概要
網膜症とは、眼球の奥に存在する網膜に何らかの障害が生じ、視界のかすみや視力の低下といった症状を引き起こす病気の総称です。網膜症には、糖尿病網膜症や未熟児網膜症、高血圧性網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症などのさまざまな病気があります。2019年の全国調査によると、糖尿病網膜症は日本人の失明原因の第3位です。また、未熟児網膜症は子どもの失明原因の第1位で、約40%を占めるといわれています。
原因
網膜に障害が起こる原因は病気によってさまざまですが、代表的なものとして糖尿病に関連して起こる糖尿病網膜症があります。
糖尿病を発症し血糖値が高い状態が続くと網膜に広がる毛細血管に負担がかかり、血流が悪くなります。血流が悪くなると網膜に酸素を運べなくなるため、“新生血管”という血管が作られます。新生血管はもろいために出血しやすく、網膜出血や網膜剥離などを引き起こす可能性があります。
また、網膜症は出産予定日より早期に生まれた赤ちゃんにみられることもあります(未熟児網膜症)。網膜を走る血管は妊娠30週頃に完成します。しかし、これよりも早い週数で生まれた赤ちゃんは、網膜の血管が枝分かれしたり異常な方向に増殖したりすることがあります。未熟児網膜症は在胎週数が少なく出生体重が小さいほど発症率が高く、重症化しやすいといわれています。
そのほかにも、高血圧性網膜症は高血圧による毛細血管の損傷、中心性漿液性脈絡網膜症はストレスなどが発症に関係していると考えられています。
症状
網膜症では、視力低下や視界のかすみ、ゆがみなどの症状が現れます。しかし、発症初期には自覚症状がなく、ある程度進行してから症状を自覚するケースも少なくありません。
網膜症が重症化すると、網膜剥離や硝子体出血などの重篤な合併症を発症する可能性があります。その場合、視野の欠損や飛蚊症(糸くずや蚊のようなものが見える)、光視症(視野に一瞬光が走る)、重度の視力低下などがみられ、治療をせずに放置すると最終的に失明する場合もあります。
検査・診断
網膜症の種類によって実施する検査は異なりますが、一般的に眼底検査を行います。
眼底検査は、眼底カメラを使い瞳孔から網膜や血管、視神経といった眼底の状態に異常がないか詳細に確認する検査です。場合によっては点眼薬を投与して瞳孔を広げます。
糖尿病網膜症の検査では、眼底検査に加えて蛍光眼底造影検査、OCT(光干渉断層計)検査も行います。
蛍光眼底造影検査は腕から造影剤を注射して眼底カメラで網膜血管を撮影する検査で、網膜血管の状態などを調べることができます。OCT検査は眼底に弱い赤外光を当てて、網膜の断面像を確認します。糖尿病網膜症の合併症である黄斑浮腫の診断や経過観察に有用です。
治療
網膜症の治療は、網膜症の進行度や原因などによって決定します。
レーザー治療
専用レンズを使用してレーザー光を照射し、網膜の一部を凝固させる治療方法です。新生血管が発生するのを防いだり退縮させたりする効果が期待できます。一般的にレーザー治療は外来で治療が可能で、点眼麻酔を投与して行います。
硝子体手術
局所麻酔のうえ、目の中に0.5mm程度の非常に細い機器を挿入し、異常が生じた硝子体を切除する手術です。硝子体出血や網膜剥離が発生しているなど、網膜症が進行している場合に行われることもあります。
薬物療法
糖尿病網膜症や未熟児網膜症には抗VEGF薬という注射薬が使用されることもあります。VEGFという物質が新生血管の増殖などに関係していると考えられており、VEGFのはたらきを抑制する薬を使用することで病気の進行を抑えることが期待されます。
生活習慣の改善
基礎疾患などが原因で起こる場合は、原因疾患を悪化させないよう生活習慣の改善も欠かせません。たとえば糖尿病網膜症の場合、運動療法や食事療法、薬物療法で糖尿値を適切にコントロールすることが重要です。
ストレスなど生活習慣の関与が指摘されている中心性漿液性脈絡網膜症は、ストレス管理や適度な運動、十分な睡眠など、生活習慣の改善が有効とされています。軽症であればこのような対処で回復が期待できますが、ある程度進行している場合は早期に治療を受けることが大切です。
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