失神は、一過性の意識消失のことを指します。「一過性」のため、症状としては一時的なものであり、回復後には症状がなくなるという特徴があります。失神は多くの場合、危険性が低いものです。しかし、その中には危険な病気(特に心臓の病気)が原因となる「心原性失神」が含まれています。日本の総合診療を牽引する徳田安春先生に、失神の原因となる病気についてお聞きしました。
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失神は英語でSYNCOPEといいます。この7文字それぞれを頭文字として分類する方法があります。この説明は少し難しい話になりますので、ひとつひとつ見ていく前に、まずおおまかに説明します。
まず注意すべき危険な失神は、以下の「C」が関係する場合です。これは心臓や血管の病気が原因となり、緊急性の高いものです。不整脈(脈が速くなる、遅くなる、止まる)が関係したり、心臓の血管が詰まったりする病態となります。また、大きな血管の関係する「大動脈解離」などにも迅速な対応が必要ですし、重症度も高いといえます。
記事1『失神とは―SYNCOPEで失神を起こす病気を考える』におけるリスクの項で説明しましたが、もともと心臓の病気を持っていたり生活習慣病がある方は、このCが関係する失神の可能性が十分に考えられるため、注意が必要です。
また、初発の「O」も注意しなくてはいけません。たとえば、「立ち上がったときに急に失神する」ということが「初めて」起きる場合です。実はここには、身体の中の出血が隠れていることがあります。異所性(子宮外)妊娠の破裂や、消化管出血であることも考えられます。
一方で、慢性的であっても、「N」の関連、つまり神経系統の病気で起きてしまう失神は難治性です。長期にわたって自律神経がやられてしまう「糖尿病性神経障害」や「Shy Drager症候群」は、緊急性はありませんが重症度は高くなります。少し頭を動かしただけでも失神してしまうこともあり、失神による転倒・転落・骨折の危険が極めて高くなります。
「状況失神」と言われます。なんらかの明らかな状況が原因にあるものを言います。咳嗽(がいそう・いわゆる「せき」)、嚥下(えんげ・食物を飲み下すこと)、排便、排尿、食後などある一定の状況で何度も失神してしまいます。記事3『失神の種類―頻度の多い迷走神経反射と状況失神について』で詳しく説明します。
「迷走神経反射」と言われます。YとVが似ていることから、このような言い方をしています。迷走神経という副交感神経が急激に反射を起こすと、血管が拡張し、心拍数が落ちます。それにより脳血流が落ちます。映画などであまりに恐ろしいシーンを見たために倒れたり、緊張しすぎて倒れたりするケースもこれにあたります。記事3『失神の種類―頻度の多い迷走神経反射と状況失神について』で詳しく説明します。
先述したように、神経系統の病気によって起こる失神は難治性です。慢性的であり、緊急性はありませんが重症度は高くなります。
心血管性、心臓や血管の病気という意味です。これがもっとも危険であり、緊急性のある失神です。記事4『「危険な」失神とは―心臓が原因の失神、起立性低血圧にも注意』で詳しく説明しますが、具体的には以下のような疾患のある方が当てはまります。
「起立性低血圧」といいます。記事4『「危険な」失神とは―心臓が原因の失神、起立性低血圧にも注意』で詳しく述べますが、血管内の容量が著しく減少している場合が危険です。脱水のほか、子宮外(異所性)妊娠の破裂などの大出血がベースになっていることもあります。下痢がひどくなってしまうパターンもありえます。
「精神心理系」といいます。ヒステリーなども原因となります。
「その他すべて」という意味です。この中で大切なのは、薬剤性のもの(薬を飲むことが原因となる場合)です。特に高血圧に対する降圧薬(α遮断薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなど)に注意が必要です。アルコールも含まれます。
この表で、まずはE、特に薬剤性ではないかとしっかり話を聞きます。さらに、危険なCやOが疑われるパターンを注意深く考えます。その次に慢性的だけれども難治性のNに関しても考えます。S・Y・Pは重篤度が高くないですが、引き起こす場所次第ではそれに付随するケガが重篤になりえます。
「失神」と「意識障害」は異なるものです。失神は一過性の意識消失であり、短い時間(何秒など決まった数字はありません)で終わり、自然と元に戻ります。
一方、一般的には意識障害は十数分と続くものです。つまり、「分単位」以上続くものであると考えましょう(意識が戻らないこともあります)。ついつい失神でも意識障害でも脳の病気が原因かと勘違いしがちですが、ここまで説明してきたように脳の病気が原因である失神は少ないです(また、実は意識障害も脳以外の病気が原因となることが多いのです。低血糖・薬剤などが原因となります)。
群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長
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