インタビュー

総合診療医とは―患者さんのことも、国のことも考える

総合診療医とは―患者さんのことも、国のことも考える
徳田 安春 先生

群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 ...

徳田 安春 先生

この記事の最終更新は2015年06月24日です。

「失神」は、多くの場合生命に危険を及ぼすものではありません。しかし、なかには危険なタイプの失神があります。また、失神の原因となる病気は非常に幅広くなります。
こうした「失神」のような症状に向き合いきちんと原因を突き止めるためには、注意深い問診(この場合、患者さんから症状や失神した状況を正確に聞いて、それをきちんと解釈する)などの技術が必要になります。

このような「原因が多岐にわたる症状」の場合、受診される患者さんだけでなく、医師の側も困惑してしまうことがありえます。そこで、こうした症状をきちんと解きほぐし、適切な治療に結びつけていくための役割を担っていく医師が必要となります。それが「総合診療医」です。総合診療の第一人者であり、国の政策にも深く関わっている徳田安春先生に、これからの総合診療医が果たしていくべき役割についてご意見をお伺いしました。

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「総合診療医」の最も重要な役割は、患者さんから信頼され、健康問題を相談できる相手となることです。ひとりの患者さんがいくつもの健康問題を抱え込んでいることがあります。もちろん、たとえば腰が痛い場合には専門である整形外科が診察をしてくれるでしょう。しかし、さまざまな問題を抱えている患者さんがそれらすべての相談に乗ってもらえることは現状ありません。専門分科しすぎてしまっているためです。

実は、日本では患者さんにとって「医療機関の満足度」が低いというデータもあります。検査もたくさん行っているし、薬もちゃんと出している。それでも、本当に患者さんの悩みを「総合的に」すべて聞けているのかという点についての検証が必要だと感じています。総合診療医はまず、この問題に対して努力をしていくことが求められます。患者さんに対して親身になり、ひとつの痛みやひとつの疾患だけを診るのではなく、社会的背景も含めて診ていくのです。

総合診療医が備えておくべきスキルについては、よく議論になります。しかし結論から言えば、すべての総合診療医がすべてを極めるのはとても難しいし、おそらく不可能であると思います。どこまで自分で対処できるのかという線引きをし、判別していくことが大切です。つまり、自信のないところになったら潔くきちんと専門医に紹介することも大切な能力といえるのです。腰痛であれば、自分のスキルで診られる段階まで診て、自分の技能を超える所見が出てしまったと判断したら整形外科に相談すればよいのです。この判断力が重要です。

2010年ごろから、アメリカの内科専門医のプロフェッショナリズム委員会である「ABIM」が「Choosing Wisely(賢い選択の意)」を提唱しはじめました。これは、「現在医療の世界で行われている検査や治療が、過剰な検査・過剰な治療になっていないかきちんと検証していく」というものです。
その中でも、特に医師自身、医療従事者自身がプロフェッショナリズムとプロフェッショナルオートノミー(プロフェッショナルとしての自律)に基づいてやりすぎていた治療をふりかえり、反省して有限な医療サービスをニーズのあるものに向けていこうという動きです。

もちろん、これは単に「全部やめてしまえ」というような考え方ではありません。足りないケアに対してはどんどん投資をしていくことは重視しています。たとえば、まだ充実していない分野や必要なケアが十分に行われていない分野(たとえば、非がん患者さんの緩和ケア・リハビリテーション・心理カウンセリングなど)に対してはきちんと力を入れるべきであるという考え方も含んだものです。

一方で、症状のない場合の健康診断人間ドック、過剰に行われている検査などが本当に必要なのかについてはきちんと考えていこうと提唱しています。今後は第一線にいる総合診療医がどのような検査を行うか決定していくシーンが増えるため、この考え方はとても重要なのです。

現在一般的となっているEBM(Evidence Based Medicine:医学的根拠に基づく医療)という概念は、1980年台から出てきました。近年ではもう一段階進んでVBM(Value Based Medicine:患者さんにとっての価値に基づく医療)という画期的なうねりが出始めていきます。

確かに、きちんと有効性が研究で示されたエビデンス(医学的根拠)がある方法を使っていこうという動きは医療を大きく進歩させ、質のバラつきをなくさせてきました。しかし、VBMというもう一歩先に進んだ考え方では以下のようにValue(患者さんにとっての価値)が規定されます。

分子:患者さんのベネフィット(利益)
分母:患者さんのリスクとコスト

つまり、分子を大きくするばかりが医療ではなく、分子と分母のバランスこそが大切であり、これを最大化させることを目指していこうという考え方なのです。これにより、患者さん中心の医療を維持しながらも、それを支える国家のことも考えていこうという姿勢を取れるのがValue Based Medicineです。

日本の高齢化のスピードは世界最高です。医療も含めて財政がすでに厳しいのは周知の通りです。このままでは、国家財政の破綻予防は難しいと考えられます。
これに対し、医師として実践すべきこともあります。これは、厚生労働省や政府から頼まれたからしぶしぶやるのではありません。われわれ日本の医師はプロフェッショナルオートノミー(プロフェッショナルとしての自律)のもと、日本の医療を守るためにVBMを実践していかねばなりません。その際にも、第一線にいる総合診療医の役割は大きくなっていくでしょう。

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  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長

    徳田 安春 先生

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