インタビュー

睡眠障害の治療-抗精神病薬が必ずしも最善ではない

睡眠障害の治療-抗精神病薬が必ずしも最善ではない
徳田 安春 先生

群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任...

徳田 安春 先生

Choosing Wisely

この記事の最終更新は2016年05月15日です。

「入眠できない」、「眠りが持続しない」ということが頻繁にあるという方は、不眠症といえるでしょう。不眠症は仕事や運転、思考にまで支障をきたしますし、健康問題を引き起こすこともあります。

不眠症の治療として、抗精神病薬と呼ばれる薬が処方されることがあります。The U.S. Food and Drug Administration (米国食品医薬品局。以下FDA)は、抗精神病薬を精神疾患の治療薬として認可していますが、不眠症に対する薬としては認可していません。ただし、処方自体は合法です。このような事例は「適応外の」処方と言われています。しかし、米国精神科学会によると、睡眠障害治療に抗精神病薬を第一に用いることは推奨されていません。以下にその理由を記します。

不眠に対して処方される抗精神病薬は、非定型抗精神病薬として知られています。アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなどがこれにあたります。これらの薬を服用して眠気が増すことはあっても、入眠や睡眠の持続を補佐するという確かなエビデンスはほとんどありません。抗精神病薬の服用には、確実といえる効果がないばかりか、重い副作用のリスクもあります。

抗精神病薬を飲み始めた患者さんの多くが、以下の副作用により服用を中止しています。

めまい、眠気、錯乱、これらにより転倒や外傷の危険が増すこと

・体重増加

・糖代謝異常

・高コレステロール血症

・筋攣縮、振戦、痙攣。これらの症状は薬を中止しても続く場合があります。

・血栓症。放っておくと重い病気や命に関わるおそれがあります。

他の治療がより有効である場合が多いので、まず他の治療を探るのがよいでしょう。

一晩か二晩の眠りに関しては、OTC(処方箋なしで薬局で買える)の睡眠薬についてかかりつけ医に聞いてみましょう。眠る3時間前に少量のメラトニン製剤を服用すると良いです。特に時差ぼけなどに効果的です。

1週間に3日以上の不眠が1カ月以上続いている場合、医学的に問題があるかもしれません。関節炎の痛み、のぼせ、不安、抑うつ、薬剤による不眠症は治療できる可能性があります。不眠症を起こすもので治療可能な疾患としては、以下が挙げられます。

・睡眠時無呼吸-ひどいいびきを伴います。

むずむず脚症候群-下肢に強い不快感があります。

夜間頻尿糖尿病前立腺肥大症尿路感染症のサインかもしれません。

逆流性食道炎-しばしば胸やけを伴います

●行動療法

不眠症を専門とするセラピストなら、不眠を「治癒」する手助けができるでしょう。薬はあくまでも「対症療法」にすぎません。

FDAは抗精神病薬を、双極性障害統合失調症・一部のうつ病を持つ成人患者の治療薬として認可しています。以下の場合であれば抗精神病薬の使用を考慮します。

・躁状態の双極性障害のような深刻な精神病により不眠症になっている場合

・睡眠薬や他の治療法を用いても効果がなかった場合

・睡眠不足のせいで、強い苦痛や疲労を感じている場合

可能な限り少量から始め、重篤な副作用が起きていないことを医師に確認してもらいましょう。効果がなかったり、薬が必要無くなったら服薬を中止しましょう。

睡眠障害への対処法-より良く眠るためにできること>

・運動

1週間に150分を目標に、早歩き程度の負荷の運動を行いましょう。

ただし、夜に運動してはいけません。身体を興奮させ寝つきを悪くします。

・規則正しい起床時間と就寝時間

毎晩決まった時間に眠くなるよう、身体を整えます。

・ベッドには寝るときと性交渉のときのみ入る

ベッドに入って20分経っても眠れる気配がないのであれば起きましょう。薄暗い照明をつけて、眠くなるまで何かリラックスできることをしましょう。

・気持ちを穏やかにできるような睡眠前の習慣を作る

例えば、あたたかいお風呂に入る、読書をする、音楽を聴くなどです。

・寝室を涼しく、暗く、静かにする

厚いカーテンやアイマスクで光を遮断してみましょう。耳栓や、防音用のファンや音響機器を使って音も遮断しましょう。

・自然光を利用する

自然光は体内時計を健康なリズムに合わせてくれます。ブラインドを開けて太陽の光と共に目覚めましょう。毎日少なくとも30分は外で過ごしましょう。

・昼寝をしすぎない

午後3時以降に昼寝をしてしまうと、夜、眠りにくくなります。

・夕食を食べ過ぎない、夜遅くに夕食をとるのは避ける

胸やけの原因となります。(ただし、寝る前のコップ1杯のホットミルクは眠気をもたらします)

・就寝2時間前からは喫煙しない

・少なくとも就寝8時間前からはカフェインを控える

・就寝4~6時間前からはアルコールを控える

・寝る直前にテレビを見たり電子機器を使わない

 

※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。

翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 東京医科大学医学部医学科 伊藤有里

監修:小林裕貴、徳田安春先生

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  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of General and Family Medicine 編集長

    徳田 安春 先生

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