記事1『写真で見る! 限局性強皮症の症状—全身性強皮症とは全く違う病気』では、限局性強皮症の病態仮説や症状についてご紹介しました。限局性強皮症では皮膚に硬化や萎縮、また病変が深部に及ぶと真下の筋肉や関節にも症状が現れます。早期に診断、治療を行わないと、皮膚に不可逆的な変化が生じ、また関節の機能障害が残ってしまう可能性があります。今回は記事1に引き続き、東京大学大学院医学系研究科・医学部皮膚科准教授の浅野善英先生に、限局性強皮症の診断・治療法についてお話を伺いました。
限局性強皮症と診断する際は、皮膚の観察を行うことが最も重要です。
皮膚の状態や病変の広がり方を確認して、限局性強皮症の典型的な症状であれば、ほぼ確定診断としてよいでしょう。(限局性強皮症の症状関しては記事1『写真で見る! 限局性強皮症の症状—全身性強皮症とは全く違う病気』をご参照ください)
しかし、視診だけでは他の病気との鑑別に迷う場合は、皮膚生検による検査を行うこともあります。
限局性強皮症の皮膚病変は、深在性エリテマトーデス、結合織母斑、菌状息肉症(きんじょうそくにくしょう)、局面状類乾癬(きょくめんじょうるいかんせん)、ケロイド、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)などと類似する場合があります。これらの病気との鑑別が難しい場合は皮膚生検(皮膚の一部をメスなどで採取して組織を調べる検査)を行います。
限局性強皮症の治療法は疾患活動性(進行)の有無によって大きく2つにわかれます。
・疾患活動性があり、それを抑えるための治療
・疾患活動性はなく、病気によって生じた機能障害に対して行う治療
そのため、限局性強皮症の診断が確定したあとは、病変部に活動性があるかないかを判断します。
病変に活動性があると、病変部に炎症反応がみられます。この炎症を捉えるために以下のような検査を行います。
※サーモグラフィー検査
皮膚温を計ることができます。炎症が起きている限局性強皮症では皮膚温が上がります。
※ドップラーエコー検査
超音波によって血流を評価することができます。活動性のある限局性強皮症では血流が増えています。
※造影MRI検査
造影剤を注射したあとにMRI検査を行います。炎症のある場合、炎症部分に造影剤が集積します。
※クレアチンキナーゼ(CK)
筋原性酵素の一つで、血液検査で確認することができます。活動性があり、筋肉に病変が及んでいるとCKが上昇します。
臨床的にも活動性の有無を評価することができる、以下のような基準があります。これは小児を対象に作成された基準ですが、成人にも当てはめることができます。
※1つ以上当てはまれば活動性あり
・3ヶ月以内の新規病変の出現、あるいは既存病変の拡大を医師が確認する
・中等度から高度の紅斑、ライラックリング(病変周囲の淡い紅斑)、紫色調変化
・進行性の深部病変の存在が臨床所見、臨床写真、MRI、あるいは超音波で確認できる
※2つ以上当てはまれば活動性あり
・3ヶ月以内の新規病変の出現、あるいは既存病変の拡大が患者によって報告される
・サーモグラフィーで皮膚温の上昇
・淡い紅斑を認める
・病変部から辺縁部の中等度から高度の浸潤
・脱毛の進行を医師が確認する
・CK上昇(他のCK上昇が起こる原因が除外された場合)
・活動性を示唆する病理組織所見
これらのような方法で活動性を評価した後に、治療を進めていきます。
限局性強皮症の病変に活動性があると判断された場合、炎症を抑えるための治療を行います。炎症を抑える方法は大きく局所療法と全身療法の2種類にわかれます。
局所療法には塗り薬による治療と光線療法があります。塗り薬で使用するものは主にステロイド外用薬(副腎皮質ホルモンの一種)とタクロリムス外用薬(免疫抑制薬)です。
光線療法とは病変部にUVA1、broad band UVA、PUVA、narrow band UVBなどの紫外線を照射する治療法です。過去の報告によると、UVA1が限局性強皮症の病変に対して最も効果的な紫外線であるといわれていますが、UVA1を照射できる医療施設は限られており、また光線療法は頻繁に通院が必要となるなどの問題点もあり、実際には治療を継続することが難しい場合も多いです。
全身療法は、病変が局所療法では届かないような深部(筋肉や骨)まで達している場合や、局所療法では効果がない場合に行われる治療法です。
基本的にはステロイド薬の内服による治療ですが、十分な効果が得られない場合は、免疫抑制薬の併用を検討します。個々の患者さんに応じて治療薬を選択しますが、海外ではメソトレキサートという免疫抑制薬に関する論文報告が多く、最も一般的な治療とされています。
限局性強皮症の病変に活動性がなく、機能障害がある場合はこれに対する治療を行います。
顔や目立つところに症状の痕が残ってしまった場合は、美容整形のような見た目を整える手術を行うことがあります。ただ、手術を行う際は活動性がないことを念入りに確認する必要があります。活動性があるときに手術を行うと、病態が悪化してしまう可能性があるからです。
また、腕や足の関節に機能障害が起きている場合には、基本的にはリハビリによる治療を行います。限局性強皮症による機能障害は手術をしても改善がみられなかったり、むしろ悪化してしまったりする例が多いと報告されています。ですので、一般に積極的な外科的治療は行いませんが、仮に行う場合はその適否を慎重に検討する必要があります。
欧米の研究データによると、治療をした例、治療をしていない例を含め、3〜5年で約50%の患者さんに疾患活動性がなくなることがわかっています。皮膚を観察しても、どこに病変が起きていたのかわからないくらい正常な皮膚に戻る場合もあります。
限局性強皮症の進行が止まった後でも、症状の度合いによっては後遺症が残る方もいます。
病気が進行している間は組織の破壊が進むので、破壊が強い場合には皮膚に痕が残ったり、リハビリをしても機能障害が残ったりすることがあります。
3〜5年で約50%の患者さんに疾患活動性がなくなると述べましたが、そのうちの約30%の方が限局性強皮症を再発すると報告されています。
特に小児期に発症した場合の再発率は高いといわれており、実際に10歳前後で発症した患者さんで、再発を繰り返しながら70歳代でも進行がみられた例を経験したことがあります。
この疾患の特徴は、階段状に病状が進行していく場合があることです。落ち着いたと思ったら悪化する、落ち着いたと思ったらまた悪化するということを繰り返し、階段状に進んでいく場合があります。そのため、治癒と診断された後も医師によるフォローアップを受ける必要があります。
限局性強皮症は日本における発症例が少なく、研究データも少ないため、不明な点が多いのが現状です。しかし、2014年に本症の研究班が発足し、2017年現在、国の指定難病への申請を目指して活動を続けています。
今後は限局性強皮症のメカニズムや治療法に関する研究も進んでいくことが期待できると考えます。
東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 皮膚科学分野 教授
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