全身性強皮症は皮膚硬化(皮膚が硬くなること)や手指が白くなる“レイノー現象”が主な症状の病気です。また、場合によっては皮膚だけでなく、全身のさまざまな臓器が硬くなることもあります。2020年11月現在、根本的な治療は難しい病気ですが、東京女子医科大学 膠原病リウマチ内科学講座 臨床教授の川口 鎮司先生は「この病気と上手に付き合っていくための治療は可能」とおっしゃいます。
今回は、全身性強皮症の概要と合併症、治療などについて川口 鎮司先生にお話しを伺いました。
全身性強皮症は、体のさまざまな臓器に炎症が起こる膠原病の一種です。全身性強皮症は皮膚や内臓などが硬くなる“線維化”と、手足の血管が傷つき血液の流れが滞って起こる“末梢循環障害”が生じるもので、これら2つは密接に関係しています。
まず、何らかの原因によって血管が収縮して血流が悪くなり、そこに血小板や白血球といった血液中の細胞成分が引っ掛かることで血管内皮細胞*に障害が起こります。すると、線維芽細胞**が増殖する要因となる成長因子が増え、コラーゲンを多く作ります。徐々にそのコラーゲンが蓄積されていくことで臓器が硬くなってしまうのです。
血管障害を起こし硬くなる部位が手や顔の皮膚の場合、命に関わることはありませんが、肺や腎臓などの内臓に血管障害が起こった場合には、それら臓器の機能が低下してしまうことがあります。全身性強皮症はどのような経過を辿るかによって2つのタイプに分けられます。1つが典型的な全身性強皮症の症状である皮膚の硬化や内臓病変が起こりやすい、“びまん皮膚硬化型”、もう1つが比較的軽症の“限局皮膚硬化型”です。そのため、どちらの病型であるかを判断し、それぞれのタイプに適切な方法で病気を管理していく必要があります。
*血管内皮細胞:血管のもっとも内側(内腔)にある細胞
**線維芽細胞:コラーゲンをはじめとする、細胞間物質(臓器を構成する中心組織である“実質”以外の組織)を合成する
全身性強皮症以外の膠原病でも見られる症状ですが、特にこの病気においては、多くの方に初期から見られる症状です。レイノー現象は冷たいものに触れたり、冬に気温の低い屋外に出たり、夏にクーラーが強く効いている部屋に入ったりするなど、寒冷刺激によって手足の指が一時的に血管障害を起こすものです。典型的なパターンとして、突然手指やつま先が白くなった後、紫色、紅色と順に色が変化し、元に戻るという色の変化があります。しびれや痛みなどを伴う場合もあります。
突然指が白くなるという症状がある場合には、まずは近くの内科を受診し、医師に相談してみてもよいでしょう。
全身性強皮症ではさまざまな皮膚症状が現れます。
多くの場合、指先やつま先から徐々に体の中心方向に向かって広がっていきます。皮膚硬化が軽い場合には“皮膚がつまみにくい”程度で、診察時に指摘されて気付く(自覚症状がない)というパターンも少なくありません。
皮膚の表面にできた傷がえぐれたようになっている状態です。手の指先やつま先によく見られますが、手の甲やかかとなど、ほかの部位にできることもあります。
これ以外にも、皮膚の乾燥やかゆみ、黒ずみなどさまざまな症状が見られます。
全身性強皮症においては、あらゆる消化器に病変が生じることがありますが、もっとも多いのが食道の硬化です。食道が硬くなることで、本来は筋肉によって閉じられている胃と食道のつなぎ目が広がってしまいます。すると、胃から胃酸が逆流してしまい、逆流性食道炎となります。
肺は本来、風船のように膨らんで空気を取り込みます。しかし、肺の間質と呼ばれる部分にコラーゲンが蓄積されて硬くなる“線維化”が起こることで、肺が硬くなり空気を吸い込める量が減ってしまいます。これが間質性肺疾患(肺線維症)です。間質性肺疾患が進行すると、日常生活程度の動作でも息切れが起こることがあります。
また、血管障害によって血管が硬く、狭くなることがありますが、これが心臓から肺に血液を送る肺動脈で起こると血流が悪くなり、肺動脈の血圧が上がります。これが肺高血圧症です。肺循環の障害が起きると、呼吸によって酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する“ガス交換”がうまくできなくなり、血中の酸素濃度が低下します。また、肺動脈の血圧が上昇することで右心室圧も上がり、右心不全が起こります。その結果、体を動かした際の息切れという症状が現れます。
肺高血圧症と同様に、腎臓の血管が硬く、狭くなることで急に高血圧を起こすことがあります。これは強皮症腎(腎クリーゼ)といわれ、頭痛やめまい、胸の痛みなどが生じます。頻度はあまり高くなく、また十分治療も可能ですが、治療が遅れると腎機能が低下し、透析が必要となるため、早期発見と治療が重要です。
全身性強皮症は、患者さんごとに症状や経過が大きく異なります。また、上記以外にもさまざまな臓器に影響をおよぼすことがあります。全身性強皮症であると判断するためには、分類基準というものに沿って症状などを確認していきます。以下の表が全身性強皮症の分類基準です。
経過や症状は人それぞれであるものの、全身性強皮症は自己抗体*を測定することで、注意すべき合併症などを含む経過がある程度予測できます。以下がそれぞれの抗体が陽性だった場合に予想されうる経過をまとめた表です。
抗Scl-70抗体陽性では間質性肺疾患に、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性では強皮症腎に気を付ける必要があります。一方、抗セントロメア抗体が陽性の場合、比較的軽度な限局皮膚硬化型が多く初期から内臓病変が起こることはまれです。しかし、発症から10年以上が経過したタイミングで肺高血圧症を発症する可能性もあるため、軽症だからといって放置せずにしっかりと通院をして肺高血圧症を合併していないか経過観察を行うことが重要です。
このように自己抗体は、どれが陽性になったかによって注意深く観察するポイントを変えるなど、治療や経過観察を行うにあたって非常に重要なポイントとなります。
*自己抗体:自身の体の特定の成分に反応する抗体。本来は自分の体の成分に攻撃をする自己抗体は作られないが、一部の膠原病を含む自己免疫疾患では自己抗体が現れる。
2020年11月現在、全身性強皮症の根本的な治療法はまだ見つかっていません。しかし、それぞれの症状に対する治療(対症療法)は非常に発展してきています。患者さん一人ひとりに現れる症状も異なるため、起こっている症状をきちんと把握し、それに適した治療を行っていく必要があります。
強皮症は根本治療は見つかっていないものの、コントロールをして上手に付き合っていくことが可能な病気です。医師が症状を把握するためにも、ぜひ患者さんご自身も自分の体の変化に気を配り、異変などがある場合には医師に相談していただければと思います。また、繰り返しになりますが、発症直後に内臓病変がない場合でも数年後に内臓病変をきたすこともあります。軽症だからといって自己判断で通院を止めたりしないようにしてください。いずれにせよ、この病気をコントロールしながら付き合っていくことを考えていただければと思います。
全身性強皮症の患者さんは多いとはいえず、日常の診療のなかで出会う機会はなかなかないかと思います。しかし、もしも体調不良の原因(病名)が分からず、少しでも全身性強皮症(膠原病)を疑うような症状(レイノー現象)のある患者さんがいた場合、まず抗核抗体を測定してみてください。特に強皮症においては90%以上の方で抗核抗体が陽性となります。抗核抗体が陽性となった場合には迷わず膠原病を専門とする医師に紹介をしていただくことで、早期診断につながるのではないかと思います。
強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン・疾患レジストリに関する研究班 『強皮症研究会議』(http://derma.w3.kanazawa-u.ac.jp/SSc/SSc.html)
日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同委員会『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』メディカルレビュー社,2020
公益財団法人 難病医学研究財団 『難病情報センター』(https://www.nanbyou.or.jp)
東京女子医科大学医学部 膠原病リウマチ内科学講座 臨床教授
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