国民の健康にとって課題の1つとなっている糖尿病。国立国際医療研究センター 糖尿病情報センターでは、国の方針に基づき、糖尿病に関する情報を多くの方へ発信しています。糖尿病が起こる背景やそのメカニズムについて、国立国際医療研究センター病院 副院長 梶尾 裕先生に分かりやすくご解説いただきました。
2型糖尿病の発症に関わる因子は、遺伝的因子と環境因子の2つに大きく分けられます。
遺伝的因子とは、遺伝子が持っている遺伝的な情報の違いによるもので、血糖値を下げるはたらきをするホルモンであるインスリンが出にくい性質を遺伝的に受け継いでいることで発症します。環境因子とは、食べすぎや運動不足による肥満などの生活習慣によるもので、インスリンが出ていても十分に血糖値を下げることができなくなります。
極端な肥満でも糖尿病ではない方がいることからも、糖尿病の発症には環境因子だけでなく遺伝的因子が関係していると考えられます。一方、日本人の場合、近年は生活様式の変化など環境的な要因が大きくなることによって、糖尿病患者数が増えています。また、日本から欧米圏などに移住した移民の方たちでは、日本に住んでいる方に比べて糖尿病の罹患率が高いということも分かっています。このように環境の面での影響が大きな意味を持ちます。人それぞれに持って生まれた性質が遺伝的因子によってある程度決まっていて、そこにさまざまな環境因子が加わり、その方のその時々での体の状態が決まってくるのです。
このように、2型糖尿病は、遺伝的要因に環境要素が重なることで発症すると考えられます。
また、若いときは遺伝的な情報が正常に機能していても、それが十分に発現しなくなるなど正常にはたらかないといったことが、いわゆる“老化”に伴って増えてきます。そのため、体のさまざまなはたらきが低下するのと同じように、膵臓からのインスリンの分泌も減少していきます。
インスリンは膵臓の中のランゲルハンス島という部分にあるβ細胞で作られています。1型糖尿病は自己免疫*でβ細胞が壊れることによって、インスリンが作れなくなってしまうことが原因で起こります。なぜそういうことが起きるかというメカニズムについては一部が明らかになっており、遺伝的な背景も関係していると考えられています。
また、緩徐進行1型糖尿病や劇症1型糖尿病といった、急性に発症する1型糖尿病以外にもタイプがあることが分かってきました。ヒトの免疫に関わる白血球の型であるヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)は人によって少しずつ異なるという特徴があり、その違いが1型糖尿病に関わっていると考えられています。このほか、近年ではエンテロウイルスなどの関与も指摘されています。
*自己免疫:自分自身の体の一部であるにもかかわらず、自分の体ではない“異物”と認識して自らを攻撃してしまうこと。
糖尿病の症状として、喉が渇いて水をよく飲む、尿の回数が増える、体重が減る、疲れやすくなるなどの症状が挙げられます。しかし、すぐにこれらの高血糖による症状が現れるわけではありません。個人差はありますが、糖尿病の状態が進行して血糖値が大きく上がったときに症状が現れることが多くなります。一方、慢性的な合併症の症状はなかなか出てきません。
では、血糖値が上がるとなぜこのような症状が起こるのでしょうか。私たちの体の中で起こっていることをご説明します。
血管は脳やそのほかの臓器など、体のさまざまなところに水分や栄養などを運んでいく通り道です。糖が増えて血液中の糖濃度が濃くなると、濃くなった血液を水分で薄めようとする力がはたらき、周囲の組織から血管の中に水分がどんどん引き込まれて、最終的には尿として排出されてしまいます。喉が渇いて水をよく飲む、尿の回数が増えるなどの症状は、いずれもこのような理由によって起こります。
また、体の中でエネルギーとなる糖が十分に行き渡らないと体を動かすことができなくなってしまいます。体のだるさを感じたり疲れやすくなったりするのもこのためです。
急にインスリンが多く必要になったり、逆に出なくなったりすると血糖コントロール不良となり、糖尿病の症状が急激に悪化することがあります。
体の中で糖が使えないと、代わりに脂肪がエネルギーとして使われるようになり、脂肪を分解してエネルギーを作り出すときにケトン体という酸ができます。ケトン体が増えると体が酸性に傾いていきます(アシドーシスといいます)。極端なインスリン作用不足によって、脱水に加えてアシドーシスが進行した状態が糖尿病ケトアシドーシスです。
糖尿病ケトアシドーシスが悪化すると、意識障害を起こすことがあります。
糖尿病ケトアシドーシスのように糖尿病の症状が急激に悪化するケースは、インスリンの分泌不足で血糖値が下がらないことによって起こることが多く、1型糖尿病の発症時やインスリン注射ができなかったときなどに多くみられます。
2型糖尿病の場合でも、重度の感染症や手術など大きく侵襲(体などへの負担)が加わるようなときや大きなストレスを受けたときには、コルチゾールなどの血糖値を上げるはたらきを持つホルモンが出てくることによって過剰なインスリン作用不足が生じるため、血糖値が上がり、急激に症状が悪化します。著しい高血糖と極度の脱水によって意識障害を起こすことがあります(高浸透圧高血糖症候群といいます)。
膠原病などの治療でステロイド薬をたくさん使うと血糖値が上昇する方もいます。そのほか、一部の向精神薬やがん治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬などでも、1型糖尿病の発症がみられるようなケースが報告されています。
糖尿病の慢性合併症は血管の病気です。脳卒中や心筋梗塞などの大血管症と、網膜症、腎症、神経障害などの細小血管症に大きく分けられます。
血糖値が高ければ高いほど、またその状態が長く続くほど大血管に悪影響を及ぼし、動脈硬化症である心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、足病変などがみられます。
高血糖が続き、目の組織、特に網膜に栄養や酸素を行き渡らせている細い血管が傷つき、ひどくなると出血や剥離が起こります。進行すると失明に至る恐れがあります。
神経障害の症状としては、手先や足先にしびれや異常感覚などが起こります。神経は脊髄から体の末端へ向かって長く伸びているため、神経を取り巻いて栄養を与えている細い血管の血流が悪くなったとき、その距離が長ければ長いほど障害を受けやすくなるからです。
腎臓も糸球体と呼ばれる毛細血管の集まりからできている臓器であるため、血管の状態が悪くなることで腎臓の機能が障害されます。
糖尿病の進行において、どの段階でこれらの障害が起きてくるのか、また血糖値をどの範囲に維持しておくと糖尿病合併症が起きないのかということが、研究によってある程度分かるようになってきました。J-DOIT3(Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment study for 3 major risk factors of cardiovascular diseases)という研究は、日本で2型糖尿病の方を対象に、生活習慣改善に加え、高血圧や脂質異常症や肥満といった危険因子の改善を図るために、必要に応じてさらに強力な薬物治療を行うことによって糖尿病合併症である脳梗塞や心筋梗塞を抑制する方法を明らかにしようというものです。その結果、従来よりも厳しい目標を目指した治療により、合併症をさらに抑えることができることが分かりました。
糖尿病の進行に伴う症状の急激な悪化や合併症を防ぐためには、糖尿病が悪くなりやすいリスク要因を十分に理解し、定期的に検査して血糖値をチェックしておくことが大切です。次のページでは、糖尿病の検査について解説します。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科 非常勤
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