インタビュー

糖尿病性腎症の治療─重症化しないための予防方法とは?

糖尿病性腎症の治療─重症化しないための予防方法とは?
山田 祐一郎 先生

秋田大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝・老年内科学教授 診療科長

山田 祐一郎 先生

糖尿病性腎症は血糖値のコントロールや血圧が非常に重要で、血圧が高いと腎臓が悪くなりやすく、ほかにも肥満、喫煙などの要素が重なって起こりやすいのではないかと考えられています。糖尿病性腎症が悪化した場合、透析が必要となります。では、糖尿病性腎症を悪化させないための予防ではどういったことを行えばよいのでしょうか。秋田大学医学部付属病院、山田祐一郎先生にお話を伺いました。

糖尿病性腎症の治療について

透析治療設備

糖尿病性腎症の病期ごとの治療法

糖尿病性腎症の治療では、基本的にどの病期でも血糖コントロールと血圧コントロールが重要になってきます。

糖尿病性腎症の病期は1~5期に分類されます。(記事1『糖尿病性腎症とは? 病期ごとの症状と原因について』)糖尿病性腎症の2期以降では、薬物療法としてアンジオテンシン変更酵素阻害薬(略称ACE阻害薬(血圧をさげる薬)や、アンジテシオンⅡ受容体拮抗薬(略称ARB(血圧をさげる薬)を使う治療が進められています。

日常生活でも注意すべきことはいくつかあり、たばこを控える、肥満の解消が重要です。生活習慣を改善することが糖尿病性腎症の治療につながっていきます。

糖尿病性腎症の治療の流れと目的

・1期

糖尿病腎症が起こる直前の段階なので、発症のリスクを減らすことが目的になります。糖尿病、高血圧、たばこ、肥満の改善を主に行います。

・2期

腎臓が少し傷みだしているので、血糖コントロール、血圧のコントロールをさらにしっかりと行い、ARBやACE阻害薬を使用した薬物治療を行っていきます。それでも下がらない場合はさらに降圧治療を進めていくこととなります。その際にカルシウム拮抗薬を使っていく場合があります。血圧がなかなか下がらない方は、塩分摂取が多いなどの要因が考えられるため、食事面で減塩を心がけていただきます。

・3期

血糖コントロール、血圧のコントロール、たばこや肥満の改善を継続して行っていきます。食事では肉や魚のタンパク質を減らすことが必要となってきます。

・4期

3期の治療と同じことを行います。透析治療を遅らせることが必要になってくるので、食事面ではタンパク質をさらに制限します。

糖尿病性腎症の治療の注意点は原因をはっきりさせること

患者さんのなかには糖尿病以外の原因で腎臓の働きが悪化している場合があります。血尿は糖尿病性腎症ではほとんどありませんが、網膜症などがないのに腎臓がどんどん悪くなっていっている場合は、糖尿病以外の原因で腎臓の働きが悪化しているのではないかと考えられます。

他の原因で糖尿病性腎症をきたしているのであれば、その原因に対する治療で腎臓を改善させたほうがよいので、腎生検(腎臓の組織の一部を採取し、顕微鏡で観察する)をする場合があります。一般的な糖尿病による悪化であれば、腎生検をする施設はあまり多くはありません。

透析治療の仕組みとメリット・デメリット

5期に進行した患者さんには、透析治療が行われます。(詳細は記事1『糖尿病性腎症とは? 病期ごとの症状と原因について』をご覧ください。)

血液透析の場合は週に3回ほどが標準で、1回あたり5~6時間ほどかかります。

透析は非常によい治療ではありますが、大変な治療でもあります。

透析を行う場合は、ある程度食事を摂ったほうがよい面もあるので、私も患者さんに食生活を変えたほうがよいとお話ししていますが、腎機能が悪くても血糖コントロールが非常に悪い方は少なく、インスリンを打つと低血糖になってしまう方もいます。

また、透析によって心筋梗塞や足の壊疽(えそ)、動脈硬化が進む方がいらっしゃるため、こうしたケースへの対応が今後の課題となっています。

また、血液透析のほかに、腹膜透析を行っている施設もあります。腹膜透析に使用する液には糖の成分が入っているため、血糖コントロールを悪化させる可能性があります。加えて、腹膜透析は感染が起こりやすく、腹膜炎などが起こる場合が考えられます。

腹膜透析をうまく行っている施設ももちろんありますし、血液透析のように週に何回も拘束されることがない点は腹膜透析のメリットと考えられます。

血液透析は病院ですべて管理していますが、腹膜透析はすべて自宅で行います。自宅で管理体制が整っていればよいのですが、現実的には自宅での管理が難しいため、本邦では血液透析の割合が多くなっています。

糖尿病症腎症の予防について

糖尿病性腎症の重症化を防ぐためには日常的な血糖・血圧コントロールを

血糖も重要ですが血圧や脂質、肥満を解消すること、たばこをやめることなどを含めて、生活を自分自身で改善していくことが、糖尿病性腎症の予防に非常に大きくつながります。

現在、年間1万人以上の糖尿病性腎症の方が新たに透析治療をしているのではないかと考えられています。

糖尿病性腎症による透析治療の導入数は年々増加していましたが、最近では横ばいになってきています。しかし、糖尿病の患者さん自体は増えてきています。そのなかで透析になる方が減ってきている理由は、日常的な血糖コントロールや血圧などがしっかりと行われるようになってきたからと考えられます。しっかりと血糖や血圧がコントロールできていれば糖尿病性腎症が悪化する可能性は高くありません。ですから、早い段階でしっかりと治療することが重要です。

繰り返しになりますが、糖尿病初期はまったく症状がない時期なので、自分の病気がよくなったように感じ、病院にこなくなってしまう方がいます。しかし、初期からしっかりと血糖や血圧に気をつけていれば糖尿病の悪化も、糖尿病腎症の発症も防ぐことができますし、初期の段階でしっかりと予防を行えば、最終的に透析に至るケースも減らせます。

また、糖尿病の患者さんには正常に近い腎臓の方から、腎臓の機能が悪い方までいるので、それぞれに合った治療をすることも重要になります。

糖尿病性腎症の重症化予防は国の施策にもなっています。糖尿病腎症では5期が透析治療の適応になりますが、透析は時間的拘束や医療費の負担などの問題があるため、2~4期において5期に進まないように重症化予防を行っています。1~2年後には、各都道府県で重症化予防の取り組みがされると考えられます。

運動は糖尿病性腎症の予防に効果的?

走っている画像

2期までは通常通り運動を行っても問題ありませんが、4期以降に進行した場合は運動をすると、かえって病態が悪化する恐れもあるので注意が必要です。

山田祐一郎先生からのメッセージ

糖尿病、糖尿病性腎症は、症状がない時期から少しずつ悪化していきます。これらの疾患の悪化を防ぐためには、食事や運動、血糖値、血圧などを含めて長く病気と付き合っていただくことが最も重要です。生活習慣病の患者さんは、たとえば1週間の入院中は規則正しい生活習慣で生活することができますが、帰宅後に生活習慣が乱れるかもしれません。病気と付き合う気持ちで日々生活習慣を整えることで、糖尿病性腎症の進行抑制につながります。

まずは患者さんに健診を受けていただくことが大事です。糖尿病予備軍の方の場合、健診で指導を受けても症状がないために放置してしまう方が多いのですが、精密検査を受けるよう指導があった方は、ぜひ検査を受けてみてください。健診の結果に異常がある場合は精密検査を行い、糖尿病性腎症と診断された場合は早く治療をすることで、重症化の予防が可能だと考えます。

食事療法や運動の程度など、自身にとって最適な生活習慣を身につけるために何ができるのかを医師と相談して考え、糖尿病や糖尿病性腎症を予防していきましょう。