概要
肺動脈性肺高血圧症とは、心臓から肺に血液を供給する動脈の一部が狭くなり、肺の血圧が正常よりも高くなる病気を指します。心臓から肺への血液は肺動脈と呼ばれる血管で供給されますが、肺動脈性肺高血圧症で細くなっている血管は、肺動脈がさらに分岐した先の小動脈と呼ばれる血管です。細くなった小動脈に血液を送る必要性が出てくるため、心臓には大きな負担がかかり、心不全症状が現れます。肺血管性肺高血圧症は、日本では難病指定を受けており、女性に多くみられることが特徴です。
原因
肺動脈性肺高血圧症は、肺動脈の末梢側の動脈である小動脈が狭くなる、もしくは硬くなることが原因です。肺に血液を供給するのは、右心室という心臓の部屋です。一方、全身に血液を送り出す心臓の部屋は左心室と呼びます。
肺動脈性肺高血圧症では、狭くなった肺動脈を通して血液を供給するために、右心室に大きな負担がかかります。右心室は、全身に血液を送り出す役割の左心室と異なり、強い血圧を出すことに慣れていません。そのため、負担に耐えられずに心不全症状を認めるようになります。
肺の小動脈が狭くなる原因は、以下のように分類することができます。
特発性
特発性肺動脈性肺高血圧症は、肺血管が狭くなる明確な原因を同定できないものを指します。
遺伝性
遺伝子異常に伴って発症するものもあります。いくつかの遺伝子異常と病気の関係性が同定されています。代表的なものとしては、BMPR2遺伝子異常が挙げられます。
薬物
薬で肺動脈性肺高血圧症を引き起こす場合があることが知られています。
その他
症状
肺動脈性肺高血圧症では、右心室に負担がかかり、血液がうまく肺に流れなくなってしまいます。また、肺は血液に酸素を供給するために重要な臓器ですが、このはたらきも阻害されてしまいます。
それによって、全身に酸素が不十分な血液が滞るため、疲れやすさを感じるようになり、階段を上ったり歩いたりすると疲れを自覚することがあります。また、脳にも不十分な血液が供給されることになり、立ちくらみやめまいを感じます。血液が全身に溜まることで、足を中心としたむくみを自覚することもあります。
病気の状態が進行すると、運動をしていなくても呼吸困難を自覚するようになります。横になった際に症状が悪化するため、座った姿勢を好むようになり、このことを起座呼吸と呼びます。
むくみは全身に広がり、かすれ声(声帯のむくみ)、ピンク色の痰や咳、喘鳴(ゼーゼーとした呼吸)などの症状を認め、慢性的な呼吸困難を自覚します。
検査・診断
肺動脈性肺高血圧症の診断は、肺の血圧が異常に高くなっていることからなされますが、このことは必ずしも簡単ではありません。たとえば、生活習慣病としての高血圧の診断では腕からの血圧を測ることができますが、肺の血圧を実測することは位置関係からして難しいです。
そのため、肺動脈性肺高血圧症では、まず第一に肺の血圧を推定することになり、この目的のためには心臓超音波検査を行います。
肺の血圧が上昇していることが超音波検査で疑われる場合には、実際に肺動脈を測定するカテーテル検査が行われます。
これらの検査に加えて、胸部レントゲン写真、CT、呼吸機能検査、血液検査などを併用しつつ、心不全の程度や不整脈、貧血などの有無を確認します。
治療
肺動脈性肺高血圧症の治療は薬物治療が中心であり、骨幹として一酸化窒素系に作用するPDE5阻害薬、エンドセリン受容体拮抗薬などが存在します。これら薬剤は、病状が進行してから使用するよりも、初期の段階から使用することで治療の効果が期待できます。
内服薬のみでは症状の抑制ができず病状が進行する場合には、点滴での入院治療も必要となります。そのほかの治療として、肺移植が検討されることもあります。
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