糖尿病患者さんにとって、食習慣の改善は非常に重要な治療法のひとつです。東京慈恵会医科大学教授 糖尿病・代謝・内分泌内科 診療医長の横田邦信先生は、糖尿病の進行を防ぐため、あるいは糖尿病を予防するにあたって、食事の内容・調理法・食べ方に工夫をすることが重要だとおっしゃいます。糖尿病のための食習慣について、『糖尿病やメタボリックシンドロームを予防するために大切なこと』に引き続き横田先生のご研究に基づいたお話をしていただきました。
『マグネシウム不足で糖尿病リスクが上がる。マグネシウムと糖尿病の深い関係』で述べた通り、糖尿病は、生活習慣病のひとつです。放っておくと、糖尿病網膜症となって失明したり、糖尿病腎症から腎不全に陥り人工透析が必要となったり、糖尿病神経障害によっては、最終的には手足を切断しなければならなくなる危険性もあります。
しかし糖尿病は、生活習慣を改善することで進行を大幅に防ぐことが可能です。私が提唱する、生活のなかで気をつけるべき3つの「習慣」は、以下の3点です。
●食習慣
●睡眠習慣(十分で良質な睡眠をとること)
●運動習慣(適度な運動をおこなうこと)
食事のポイントは多岐に渡ります。糖尿病だからといって、単純に糖質をゼロにすればいいというものではありません。極端な食事制限は栄養失調を招き、体にとってむしろ悪影響を及ぼします。バランスや量など、全体的に見直しましょう。
●エネルギー量を適正に
適正なエネルギー量は、年齢や性別、日常生活でどれだけ運動するか(生活運動指数)で異なります。まずは自分の適正エネルギー量を知り、基準値を超えないように注意する必要があります。
●食事の内容はバランスを意識
日々の食事では5大栄養素をバランスよく摂ることが大切です。ただし、脂肪分は総摂取カロリー全体の25%以下に抑えましょう。
●主食の選び方
糖尿病を予防するミネラル(マグネシウム)を積極的に摂取するためには、主食の選び方が何よりも大切です。
主食となるパンやごはんを選ぶ際は、全粒のものや非精製のものを意識的に選択しましょう。特に非精製のもの、全粒のものにはマグネシウムが多く含まれています。
●食品数を多く摂る
食事で摂る食品数はなるべく多くしましょう。なかでも穀物以外に食物繊維が豊富な食品(野菜、海藻、きのこ類など)や、マグネシウムを多く含む緑黄色野菜、豆類、魚介類などは特に糖尿病患者さんにおすすめの食材です。
●肉よりも魚を
肉よりも魚を多く食べるようにしましょう。摂取ペースは週4日以上が目標です。そうすることでマグネシウムを少しでも多く摂ることにつながります。
●牛乳、コーヒー、紅茶を毎日摂る
●和の食材を選ぶことで、減塩効果も期待できる
かつお節や昆布などは和食に多く用いられる食材です。これらの「旨味」をうまく利用することによって、塩分を控えめにしてもおいしく食べられます。
食材を選んだら、次は調理です。調理の際にも少し気をつけることでヘルシーかつ健康的な食事を作ることができます。
●野菜を洗うタイミングは切る前
野菜は切る前に洗いましょう。切ってから洗ってしまうと、ビタミンやミネラルの流出につながります。せっかくマグネシウムなどの成分を多量に含んだ食品でも、流出してしまっては意味がありません。
●茹でる・蒸す・焼く・煮るを基本に調理する
同じ食材でも、調理法によってエネルギー量が変化します。油を多く使う炒めものや揚げ物は避け、茹でる、蒸す、焼く、煮るといった調理方法を実践しましょう。また、野菜の煮汁には栄養分が多く溶け込んでいるため、なるべく捨てないように気を付けましょう。
●調味料を上手に利用
塩・砂糖はなるべく少なくしましょう。味が濃いと、ご飯が進んで食べ過ぎてしまうためです。たとえ未精製の穀物であっても、食べ過ぎは注意が必要です。砂糖や塩を使う際は、非精製砂糖、粗塩を使うことが望ましいです。
食事の摂り方にもポイントがあります。タイミングや量に気をつけて食べましょう。
●リズムを整える
1日3食または2食摂るようにします。ただし、朝食を抜くのはNGです。朝食はしっかり食べ、夕食は軽めにします。また、遅い時間の夕食、寝る前の間食は避けましょう。
一度の食事は満腹になるまで食べるのではなく、腹八分目を心がけます。朝食を多めにして夕食を軽くすると、1日の総食後血糖値が下がるという研究結果もあります。「朝ごはんはしっかり」食べることがポイントです。
●節酒
お酒は日本酒に換算して1日1合弱までに抑えましょう。
●使うお椀・皿を小ぶりに
とくにご飯などの主食類は、小さめのお椀に入れましょう。大きいお椀に少ししか入っていないと寂しくなりますが、お椀自体を小さくしてしまえば気になりません。
●懐石料理の順番で
GI値(食品が体内で糖に変わる速さを数値化したもの)の高い食品は後で食べるようにします。逆に、野菜や海産物、きのこ類から食べ始めるのがおすすめです。懐石料理のように、汁物や野菜類から食べるイメージを持つとわかりやすいです。
●味わってよく噛む
噛むことによって、満腹中枢が正常に機能し、食べ過ぎを防ぐことができます。さらに消化管ホルモンであるインクレチンが分泌され、グルカゴン分泌抑制されインスリン分泌が促進されます。
お料理のレシピは、『糖尿病なら「これ」をすぐに食べなさい!レシピ(主婦の友社)』をご参考にしてください。
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 認定内科医日本医師会 認定産業医
東京慈恵会医科大学・同大学大学院卒業後、富士市立中央病院内科医長、横須賀北部共済病院内科部長、東京慈恵医科大学准教授、同附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長、同大学医療保険指導室長、同大学教授(大学直属)を経て2017年定年退職し現在東京慈恵会医科大学客員教授、糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。糖尿病や生活習慣病にはマグネシウムが深く関係しているという観点から、医学的に糖尿病やメタボリックシンドローム発症のメカニズムや治療法を説く。日本社会全体に貢献している医師の一人。(横田先生が共同設立してマグネシウムに関する新しい情報を提供している(MAG21研究会):http://mag21.jp/ )
横田 邦信 先生の所属医療機関
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