「失神」とは、一時的に脳の血流が低下することにより引き起こされる一過性の意識消失のことを指します。「一過性」のため、通常の場合は数秒から数分以内に意識は完全に回復します。一般的な言い方をすれば、「気を失う」という状態ですが、世間では貧血と呼ばれることがあります(これは後述するように正しい言葉ではありません)。
よく世間では「貧血を起こした」と気軽に言われていますが、実はそれが失神であることもあります。多くの場合は危険ではありませんが、その中には心臓の病気が隠れていることもあります。日本の総合診療を牽引する徳田安春先生に、失神についてお話をお聞きしました。
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「失神」とは、脳に流れ込む血流の量が減ってしまうことによる、一時的な意識消失です。1年間に、1000人の人口あたり6.2人の方が失神を起こすと言われています。
失神にはさまざまな原因があります。まず、血液の量が足りなくなってしまった場合に失神になります。また、血管が異常に広がった場合にも失神になります。広がった血管に血液がたくさん流れ込むことにより、血圧が下がってしまうのです。これは、「迷走神経(脳神経のひとつ)」が異常に興奮することにより起こります(迷走神経反射といわれます)。このような原因により血圧が下がり、脳の血流が減っていきます。
また、心臓自体の病気も原因となります。心臓のポンプ機能が落ちると、同じように脳血流が下がってしまうからです。しかし、実はこれが一番危険な失神です。
一般的に、失神を表す際に「貧血」という言葉が使われることが多くあります。これは、実は正確な表現ではありません。本来は、貧血とは「血液中のヘモグロビンが減少すること」を指すのです。よく「貧血で倒れた」「脳貧血」という言葉が使われていますが、このように表現されるものの中には「失神」が含まれていることがあります。
また、失神は「立ちくらみ」と呼ばれることがあります。これは、概ね間違った使い方ではありません。立ちくらみした患者さんが一時的に意識を消失すれば、それは失神と呼ばれるものです。
実は、多くの方の失神は心配すべきものではありません。しかし、失神の中にも危険な病気が隠れている場合があります。これについては、記事2『失神とは―SYNCOPEで失神を起こす病気を考える』で詳しく述べていきます。ここではまず、一般的にどのような方が「危険な失神」を持つリスクが高いのか、病院で検査を受けるべきなのかという観点で説明していきます。
まず、高齢の方は一般的に注意が必要です。特に心臓の病気をお持ちの方は要注意です。また、「夏失神」という失神も高齢者、特に降圧薬などの薬をたくさん飲んでいる高齢者がよく起こします。夏になると血管が拡張しやすく、汗が出やすくなります。これにより、薬が効きすぎてしまうために失神を起こしてしまう場合、夏失神と呼ばれます。
今までに失神の経験がない方(初発)も注意が必要です。このような場合、若い方でも注意すべきです。若い方の初発の失神が実は異所性(子宮外)妊娠の破裂であり、身体の中で大出血をしていたという例もあります。このように「初発」は常に注意が必要で、若い人であれば大丈夫というわけではないのです。
何の前触れもなく倒れてしまった方も危険です。記事3『失神の種類―頻度の多い迷走神経反射と状況失神について』で詳しく述べますが、比較的安全な失神である「迷走神経反射」には前駆症状と呼ばれる前触れがあります。「気分が悪くなる」「吐き気がする」「あくびがでる」「急に眠くなる」「視野が少しずつぼやけていく」などです。これらのない突然の失神は危険です。
また、以下のような方の失神(特に心臓が悪い人、心臓が悪くなる生活習慣を送っている人)には注意が必要であり、病院を受診して検査を受けることも検討すべきです。怖い病気が隠れているリスクが高いケースとしては、以下のような方が挙げられます。
失神を繰り返している方で、「またか」と思っている方も多いと思います。記事2『失神とは―SYNCOPEで失神を起こす病気を考える』や記事3『失神の種類―頻度の多い迷走神経反射と状況失神について』で説明しますが、「迷走神経反射」や「状況失神」というものはそれら自体が命を奪う失神ではありません。しかし、失神は意識を失ってしまうため、それが起こる場所には注意が必要です。失神の際のケガには注意をしましょう。事故、転倒・転落、頭部や頸椎の損傷など、いろいろな外傷を受ける可能性は高いです。
また、交通機関を操作している人など、職業によっては注意が必要です。たとえば、記事2『失神とは―SYNCOPEで失神を起こす病気を考える』で説明する「咳失神」はそれ自体には命への危険性が少ない失神(失神しても普通に戻れば後遺症が残らない)ものです。しかし、大型バスの運転手の方が業務中に失神した場合、大事故につながります。そのような場合は、産業医と相談して配置転換なども検討するべきです。
群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長
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