじまり徐々に手、腕、体幹へと連続性に拡大し、また皮膚だけでなく内臓も硬くなることが特徴で、両者は全く異なる疾患です。
限局性強皮症の症状は皮膚以外にも筋肉、関節などに現れることがあり、稀ではありますが眼や脳の症状も伴うことがあります。
病変部の皮膚の真下にある筋肉や骨に影響が及ぶと、筋膜炎や骨髄炎を生じる場合があります。関節周辺に深部に及ぶ皮膚病変がある場合、皮膚硬化と腱や関節に及ぶ炎症が原因で、関節が動かなくなってしまうこともあります。
頭部に病変が起きた場合は、脱毛も進行します。脱毛が進むと毛穴が破壊されるので、治療が遅れると永久に生えてきません。
また、頭部や顔面に皮膚病変がある場合は、眼や脳といった神経系に病変を起こす場合があります。眼に病変が起きると眼が炎症を起こし、ブドウ膜炎のように痛みや視力低下などの症状が起きます。脳に症状が現れると、脳の炎症や石灰化が起こります。軽い場合は脳波の異常のみで自覚症状のないことが多いですが、てんかん発作のような症状が出る患者さんもいます。
このように、限局性強皮症は症状に多様性があることが特徴です。
限局性強皮症では主に先述のような症状が現れますが、国際的に最も有用とされているガイドラインでは症状によって下記の5つに分類することができます。
・Circumscribed morphea(斑状強皮症)
斑状強皮症では1〜数個の円形や楕円形の境界明瞭な皮膚硬化が、四肢・躯幹(胴体部分)に散在して現れます。これは限局性強皮症では最も一般的な種類といえます。
・Linear scleroderma(線状強皮症)
線状強皮症では皮膚硬化や色素沈着・色素脱失が四肢・躯幹・顔面・頭部に線状に出現します。これは後ほどお話しする「ブラシュコ線」というものに沿って現れると考えられています。
また、頭部に発症すると剣創状(けんそうじょう)強皮症といって、剣で切られた傷のような皮膚病変ができることもあります。線状強皮症は他の病型と比べると、筋肉や骨にまで病変が及びやすいことが特徴で、小児や若年者に多く発症します。
・Generalized morphea(汎発型限局性強皮症)
斑状強皮症と線状強皮症が全身に多発して現れるものを汎発型限局性強皮症といいます。
・Pansclerotic morphea
この病型の特徴は、皮膚硬化に境界がほとんどなく、全身の皮膚が連続性に硬くなることです。重症な方の場合、手足の指以外、すべての皮膚が硬くなってしまう方もいます。なお、このPansclerotic morpheaには適切な日本語訳がなく、臨床の場でも英語表記を行なっています。
・Mixed morphea
上記4つの病型の2つ以上が混在しているものを指し、こちらも適切な日本語訳がないため、英語表記での記載になります。
限局性強皮症の発症メカニズムは、いまだに厳密にはわかっていません。しかし、皮膚症状の現れ方や血液検査の異常から想定されるメカニズムは存在します。少し難しい表現ですが「体細胞突然変異で生じた軽微な表現型の差が、免疫細胞によって非自己と認識されて生じる」というメカニズムが最も確かなのではないかといわれています。
この仮説は、限局性強皮症が「自己免疫」と「ブラシュコ線に沿った皮膚症状の出現」といった大きな2つの特徴を持つことから推測されます。
限局性強皮症の特徴のひとつは、血液検査で自己免疫の異常がみられることです。
血液検査を行うと、多くの患者さんで抗核抗体(自己抗体の総称)、なかでも抗ヒストン抗体および抗一本鎖DNA抗体といった項目が陽性となります。
特に抗一本鎖DNA抗体の検査数値は、一部の限局性強皮症の患者さんでは重症度や活動性に比例することがわかっているので、この疾患が自己免疫、つまり「自分で自分の細胞に反応し攻撃することで発症している」と考えることができます。
ブラシュコ線とは、受精卵から胎児へ成長していくときに、皮膚の細胞が分裂しながら増えていく方向を示した線です。
受精卵が細胞分裂を繰り返し成長していく過程では、細胞に軽微な突然変異が起こることがあります。大きな変異であればそのまま細胞が死んでしまったり、最終的に奇形となって現れたりするのですが、軽微な変異では目立った形質変化を誘導することなく細胞は生後も残り続けます。
しかし、ブラシュコ線に並んでいる遺伝子異常を持った細胞が、生後に何らかのきっかけで異物として認識されることで自己免疫が働き、その結果皮膚に症状をもたらすのではないかと考えられています。
実際に、限局性強皮症の約10%の患者さんに、発症の直前に外傷、火傷、ワクチンを接種したなどの免疫応答を活性化するような外的な刺激が加わったエピソードを確認することができます。
これらの特徴から、本項冒頭で申し上げたような病態仮説が考えられていますが、2017年現在では証明されていません。
限局性強皮症の患者さんのなかには、経過中に膠原病(こうげんびょう)を発症する方がいます。
膠原病とは免疫系の異常により皮膚や肺など複数の臓器に炎症を起こす病気の総称です。限局性強皮症の患者さんの一部では、経過中に関節リウマチ、全身性強皮症、筋炎などの膠原病を発症することがあります。
先にも述べたように、全身性強皮症と限局性強皮症は異なる病気です。ですから、限局性強皮症が重症化して全身性強皮症になるのではなく、あくまでも全く別の病気として発症します。
統計では、限局性強皮症の患者さんの家族歴にも膠原病などの自己免疫性疾患を持つ患者さんが多いことがわかっています。限局性強皮症の患者さんに明らかな遺伝子異常は認められていませんが、幅広く自己免疫疾患を発症しやすい遺伝的素因は関係しているのではないかと考えられます。
限局性強皮症の患者さんを検査すると、一部の方に「抗リン脂質抗体」という自己抗体が認められます。これは抗リン脂質抗体症候群という病気の要因となる抗体で、動脈や静脈に血栓症(脳梗塞や心筋梗塞、深部静脈血栓症など)を起こす可能性があります。
頻度は少ないですが、抗リン脂質抗体が陽性の限局性強皮症の患者さんで実際に血栓症を発症した方を経験しているので、限局性強皮症の患者さんの抗リン脂質抗体の有無は検査するべきだと考えます。
東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 皮膚科学分野 教授
浅野 善英 先生の所属医療機関
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