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(難病)肺動脈性肺高血圧症の原因・検査・治療(薬物療法)を解説

(難病)肺動脈性肺高血圧症の原因・検査・治療(薬物療法)を解説
岩澤 孝昌 先生

横須賀市立うわまち病院 副病院長・循環器内科 部長

岩澤 孝昌 先生

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この記事の最終更新は2017年02月03日です。

「息切れ」や「息苦しさ」を引き起こす原因にはどのようなものが考えられるでしょうか。年齢のせいだと思い込んだり、また長年の喫煙が引き起こす慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)COPD)、狭心症心不全などを想起される方が多いかもしれません。

しかし、「肺高血圧症」というあまり耳慣れない病気が「息切れ」や「息苦しさ」を引き起こしている場合があります。肺高血圧症は死に至ることもある非常に恐ろしい病気ですが「肺高血圧症といえばこれ」といった特別な症状がないため見過ごされることも多いのです。また、原因も多岐にわたっており、その把握が難しい状況になっています。

肺高血圧症は5つに分類されるのですが、中でも「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(まんせいけっせんそくせんはいこうけつあつしょう)(CTEPH)」「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」は難病と考えられています。

この記事では横須賀市立うわまち病院循環器内科部長の岩澤孝昌先生に、PAHについてお伺いしました。

肺高血圧症はその原因により、下記の5つに分類されています。

第1群:PAH

  • 第1’群:肺静脈閉塞性疾患および/または肺毛細血管腫
  • 第1’’群:新生児遷延性肺高血圧症

第2群:左心性心疾患による肺高血圧症

第3群:肺疾患や低酸素血症による肺高血圧症

第4群:CTEPH

第5群:原因不明の複合的要因による肺高血圧症

肺動脈の末梢血管である小動脈の内径が何らかの理由で狭くなると、肺動脈圧が上昇します(肺高血圧)。この病態を、第1群:PAHといいます。この病気は国に難病指定されています。

PAHの中心となるのは、これまで原発性肺高血圧症(PPH)と呼ばれていた特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)ですが、今日では疾患の概念が拡大してPAH全体を特定疾患としています。その中には遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)のほか、薬剤および毒物に起因するもの、結合組織病(膠原病(こうげんびょう))によるもの、HIV(エイズウイルス感染症)や門脈圧亢進症、先天性短絡性疾患(先天性の心疾患)、住血吸虫症などによるものなど、さまざまなものが含まれています。

記事1「肺高血圧症の原因・症状・治療」で説明したとおり、肺動脈の末梢血管の内径が狭くなることで肺高血圧症になります。内径が狭くなるのにはいくつかの理由が報告されており、PAHで見られるのは「血管収縮」および「リモデリング」です。

肺動脈内腔狭小化の原因

また薬剤が原因でPAHが発症する例もあり、以下の事例はその代表的なものになります。

PAHが知られるようになったきっかけとして、フェンフルラミンという食欲抑制剤を含む「天天素」という中国のやせ薬を服用した方が肺高血圧症を発症したという事例があります。天天素はインターネット経由で購入が可能であったため日本でも広く使用され、若い方が数名亡くなっています。

PAHを含む肺高血圧症で、もっとも一般的な症状は「息切れ」です。逆に息切れや、疲れやすさ、だるさなどにはさまざまな原因が考えられるので、肺高血圧症には疾患特有の症状があるわけではありません。したがって行われる検査もさまざまな原因を考えながら、幅広く行っていきます。もっともPAHについては、本来息切れなどが起こりにくい世代の患者さんが多いため、医師は初めから鑑別疾患の1つとして頭の中に入れておく必要があります。

はじめに行うべき検査は以下のようなものです。

・胸部X線

肺の異常や、心不全の有無を調べます。

・CT

さらに詳しく肺に異常がないかを調べることができます。造影剤を使用することで、肺塞栓症やCTEPHの状態も調べることができます。

・呼吸機能検査

肺活量や気管支の閉塞の状態を調べることができます。肺気腫の有無を調べるのに適した検査です。

・心臓超音波検査

高血圧の程度を推測することができる検査です。原因に心不全がないか、心臓の動きを調べることができます。

・血液検査

貧血など息切れの原因となる疾患を調べます。

これらの検査では肺高血圧症の原因が心不全や肺気腫などの肺疾患でないか、またCTEPHでないかを確認するのが最大の目的です。いずれも該当せず、なおかつ心臓超音波で肺高血圧が確認された場合に、PAHの可能性がぐっと高まります。その場合は心臓カテーテル検査を行うこととなります。

心臓カテーテル検査では実際に肺動脈までカテーテルを進め、直接血管内の圧を測ります。

肺高血圧症の治療薬は大きく3系統に分かれています。

  • PDE5阻害薬

シルデナフィル

タダラフィル

一酸化窒素(NO)系統に作用するsGC刺激薬

リオシグアト

  • エンドセリン受容体拮抗薬

ボセンタン

アンブリセンタン

マシテンタン

  • プロスタサイクリン(プロスタグランジンI2

エポプロステノール

ベラプロストナトリウム

※エポプロステノールは携帯用輸液ポンプによる持続静注で投与

肺高血圧症の治療薬は、かつてはカルシウム拮抗剤など古典的な薬剤のみに頼らざるを得ない時代がありました。近年登場した一酸化窒素(NO)の系統であるPDE5阻害薬とsGC刺激薬には、血管を拡張する効果があります。この系統の薬剤は悪くなった血管を拡げる効果はさほど高くありませんが、血管のリモデリングが進んでいないような、比較的状態のよい血管に対しては穏やかに拡げるという特徴があります。

エンドセリン受容体拮抗薬はもともと高血圧症に対する治療薬として開発されてきました。しかし高血圧心不全に対しては期待された効果が得られず、最終的に肺高血圧に使ったところ非常によく効いたという薬です。この系統ではボセンタン、アンブリセンタンに加えてもっとも新しいマシテンタンという薬があります。このマシテンタンは大規模試験で生命予後をよくしたということが報告され、現在は主たる薬剤になっています。

エンドセリン受容体拮抗薬は強力な血管拡張薬なので、リモデリングが進んだような病的な血管も拡げるというはたらきがあります。そのため、非常に重症な患者さんに対しても長期的に血管のリモデリングを抑制して状態をよくしていくという傾向があります。悪い点としては肺疾患の患者さんの場合、肺の悪いところの血管まで拡げるため、サチュレーション(血中酸素飽和度)いわゆる酸素濃度が下がることが挙げられます。

肺高血圧の治療薬としてもっとも強力なものはエポプロステノールという薬剤です。この薬は体内ですぐに分解されるため、24時間持続的に注入する必要があります。ヒックマンカテーテルと呼ばれるカテーテルを皮下に挿入して、携帯用の輸液ポンプで薬剤を持続的に注入して使用します。

高血圧薬の歴史の中ではこれまで多くの薬が登場しています。しかし肺高血圧に関しては2000年頃に出てきたエポプロステノール以来、大きな動きがありませんでした。エポプロステノール在宅持続静注療法はPAHに対する強力な治療ではありますが、特殊なカテーテルでポンプから点滴静注を行う必要があるため、使いづらい面がありました。

ところが、2005年にはボセンタンという内服薬が出てきて良好な治療成績を上げています。そこからたくさんの経口肺動脈拡張薬のリリースラッシュが続き、ちょうど2010年頃には治療の薬剤が出そろった段階となりました。

またCTEPHでは根治療法としてのPEAに加え、末梢型(まっしょうがた)の病態に対してはバルーン拡張術(BPA)が有効であることが明らかになり、2010年に保険適用になりました。さらにCTEPH適応薬として可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬のリオシグアトも使用可能となりました。このような背景から、CTEPHの薬物療法も近年非常に注目されるようになっています。

同じプロスタサイクリン製剤では内服薬のベラプロストナトリウムがありますが、効果の点ではエポプロステノール静注には及びません。エポプロステノール在宅持続静注療法は、その他の内服薬に比べてより強力に効くため、比較的若い方で予後が悪いと思われる患者さんに対しては積極的に行うべき治療ですが、内服薬に比べるとやはり手間がかかるという難点があります。しかし、近いうちにこのエポプロステノールの内服薬が出るといわれており、注目を集めています。

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    岩澤 孝昌 先生

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