インタビュー

強皮症のメカニズム

強皮症のメカニズム
桑名 正隆 先生

日本医科大学 大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 、日本医科大学付属病院 ...

桑名 正隆 先生

この記事の最終更新は2016年05月08日です。

膠原病のひとつである全身性強皮症(以下、強皮症)は、皮膚が硬くなるだけでなく、進行すると内臓機能も障害される慢性疾患ですが、その原因は未だ解明されていません。日本医科大学付属病院リウマチ・膠原病内科部長であり、同大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野教授の桑名正隆先生は、強皮症による肺高血圧症間質性肺疾患の診療における第一人者として、重症の患者さんを数多く診てこられました。強皮症における線維化のメカニズムについてお話をうかがいました。

膠原病は病名ではなく、似たような特徴を持つ一群の病気を表す概念です。その構成要素は以下の3つです。

  • 自己免疫
  • 膠原線維(細胞外マトリックス)の変性
  • 筋骨格系の痛みやこわばりなどの症状(リウマチ症状)

自己免疫とは、本来は外から侵入してくる細菌やウイルスを排除する免疫系が誤って自分自身を攻撃してしまう現象のことで、強皮症では細胞核成分に対して結合する「抗核抗体(こうかくこうたい)」が高率に陽性となります。「膠原」は、組織の中で細胞と細胞の間で「のり」の役割を果たしている細胞外マトリックス(コラーゲンなどの巨大な蛋白質のこと)をさすことばで、その変性をきたすことが膠原病の語源になっています。さらに、筋肉、関節、腱や骨などの筋骨格系の痛みやこわばりをリウマチ症状と呼びます。これら3つ要素を同時に持つ病気を膠原病とひとくくりにしています。ただし、膠原病に含まれる病気ごとに、3つの要素の貢献度が大きく異なるのです。

たとえば、関節リウマチは筋骨格系のリウマチ症状が主体、全身性エリテマトーデスは自己免疫が中心です。ところが、強皮症では、自己免疫現象である抗核抗体が診断や病型分類には役立つのですが、それらが病気を起こす原因ではないのです。そのため、強皮症では膠原病の構成要素の中で自己免疫の関与は少なく、特に細胞外マトリックスの変性、異常の要素が顕著なことが特徴です。

にもかかわらず、強皮症は膠原病の一種、膠原病といえば自己免疫、だからステロイドで治療するという誤った認識でいまだにステロイドが広く使われているのが現状なのです。

私たちの体には本来、けがをしても、それを治す創傷治癒(そうしょうちゆ)という機能が備わっています。傷ができたところでは、まず血の塊(かさぶた)ができて止血されます。次に応急的な血の塊に代わって、傷による欠損部を埋めるためにコラーゲンを中心とした細胞外マトリックスが作られ、蓋をして覆います(傷跡)。その後、時間がかかりますが、元々あった細胞が再生して治癒します。

創傷治癒の一連の過程でみられる細胞外マトリックスの増生(ぞうせい)は、傷が蓋をされると自然に止まります。しかし、強皮症ではその制御がうまくいかず、細胞外マトリックスが継続的に作られてしまいます。その結果、皮膚、血管、内臓諸臓器で細胞外マトリックスがどんどん蓄積してしまうことを「線維化」と呼びます。線維化のために、正常の組織が圧迫され、破壊されてしまうことで臓器機能の障害が進んでいきます。

残念ながら、強皮症でどうような原因で細胞外マトリックスの産生異常が起こっているかわかっていません。しかしながら、これまでの基礎研究から、線維化の過程に関わる多くの細胞や分子がわかってきました。特に早期には炎症や免疫反応をおこす細胞が病変部分に集まっていることから、免疫抑制薬と呼ばれる薬剤が使用されてきました。しかし、病態の中心は細胞外マトリックスの増生であることから、細胞外マトリックスを産生する線維芽細胞(せんいがさいぼう)の活性化に関わる分子に対する創薬も進んでいます。

強皮症に対して有効性を証明したエビデンス(医学的根拠)のある薬はまだないのですが、今は有効な可能性のあるいくつもの新規薬剤が開発され、日本を含めたグローバルで臨床試験が進行中です。近い将来、これらの薬の中からエビデンスのある薬が出てくることを期待されます。日本もこれらグローバル治験に積極的に参画しています。そう遠くない将来に有効な治療法が見つかる可能性は高いと考えています。

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  • 日本医科大学 大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 、日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長、強皮症・筋炎先進医療センター センター長

    桑名 正隆 先生

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