インタビュー

肺高血圧症の治療とは? 大きく変わりつつある肺高血圧症治療の進歩を解説

肺高血圧症の治療とは? 大きく変わりつつある肺高血圧症治療の進歩を解説
辻野 一三 先生

北海道大学大学院医学研究院内科学講座

辻野 一三 先生

ひとことに「肺高血圧症」といっても、その発症要因や患者さんの抱える病態は大きく異なります。そのため治療を行う際には、患者さん個々の病態に応じた治療方法を選んでいくことが望まれます。

肺高血圧症にはどのような病態があり、それぞれにどのような治療方法を行うのでしょうか。肺高血圧症の分類や、近年変化を遂げつつある治療の現状について、記事1に引き続き北海道大学大学院 医学研究院内科学講座 特任教授 辻野 一三先生に解説いただきました。

▼肺高血圧症の概要については記事1をご覧ください。

記事1『肺高血圧症とは 原因や発症メカニズム、検査方法、高血圧との違いについて詳しく解説』

肺高血圧症の分類

肺高血圧症の分類

肺高血圧症は、発症の原因から大きく5つに大別されます。

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・第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)

・第2群 左心疾患に伴う肺高血圧症

・第3群 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症

・第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)

・第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症

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どの項目に分類されるのかによって、治療法が大きく異なります。まずは、それぞれどのような病態であるかを解説していきましょう。

第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)

第1群は、肺の血管そのものに異常をきたしている肺高血圧症です。

肺動脈性肺高血圧症の発症の原因は、

・特発性(原因が見当たらない)

・遺伝性

・結合組織病

門脈圧亢進症

先天性心疾患

・肺静脈閉塞性疾患および/または肺毛細血管腫

など様々な要因があります。

これらの何らかの原因で肺の血管内腔が狭くなることで、肺動脈内の血圧が上昇しています。

第2群 左心疾患に伴う肺高血圧症

第2群は左心疾患を発症したことで肺高血圧症を引き起こす病態です。

本群では、左心疾患(心筋梗塞心房細動不整脈など)によって、心臓の左側(左心房、左心室)の圧が高まり、結果肺動脈圧が上昇します。

この病態の発症頻度は、肺高血圧症のなかで最も多いとされていますが、本病態に関する研究結果や疫学情報は不十分で、発症頻度や予後に関する明確なデータは示されていません。

心疾患を起因とする病態のため、循環器内科の医師が診断・治療を担当することが多いです。

第3群 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症

第3群は、もともと肺に疾患を患っていたことによって発症する肺高血圧症です。

肺の疾患を抱えていると、肺全体がダメージを受け、その結果として肺の血管も傷ついてしまします。そのため肺の血圧上昇を引き起こします。

本疾患は肺の疾患を原因としているため、通常呼吸器科の医師が治療を担当します。

第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)

第4群は、体内の血流で形成された血栓が肺の血管に詰まることで引き起こされる肺高血圧症です。

肺の血管に血栓が詰まってしまうと、肺血管を流れる血液の流れが滞り、血液を循環させるためにより大きな力が必要になります。そのため肺の血圧が上昇し、肺高血圧症を引き起こします。

第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症

第5群は、第1~4のいずれにも当てはまらない肺高血圧症です。この群には、血液疾患や一部の全身性疾患、代謝性疾患など様々な要因に伴う肺高血圧症が分類されます。

それでは次に、それぞれの治療法について解説していきます。

肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療

肺高血圧症の治療方法は、第1~5群のいずれかによって大きく異なります。

第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療

肺動脈性肺高血圧症の治療は近年大きく変化しました。これは肺動脈性肺高血圧症に対する新しい薬剤が相次いで登場したためです。こうした薬剤の登場により治療効果が向上するようになってきました。

こうした大きな治療効果の向上を実現させたのは「肺血管拡張薬」と呼ばれる薬剤です。血管拡張薬は、狭くなってしまった血管を広げ、長期的に使用することで血管壁の構造を改善させるなどの作用が期待できます。こうした作用によって肺動脈性肺高血圧症の肺の血圧を正常の値まで戻すことを目指します。血管拡張薬は、現在の肺動脈性肺高血圧症治療の中心として用いられています。

血管拡張薬には様々な剤型があります。

・注射剤(静注投与・皮下投与)

・経口薬(飲み薬)

・吸入液             など

肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療

なかでも注射剤(静注投与型)の血管拡張薬は、特に重症の患者さんに対して重要です。静注投与型の注射剤は、注射剤携帯用小型ポンプに薬剤が充填され、患者さんの鎖骨下の静脈などから挿入しているカテーテル(医療用の柔らかい管)を介して薬液が送られます。ポンプの操作は患者さんご自身で行います。ポンプは24時間働き、入浴時や就寝時にも稼働を続けます。こうした仕組みによって薬剤が持続的に投与できます。

静注投与型の注射剤は「最も頼りになる治療法」とも言えますが、患者さんご自身がポンプの操作をしなければならない(特に高齢者では負担が大きい)ことや、挿入されたカテーテルが破れる・感染症を引き起こす可能性がある、実施できる施設が限られていることなどの問題点があります。一方で、近年では経口薬(飲み薬)の使用も普及してきており、早期から違う作用機序の薬を複数併用することで以前よりも強い効果が期待できることが示されてきています。中には合併症の多い静注療法から経口療法へもどすことができる場合もあります。しかし、その際再燃してしまう(再び症状が悪化する)可能性がゼロではありません。治療を変更した際に肺高血圧症が再燃してしまった場合、再度症状をしっかりと抑制できるかどうかはわからないと考えられており、静注投与から経口投与への切り替えについてはとても慎重に考える必要があります。

またそのほかにも皮下投与型吸入型などの薬剤が登場しています。それぞれの投与方法を選択することで、静注投与のようにカテーテルを挿入する負担はなくなりますが、皮下投与型(皮下注射)は投与時の痛みが強いとされていること、吸入型は静注投与型と同程度の作用の強さを得られにくいといった課題もあるといえます。

このように、肺動脈性肺高血圧症に対する治療薬には様々なものが登場し、治療効果の向上が報告されていますが、薬剤の投与方法やさらなる治療効果の向上などが課題であると考えられます。

第2群 左心疾患に伴う肺高血圧症の治療

左心疾患とは、心臓の左側(左心房・左心室)の病気のことで、代表的なものに心筋梗塞弁膜症心房細動にともなうもの、などが含まれます。左心疾患を持つ患者さんでは肺の血圧が上昇することが少なくありませんが、すべての左心疾患患者さんが肺高血圧症になるわけではありません。肺の血圧の上昇には個人差があり、左心疾患を持つ患者さんのなかで肺動脈圧が25 mmHg以上の上昇を認めた場合に、「左心疾患に伴う肺高血圧症」と診断されます。さらに肺動脈圧の上昇の程度や特徴から、一部の方では左心疾患に肺の血管の病気ともいえる肺動脈性肺高血圧症が合併したと考えられる場合もあります。しかし、肺動脈上昇が純粋に左心疾患によるのか、それとも肺動脈性肺高血圧症が併存するのかの見極めは現在の医療でも非常に困難です。

左心疾患に伴う肺高血圧症に対する治療の中心は、左心疾患そのものに対するものになります。症例によっては肺動脈拡張薬による治療の試みもなされています。

第3群 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症の治療

肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症に対しては、治療の進歩があまり得られていません

患者さんのなかには低酸素症の方が多いので、酸素の供給を行います。酸素の供給をすることで症状が改善される方もいらっしゃいますが、すべての患者さんで優れた治療効果が得られるわけではありません。

また第1群の肺動脈性肺高血圧症の治療で用いられる血管拡張薬によって症状が改善する方もなかにはいらっしゃいます。こうした方は肺の血管の疾患を合併している方は多いと考えられます。

どのような治療を行っていくべきかについては、肺高血圧症を専門に診療している呼吸器科・循環器内科、双方の医師が連携をとりながらよく見極めていくことが必要です。

第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療

慢性血栓塞栓性肺高血圧症では、肺の血管に血栓が詰まっているため、少なくともその部分については血管拡張薬を使用しても大きな治療効果は望めません。そのため外科手術によって病変部位を切除する、バルーンを活用して血管を広げるなどの治療を考慮します。ただし近年では、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する新たな治療薬も登場しているため、そうした薬剤を使って治療することもできます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する治療は特にバルーンによる治療法(バルーン肺動脈形成術:BPA)が登場したことで大きく進歩しました。この方法では、血管の狭くなった部分にバルーンカテーテルを挿入し、バルーンカテーテルを拡張して血管を押し広げ、血管は拡張した状態を保つことで、肺血管の狭窄を改善します。この治療法が近年広まっており、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の患者さんの治療に役立っています。

肺血栓高血圧症 治療

第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症の治療

詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症に対しては、患者さん個々が抱える病態を見極めて治療を進めることが重要です。

患者さんのなかには、希少疾患を発症している方や、第1群である肺動脈性肺高血圧症の要素を有している方もいらっしゃいます。複数の病態が併存しているケースもあるため、複雑に絡んだ患者さん個々の病態を判断し、希少疾患に対する治療や血管拡張薬を用いた治療を行っていくことが求められます。

 

大きな変化があらわれつつある肺高血圧症の治療

辻野 一三先生

以前は予後が悪いとされていた「肺高血圧症の治療」

肺高血圧症はこれまで予後不良の疾患として知られていました。特に第1群に分類される特発性肺動脈性高血圧症は診断後の生存期間が3年以内ともいわれ、さらに若い方が罹患するケースが多いことから進行性で命を落とす、不治の病として認識されていました。

しかし、近年は「第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)」と「第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」の治療に大きな進歩がありました。こうした医療の進歩によって特発性肺動脈性高血圧症の患者さんでも、非常に進行した重症例でなければ、10年後も元気に生活できる可能性も高くなってきているといえるでしょう。

肺高血圧症の疫学・治療・予後に関するエビデンスはまだ不十分

肺高血圧症に対する治療は進歩を遂げていますが、どのような治療が最適であるか、治療後の予後はどうなるのかについての研究はまだ不十分です。さらに肺高血圧症の疫学に関するデータもまだ十分であるとは言えません。

ひとことに「肺高血圧症」といっても患者さんの抱える病態はさまざまであり、その多様性ゆえにエビデンスを確立することが非常に難しくなっています。今後さらに肺高血圧症に関する研究が進展することが望まれるでしょう。

 

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