インタビュー

レム睡眠行動障害とは?

レム睡眠行動障害とは?
藤城 弘樹 先生

名古屋大学大学院 医学系研究科精神医学 特任准教授

藤城 弘樹 先生

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この記事の最終更新は2015年04月28日です。

レム睡眠行動障害は、浅い眠りに入った状態(レム睡眠期)で見る夢の内容が行動化するもので夢の内容に一致するような形で大声を出して叫んだり、体が動いたりします。特に高齢者において、加齢とともに増加し、最近ではパーキンソン病レビー小体型認知症の発症に先駆けて起こる症状として注目されています。

睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠に分けられ(上図)、およそ90分周期で、一晩に3-5回繰り返されます。レム睡眠では精神活動が生じるため、夢を見たり急速眼球運動(rapid eye movement: REM)が起きたりしますが、骨格の筋緊張は消失します。つまり、身体を運動させるための筋肉は動かせない状態です。

しかし、レム睡眠行動障害では、骨格筋の筋緊張が消失しないため、夢の内容がそのまま行動化してしまうのです。この障害は、レム睡眠や筋緊張と関係が深い「脳幹」という脳の部位の障害が原因と考えられています。高齢者では、神経変性疾患であるパーキンソン病レビー小体型認知症に伴ってあらわれる場合が多く、この障害を発症したときにこれらの神経疾患を併存していなくても、経過中に発症する頻度が高いことが明らかとなっています。

軽い症例では、睡眠中の大きな寝言や粗大な四肢運動(手足をばたつかせるなど)がみられる程度ですが、重症例ではベッドから飛び出したり、ベッドパートナーに対する暴力行為がみられる場合もあります。

上図に示したように、レム睡眠は周期的に繰り返されますので、レム睡眠のたびに患者が自分自身の怒声で目が覚めてしまう場合もあります。典型的には夢内容に一致した「繰り返し起こる睡眠時の発声や複雑な運動行動」があるかどうか、がまず診断基準のひとつとなりますが、症状は必ずしも激しい異常行動として現れるとは限りません。飲食したり、笑ったり・歌ったりといった楽しげな行動もあります。頻度も、毎晩出現する場合から数ヶ月に1回の場合までさまざまです。

診断でレム睡眠行動障害であると確定するためには「睡眠ポリグラフ検査」という検査を実施する必要がありますが、1泊入院する必要があることや、どこでも実施できる検査ではないのが問題です。そこで、簡便な質問紙票が作成されており、それらを使った診断も妥当であることが確認されています。たとえば、「今までに3回以上、睡眠中に夢内容と同じ行動をすることがありましたか(殴る、腕を振り回す、叫ぶ)?」といった質問に答えていってもらい、合計点で判定していく形です。また、レビー小体型認知症パーキンソン病に準じて、MIBG心筋シンチグラフィという画像検査を行うことや、頑固な便秘・嗅覚障害がないかどうかを調べることも診断の参考となります。

まず、レム睡眠行動障害は、飲酒やストレスが蓄積すると悪化する傾向がありますので、生活習慣を見直します。また、症状が軽度の場合、必ずしも治療する必要はありません。

  1. 異常行動により、患者あるいはベッドパートナーが怪我を生じる可能性がある場合
  2. 睡眠が妨げられる場合

以上が治療対象となります。まず1.の場合、怪我に至らないよう寝床の周辺の環境を整備します。具体的には、危険につながるような物品を片づけたり、クッションを置いたりして予防を行います。その上で、2.も考慮して薬物療法について検討します。
薬物療法で第一に選択されるのはクロナゼパムというお薬ですが、高齢者である場合や睡眠時無呼吸症候群を併発している場合には、ラメルテオンなど他の薬の処方が検討されます。

レム睡眠行動障害パーキンソン病レビー小体型認知症などの前触れであると言うこともでき、これらの疾患を早期に診断するためにも注目すべき、重要な症状です。ただし、レム睡眠行動障害を発症してからこれらの疾患を発症するまでに数十年かかる例もあり、今、レム睡眠行動障害になってしまったからといって、必ずしも近い将来パーキンソン病やレビー小体型認知症を発症するわけではありません。

一般的に、レム睡眠行動障害の症状は長期に及びます。ですから、その長い期間にわたって治療を行っていく過程で、これらの疾患を予防できる可能性もあると私は考えています。数多くの医学的知見が集積しつつある現在、これからの根本的な治療法の開発を期待したいところです。

記事1:レビー小体型認知症とは?
記事2:レム睡眠行動障害とは?

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