概要
シェーグレン症候群とは、免疫のバランスが崩れることによって涙や唾液を産生する涙腺・唾液腺などの臓器を攻撃し、眼乾燥(ドライアイ)や口腔乾燥(ドライマウス)を主にきたす病気のことです。自己免疫性疾患(免疫の異常によって自分自身を攻撃してしまう病気)の一種であり、涙腺や唾液腺だけでなく全身の関節、肺、皮膚、消化管、腎臓などさまざまな部位にダメージが及ぶこともあります。
シェーグレン症候群を発症すると目や口の乾燥が目立つようになりますが、多くの人は症状とうまく付き合いながら治療の必要なく生活していると考えられています。一方、一部の人には目や口の乾燥以外にもさまざまな症状が現れ、腎臓、肺、皮膚などにも病変が現れたり、まれに悪性リンパ腫の合併が見られたりすることもあります。また、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどほかの自己免疫疾患に合併する二次性シェーグレン症候群もあります。
なお、この病気は中年以降の女性が発症しやすいという特徴がありますが、明確な発症メカニズムは解明されていないのが現状です。
原因
シェーグレン症候群は、免疫のバランスが崩れることにより、涙腺や唾液腺をはじめとする自分自身の臓器にダメージが起こる病気です。どのような原因で免疫の力が過剰にはたらいて涙腺や唾液腺を攻撃するのかはっきりとは分かっていません。
まれですが、シェーグレン症候群の約2%は同一家系内で発症するとのデータもあり、遺伝との関連も指摘されています。そのほか、何らかのウイルス感染、女性ホルモンの変動、たばこなどの環境要因もあり、ひとつの要因だけでなくいくつかの要因が重なり合って発症するものと考えられています。
症状
シェーグレン症候群を発症すると、もっとも多く見られる症状が目や口の乾燥です。これは涙腺や唾液腺がリンパ球という血液細胞に攻撃を受けることで機能が低下し、涙や唾液の分泌が減少するためです。その結果、目の痛みや充血、口臭、虫歯、歯周病などさまざまな症状を引き起こします。
一方、シェーグレン症候群は一部に目や口の乾燥以外の症状が現れることが分かっています。これは、シェーグレン症候群を発症すると、リンパ球や自己抗体(自分の臓器を攻撃するたんぱく質)および過剰に増えた免疫グロブリン(抗体のたんぱく質)が、全身のさまざまな臓器にダメージを与えるからです。これらの症状は多岐に渡り、関節炎・甲状腺炎・間質性肺炎・慢性気管支炎・自己免疫性肝炎・胃炎・間質性腎炎/尿細管性アシドーシス(尿に酸を排泄できなくなり、血液が酸性になること)・皮疹などが挙げられます。
また症状の重症度は人によって大きく異なり、大多数は軽度な目や口の乾燥のみしか見られませんが、全身にさまざまな症状が引き起こされるケースもあります。また、日本では比較的まれですが悪性リンパ腫を合併することがあり、重症度がさまざまなのもシェーグレン症候群の特徴のひとつです。
検査・診断
シェーグレン症候群が疑われるときは次のような検査が行われます。
ガムテスト、サクソンテスト、シルマーテスト
口や目の乾燥の程度を調べる検査です。ガムテストは口の中でガムを10分間かんで、サクソンテストは綿を2分間かんでその間に分泌された唾液の量を計測する検査です。シルマーテストではまぶたに検査用の紙を挟んで涙の分泌量を調べます。これらの検査によって、口や目の乾燥の程度を評価することが可能です。
血液検査
シェーグレン症候群では、“抗核抗体” “リウマトイド因子”“抗SS-A抗体”や“抗SS-B抗体”と呼ばれる自己抗体が血液中に産生されるようになります。そのため、血液中にこれらの自己抗体が存在するか調べる目的で血液検査を行うのが一般的です。また、そのほかにも全身の炎症の程度なども評価します。
唾液腺造影検査
X線写真に描出されやすいよう加工された“造影剤”を唾液腺内に注入し、唾液腺の状態を観察するための検査です。シェーグレン症候群による唾液腺の異常を発見することができますが、痛みなどを伴うため近年はほとんど行われません。MRCTを用いたMRシアログラフィーによって唾液腺造影と同じような異常を観察することができます。
唾液腺超音波検査、唾液腺MRCT、唾液腺シンチグラフィー
超音波やMRCTによって耳下腺や顎下腺の内部構造の異常を調べることができます。唾液腺シンチグラフィーで唾液腺の機能を調べることができます。
涙腺・唾液腺生検
涙腺や唾液腺の組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。局所麻酔による痛みを伴いますが、シェーグレン症候群では組織にリンパ球が攻撃した特徴的な跡が見られるため確定診断を下すうえでも重要な検査となります。
治療
シェーグレン症候群を根本的に治す方法は、現時点では解明されていません。そのため治療は、目の乾きに対しては目薬(人工涙液などが使われ、さまざまな種類があります)や、乾燥所見が強い場合は涙点プラブや涙点焼灼術などの処置により涙が鼻に降りていかないような処置を行うことがあります。口の渇きに対しては、食後や就寝前の歯磨き、口腔衛生の指導、人工唾液の定期的な噴霧、唾液分泌を刺激する内服薬(セビメリン、ピロカルピン)などそれぞれの症状を改善するための対症療法が行われます。全身にさまざまな症状が現れた場合は、それぞれの症状に合った治療が進められていきます。
一方で、対症療法は一時的に症状を緩和することはできても病気の進行を遅らせることはできません。近年では免疫抑制剤の一種がシェーグレン症候群の進行を遅らせるのに有用との報告もなされており、治療の実用化に向けて研究が進んでいるところです。
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